第3話-出口と小考察
……あれから、しばらくたった。
どこだかわからない廊下を、ひたすら突き進む。
それだけでも、精神的にくるものがある。
だが、脅威はそれだけではない。
道のりは容易ではなかった。
あそこでスライムに会ったのがマズかったのか。
それを皮切りにモンスターが出るわ出るわ。
やたらと襲いかかってきた。
しかも、出てくるモンスターは、でかいし、ゴツイ。
ファンタジーのモンスターも、
実際に見るとこんなもんなのか?
否が応にも戦闘に慣れてきた。
道も入り組んできたので、
倒せそうにない奴は、物影や周り道でやり過ごし、
倒せそうな奴は、不意打ちを仕掛ける。
ほとんど一撃で倒せた。
倒すたびにモンスターへの恐怖は無くなっていく。
ただし、必要以上の無茶はしない。
何故かって?
それは、不注意で転んだことが切っ掛けだった。
……すり傷が、痛かったんだ。
いや、違う。
勘違いしないでほしい。
いくら俺でも、すり傷くらい我慢できる。
問題は、「傷が痛い」ということにある。
感触がリアルなゲームだから、
それぐらいは当たり前なのかもしれない。
しかし、俺は回復アイテムを持っていないのだ。
この痛みが比例するならば、
深手を負ったらショック死しかねない。
少なくとも、ひ弱な俺は十分死ねる。
だから無茶はしてはいけない。
安全第一だ。
そんなことを考えながら、移動を続ける。
道が複雑な事もあって、既にかなりの時間うろうろしている。
未だ、出口はない。
恐怖心が無くなるにつれ、
戦闘を保留してきたモンスターとも戦った。
逃げてばかりじゃ、先に進めない。
結果は……やはり一撃だった。
出てくるモンスターにもパターンがある様だ。
それほど種類は多くない。
ほぼ全種類を倒せることを確認した後は、
出会い次第、倒していく。
いくら勝てるとは言え、
挟み打ちになったり追ってこられたりしたらマズイ。
一撃で倒せるなら、倒しておくに限る。
作戦が功を奏したようで、遭遇率は徐々に下がる。
どうやら、再出現はしないらしい。
たっぷり迷ってヘトヘトになったころ、
ようやく明かりが見えた。
上の方に光源がある。
どうやら、階段になっているようだ。
トン…トン…トン、と力を振り絞って昇っていく。
やっと出られた外は、夕方になっていた。
「はぁ、空気がうまい……」
時計は無いから分からないが、体感時間は10時間以上だ。
喉も渇くし、腹も減る。
手を膝につけ、前かがみになって息をつく。
疲労困憊だ。
ちなみに、何度か「ログアウト」は試したが、
結果は同じ、無駄だった。
「さてと、外に出たのは、いいんだけど……」
やはり、そこは知らない場所だ。
見渡してみると、辺りは遺跡みたいな場所だった。
見た目はヨーロッパの遺跡。
それも、石を置いただけではなく、構造物の体を成している。
装飾も施されているから、文明の手が入っている。
俺が出てきたのは、ちょうど祠みたいな建物だ。
教科書やテレビでしか見たことがない場所。
苔の生えた階段や、崩れかかった柱が歴史を感じさせる。
観光で来たなら、まずまずの場所だったろう。
おっと、風景を見ている場合ではなかった。
やるべきことは山ほどある。
正直、疲労で何もやりたくないが、今の状況は放置できない。
さて、予定をリストアップするとこんなもんか。
1 状況の考察
2 情報の調達
3 食料の調達
2は……ちょっと、ここでは無理だ。
やはり町にいき、他のプレイヤーを探すか、
チュートリアルでも探すしかない。
3も……どうしようもない。
確かに、腹は減っている。
しかし、そもそも、この空腹が「現実」のものか
「ゲーム」のものかも分からない。
果たして「この場所」で、食料調達して解決する問題なのか?
このまま町を目指してもいいが、方角もわからない。
それに、夜道を歩くのも危険だろう。
どっちにしろ、2と3は後回しだ。
残るは、状況の考察か。
ちょうどいい、ここらで少し、考えをまとめておこう。
この辺はモンスターも居なそうだし、
トラブルが起こったときは、慎重に対処すべきだ。
議題は、「ここはどこか?」だな。
考えられるパターンは、(1)現実、(2)ゲームだ。
まず、仮にここを「現実」としてみよう。
この場合、説明できない点は…
①周りの状況からして、日本ではない可能性が強い。
②爺さんの部屋からの移動が、あまりに短時間。
③モンスターや倒したときの消え方。
④ドロップアイテムの存在。
……ぐらいだな。
では、ここはVRゲームの中か?
この場合も不可解な点が多すぎる。
①長時間立つのに「ログアウト」できない。
②不具合についてGM(運営)から、何の連絡もない。
③感触がリアルすぎる。
④肉体的な疲労を感じる。
そして……
⑤なによりゲームをした記憶がない。
俺はVRゲームを始めた記憶は無いし、
葬式の日に寝ている俺にゲームをさせる意味もない。
しかも、爺さんの家に居たのは、おっさん、おばさんばかりだ。
悪戯でVRゲームをさせる様な人もいない。
そもそも、爺さんと婆さんしか住んでいないあの家に
VRの機材が揃っているか?
つまり、ゲームというのも納得できない。
ここまで考えて、ようやく俺は自分の考えが安易だったと気付く。
「現実」説よりは説明し易いが、「ゲーム」説だって不完全なのだ。
町へ行ったって、プレイヤーはおろか、
チュートリアルさえ無い可能性の方が高い。
適当にゲームと決めつけていたが、
本当はもっと深刻に悩むべき事態に遭遇しているのではないか?
そう考えると、胸が締め付けられた。
鼓動が少し早くなる。
いや、焦るな。
そうだ、少し視点をずらしてみよう。
上の2つが否定されるとなると、残るは第3の可能性……
一番ぶっ飛んだ考えだが、現時点で成立つ最有力な考えがある。
ここが「現実」であって、俺の知る「現実」ではないこと。
いわゆる「異世界」と言う可能性だ。
深刻に考えてそれかよ!? とか突っ込まないでほしい。
この考えなら、(1)(2)両方の不都合を説明できるのだ。
少なくとも可能性として考慮する価値はある。
もちろん、異世界と言っても、俺の知る「現実」の過去、
未来という可能性もあるし、全く別の世界という可能性もある。
しかし、この考えに従う場合、
最終的には、この問題に突き当たるだろう。
そう、重要なのは「帰り方」。
俺の知る「現実」や「ゲーム」とは違い、
ここから出る方法が明確ではない。
そして、その問題は、裏を返せば……
「どうやって異世界に来たか」を考えるということだ。
まず、認めたくは無いが、俺の自身が原因である可能性がある。
異世界もののテンプレ。
転生や精神体の移動によって異世界へ。
現実では死亡、もしくは植物状態なんてオチだ。
この場合、帰るのは絶望的だし、帰りたくもない。
次に、何らかの作用が働いた可能性。
次元の裂け目や、召喚魔法による移動。
こちらも異世界もののテンプレだ。
この場合、厄介なのは、
現時点で作用が偶然か仕組まれたものか分からないこと。
偶然の場合、最悪、帰るチャンスは何百年後とかありうる。
俺としては、後者の場合であってほしい。
「はぁぁ……」
ため息をついて、考えるのを止めた。
状況はあまり良くない。
しかし、現状で俺に考えられるのは、この程度だ。
足りない情報が多すぎる。
「……当面は、なるべく情報収集するしか無いか」
プレイヤーやチュートリアルを探すだけが町に行く目的じゃない。
そういえば、食料も調達しなきゃいけないんだった。
ここが異世界だとしても、入った以上、出口はある。
例え、それがどんな方法だとしても、だ。
また、情報を集めれば、違った可能性も見えてくるだろう。
「やっぱり、明日は町を探そう」
そろそろ、人が恋しくなった。
俺はそう決めて、とりあえず夜を明かす準備を始めた。
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名前 新原 英治 (へたれ・さみしがり) ←NEW!
装備
略
強さ
???
スキル
【考察】 ←NEW!
ゴミ箱
略
持ち物
略
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