幕 -ほの暗い闇の底から
ヨハ姉さんの目撃録より
わたしはまた、一匹の魔物がそこから上って来るのを見た。
これには巨大な頭があり、身体は無かった。
その頭には王冠があり、身体は金属で覆われていた。
わたしが見たこの魔物は、あの魔物に似ており、足はなく、口はうす笑いを浮かべていた。
……それは、地の底から生まれた。
放置されたものの怨念はすさまじい。
不意に命を絶たれた未練が籠ったそれは、あるとき活動をはじめた。
ぐじゅり……
ぐじゅり……
ヘドロが地を這うような不快な音をたてながら……
長く薄暗いその場所を徘徊する。
それは、ほの暗い闇の底から、やってくる。
活動を始めたそれの周りには、同じような怨念の欠片が散乱していた。
ここには、もはや、生者はいない。
それは、ほの暗い闇の底から、やってくる。
あなたは知っている。
この怨念の正体を。
墓場にふさわしい、おどろおどろしい音。
ぐじゅり……
ぐじゅり……
混ざり、結びつき、まとわりつく。
幾重にも幾重にも重なったそれは……
より巨大に、より強靭な身体を手に入れる。
それは、ほの暗い闇の底から、やってくる。
眼を背けてはならない。
考えなければならない。
怨念の正体は何か。
どうして、それは生まれたのか。
それは、ほの暗い闇の底から、やってくる。
ある1人の男の失敗によって生み出された魔物。
男は知らない。
自分が犯した重大なミスを。
自らの身に危機が迫っていることを。
それは、ほの暗い闇の底から、やってくる。
そして、後悔するのだ。
あのとき、なぜそうしなかったのかと。
それは、ほの暗い闇の底から、やってくる。
それは、ほの暗い闇の底から、やってくる。
それは、ほの暗い闇の底から、やってくる。
それは、ほの暗い闇の底から、やってくる。
ほの暗い闇の底から。
ほの暗い闇の底から。
ぶよん、ぶよん、と跳ねながら。