第34話-炎の神殿上
翌朝、俺たちはアインに呼ばれ、昨日の応接間に集まっていた。
「どうしたアイン。
こんなところに皆を集めたりして」
出されたお茶を飲みながら俺がアインに問う。
「いや、剣をなおすのに ちと重大な発表があってな……」
アインもお茶をすすりながら話をする。
「発表ってなんですか?」
ライクちゃんがアインに問う。
「うむ、知ってのとおり、わしは【神鉄の巫女】じゃ。
とうぜん、【神鉄】をあつかえる技術はある……」
アインが、茶をテーブルに置きながら答える。
カチャ、とカップが音を立てる。
「じゃが、あつかうのが【神具】となれば話は べつじゃ。
【神具】を きたえるには、やはり【神具】が ひつようじゃ」
アインが持って回った言い方をする。
なんだ、ここまで来てまだ修理には何か必要なのか?
「ダイヤを削るにはダイヤ」みたいに言われても俺には理解できない。
しかし、困惑する俺をそっちのけに、アインの話は続く。
「そこで、わしは『炎の神殿』にいって……
【神槌・火炎槌】を てにいれようと思うのじゃ……」
アインが思い切った様に打ち明ける。
マリーさんとライクちゃんは何か驚いているようだ。
雰囲気からアインが重大な決断をしたということはわかる。
だが、さっきから、俺には話がさっぱりだ。
そう言えば……
炎の神殿? 「光の遺跡」みたいなものか?
確か「光の神殿」っていう言葉も、散々出てきたな。
「なぁ、アイン。
炎の『遺跡』じゃなくて、炎の『神殿』なのか?」
俺も茶を置きながら、アインに質問する。
アインの代わりにライクちゃんが教えてくれる。
「『神殿』が攻略されると【ダンジョン化】が解けて『遺跡』になるの。
遺跡には【神具】を守る【神獣】がいるんだよ」
「しんじゅう?
それはモンスターより強いの?」
「はぁ……
おぬし、ほんとになにも知らんのじゃの。
【神獣】は ほかの まもの なんかとくらべものにならん」
「確か、『炎の神殿』には……
火属性最強の『フレア・コング』が居るはずですね」
なるほど、爺さんが攻略したせいで「光の神殿」は「光の遺跡」になったのか。
それに神殿には【神獣】と呼ばれるボスキャラが居るらしい。
「あれっ? でも、なんで、まだ『炎の神殿』なんだ?
だれも今まで攻略してないの?」
【神具】というレアアイテムが手に入るのだ。
いくらボスキャラが居ても、他の冒険者や盗賊がこぞって挑戦するだろう。
すでに神殿が攻略されていてもおかしくはないはずだ。
「それはですね……」
今度は、マリーさんが説明してくれた。
「神殿の攻略難易度は、とんでもなく高いんですよ。
ダンジョンの出入り口は1つしかありませんし。
たとえ熟練の冒険者でも、とても攻略なんてできません。
ノーレッジ様でも、相当にレベルを上げ……
何度も、何度も、繰り返し挑戦して、やっと攻略したと聞いています」
「へぇー」
爺さんも頑張ったんだな。
しかし、チート級のレアアイテムを狙う辺り、ゲーマーの爺さんらしい。
伝説のアイテムを守るボスキャラとダンジョン
まぁ、ありがちな設定だ。
おそらく、爺さんも俺と同様、過去にこの世界に来たことがあるのだろう。
「英雄」にも、そのときなったに違いない。
「ま、そういう わけじゃ」
アインが話をまとめに入ろうとする。
「炎の神殿」か……
確かに、なかなか大変な場所の様だ。
それで皆、アインが「炎の神殿」に行くと言ったとき驚いたのか。
だが、アインは俺のためにそんな危険を冒そうとしているのか?
ここまで来たからには、剣は直したいが……
そのためにアインを危険にさらすのは、あまりに申し訳ない。
よし!
ここはひとつ、VRゲームでの経験がある俺が提案をしようじゃないか。
「なぁ、要するに【火炎槌】ってのがあればいいんだろ?
別に、その【神獣】と戦う必要は無いじゃないか。
たとえば、マリーさんの召喚術をつかって……
ドリアードに遠くから取ってもらうとかさ」
「それは無理ですよ。
精霊は、召喚士の近く……
あるいは一番ゆかりがある場所しか召喚できません」
ふーん、これは無理か……
名案だと思ったんだがな。
まぁ、そうそう簡単にはいかないようだ。
だが、まだ策はある。
「それじゃあさ。
スキをみて、その【火炎槌】ってのだけ持って逃げちゃうとか?」
「それも むだ じゃ。
たおすか たおされるかしかない。
【神獣】は、どこまででも追ってくる……」
これもダメか……
まぁ、こんなアイディアぐらい誰でも浮かぶ。
他にも試した奴もダメだったんだろう。
その後も、色々と思いつくままに裏技めいたことを提案する。
しかし、結局上手く行きそうなアイディアはなかった。
「悪いな、アイン。
俺の剣の修理のために、そんな危険な場所に行くなんて……」
申し訳なく思い、俺はアインに頭を下げる。
しかし、アインは戸惑ったように答えを返す。
「は?
おぬし なに 言っとるんじゃ?
おぬしの剣を なおすんじゃ……
おぬしも 来るに決まっとるじゃろ?」
えっ? 俺もそんな危ない場所に行くの?
「まさか、エイジさん……
アインさんだけ 行かせるつもりだったんですか?」
「えー、なにそれ!
さっきから、ずるい作戦考えてたのも、自分が行きたくないからだったの?
エイジ君、さいてー」
女子3人から、口々に非難が飛ぶ。
なっ、なんだよ。ちょっと勘違いしただけじゃないか。
「だいたい、エイジ君はさぁ……」
ライクちゃんが口火を切って、俺への不満大会が始まる。
どうも、最近ライクちゃんの愚痴が多い。
いつの間にか、テーブルにはお茶菓子が増えている。
アインが給仕を呼び、お茶のおかわりも来る。
「そうですね、確かにエイジさんは……」
「そうじゃ、そうじゃ。
この際、きつく言ってやったほうがよいぞ……」
女3人よれば、姦しいとはよく言ったもんだ。
ぺちゃくちゃと3人が楽しそうに話をする。
まぁ、仲が良いのは何よりですけどね。
でも、話題が俺の悪口だけってどうなの……?
この後、2時間にわたって、3人のお茶会は続き……
言葉の暴力によって、俺が3人からフルボッコにされたのは言うまでも無いことである。
「うーん ひさびさに たのしく 茶が飲めたの。
まんぞく まんぞくじゃ。
……どうじゃ エイジ。
すこしは おなごの きもちが 理解できたじゃろ」
「……もう、おうちかえりたい」
こうして、行く前から帰宅を願いつつ……
俺は、「炎の神殿」に挑むことになった。
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名前 エイジ・ニューフィールド (精神的外傷)
略
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名前 ライク・ブルックリン (ストレス発散!)
略
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名前 マリーシア・スローウィン (ストレス発散!)
略
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名前 アイン・アルバトロス (ストレス発散!)
略
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