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異世界クエスト  作者: 太郎
異世界クエスト上
34/95

第33話-屋敷の一夜 (マリー)

重厚で趣のある背もたれ付きの長椅子。

真白いシーツで整えられた、清潔感ある寝具。

窓にはフリルのついたレースのカーテンが引かれている。

アルバトロス家の調度品はどれも一級品だ。

ドワーフの屋敷だからと言って特別小さいと言うこともない。



「あっ、何か飲みますか?」



俺はベッドから腰をあげ、

部屋に備えつけてあった茶器を用意する。

アインからは用があれば、使用人を呼べと言われている。

だが、お茶ぐらいで呼ぶのはどうも気が引ける。



「あっ、お構いなく……」



マリーさんが返事をする。

俺のベッドには、マリーさんが腰かけている。

別にやましいことをしているわけではない。

話があると言うことなので、聞こうと言うのだ。


長椅子があるのだから、それに座ることもできた。

しかし、俺がベッドに座ったため、

マリーさんも自然とそこに座ることになってしまった。


俺は、茶を淹れたカップを指し出す。

ベッドの上なので、カップを置く場所がない。


失敗したな、と置く場所を探していると……

マリーさんは、大丈夫です、とそのままカップを受け取った。


……マリーさんの話は以外にも真面目な内容だった。



「エイジさん……

 わたくしが、人を探していることは、覚えていらっしゃいますか?」



うつむいたままマリーさんが問う。

金髪の髪が顔にかかっている。

横に並んでいると、マリーさんから良い匂いがする。

陽だまりの様な、とても暖かい匂いだ。



「……えぇ、覚えてますけど?」



俺は答える。聞いたのは、ついこの前だ。

いくら俺でも、もの忘れはそこまで酷くない。


マリーさんが事情を説明し始める。



「実は……わたくし、ネット御婆様から頼まれて

 英雄、ノーレッジ様を探していたんです」



俺は、聞いた名前に違和感を感じ、考えを巡らす。


ネット……? どこかで聞いた名前だ。

そう言えば、バディさんの話に出てきた人じゃないか?


聞き覚えがある名前なので、会話を遮ってマリーさんに質問する。



「あの、そのネットさんって方、英雄の仲間だったりします?」


「……えぇ、あらエイジさん。

 わたくしのこと、【アナライズ】しましたでしょ?

 知らなかったんですか?」



……あぁ、なるほど【大魔導師の子孫】はそういう意味か。

どうやら、マリーさんのお婆さんは、英雄の仲間。

つまり、うちの爺さんと知り合いだったようだ。



「あれ? と言うことは……

 マリーさんはアルバトロス家を知ってるんじゃ?」


「いいえ、知りませんよ?」



ネットという名を聞いたのは、

確かにバディさんとの会話だ。

2人が知り合いである以上、

孫のマリーさんが知り合いである可能性が高い。


俺はバディさんとの会話で、ネットさんの名前が出たことを話す。



「まぁ、そうなんですか……

 ネット御婆様が、

 アルバトロス家とお知り合いだったなんて……」



マリーさんに逆に驚かれてしまった。

確かに、バディさんはネットさんと知り合いの様だった。

しかし、マリーさんは、

英雄がアルバトロス家と関わりがあったこと、

祖母も知り合であったことまでは、

知らなかった様だ。


バディさんからすれば、

マリーさんを見ればわかるかもしれない。

しかし、今日バディさんに会ったのは俺だけだ。



……なるほど、つまりバディさんは、

英雄の「仲間」というわけではない様だな。

見たところ、ただの鍛冶屋の親父だし。

戦闘に向いているは思えない。

多分、武器か資金かを提供した、

関係者といったところだろう。



「それで、なんでマリーさんが、ノーレッジさんを?」



俺は止めてしまった会話を戻し、

マリーさんの話を聞いた。

かいつまんで言えば、

マリーさんの話は、こういうものだった。




……英雄、つまり爺さんは、魔王を倒した後、忽然と姿を消した。

そして、仲間だったネットさんは、爺さんの行方を必死に探した。

だが、いつしかネットさんは、

大魔導師と呼ばれるようになり身分が高くなった。

こうなると勝手気ままな人探しの旅は出来なくなる。


そこで、代わりに孫に捜索を頼んだ。

それが、マリーさんだったというわけだ。



「へぇ、そういうわけだったんですか」



まさか、マリーさんのお婆さんが、

爺さんと知り合いだったとは。

これには俺もビックリだった。


しかし、ここで俺が驚くわけにはいかない。

今の俺は爺さんとは「赤の他人」という設定なのだ。



「えぇ……

 これが、わたくしが、

 ノーレッジ様を探していた事情です。

 でも、話したいのは、

 もう1人の探し人の方なんです」



マリーさんが説明を続ける。



「エイジさんは、ネット御婆様が、

 ノーレッジ様の祠を守るため

【ダンジョン化】の魔法をかけた話は、

 ご存知ですか?」



英雄の仲間の話は、

前に「光の遺跡」でライクちゃんから聞いたことがある。



「えぇ、知っています」


「実は……

 そのもう1人の探し人は……

 最近、その【ダンジョン化】の魔法を攻略した人なんです」



えっ、それってまさか……

俺はマリーさんの顔を見る。

マリーさんも俺を見て頷く。



「はい、エイジさん。

 あなたが探し人でした……」



……これなんてご都合主義?



まさかのトンデモ話が出てしまったが、

マリーさんの話はこうだった。



50年前、ネットを含む英雄の仲間は、

祠に【ダンジョン化】の魔法をかけた。

それは、英雄の遺産を守るためだった。

しかし、最近、その英雄の墓に変化があった。



ネットさんがかけた【ダンジョン化】の魔法が、

攻略されたことがわかったのだ。



そこで、ネットさんはこう思った。

ひょっとしたら、ノーレッジが帰って来たのかもしれない。

もし違っても、大切な遺産が誰かに奪われたかもしれない。

そう思って、マリーさんに急遽、探し人を追加したそうだ。



「つまり、マリーさんは、

 俺を探していたわけではなく……

 ダンジョンを攻略した犯人を探していた。

 それが、今日の騒動で、

 俺だとわかったということですか?」


「えぇ、そういうことです」


「でも【ダンジョン化】の魔法って、

 攻略されるとわかるんですか?」



俺が、この異世界に来てからそれほど経っていない。

祠から出たのは事実だが、人伝に聞くとしても早すぎる。

そもそも、今日まで俺はあの祠から出てきたことを、

誰にも話してはいない。



「あぁ…それはですね」



マリーさんが【ダンジョン化】の魔法についても説明してくれた。


まず、【ダンジョン化】は、

宝物や大切なものを守るための魔法らしい。

構造物の内部をダンジョンにして、

中にモンスターを生み出す。

そうすることで、外部からの侵入者を阻むのだ。



そして、【ダンジョン化】で生み出されるモンスターの強さ。

これは、魔法をかけた本人の強さを超えることは無いらしい。

また、仮に本人の強さを超える様なモンスターが中に居た場合。

そのモンスターはダンジョン内部からはじき出される。


それは、なぜか?


まぁ、聞いてみれば当たり前の話だった。

【ダンジョン化】は防犯システムの様な魔法なのだ。

魔法をかけた「本人」が宝物を取りに入れなくては、

元も子もないからだ。


そして【ダンジョン化】の魔法は攻略されると、

それが本人に伝わる。

セキュリティが破られたとき、通知されるようなものだ。

ネットさんは、これによって、

ダンジョンが攻略されたことを知ったらしい。



「なるほど。

 話はわかりました。

 それで、俺はどうすればいいんですか?」



質問に対し、マリーさんが口を開く。



「そうですね……

 わたくしは……

 エイジさんが泥棒ではないとわかっています。

 けれど、御婆様には一度会って頂かなくてはなりません。

 見つけたら、必ず連れてくるように、

 とのことでしたので……」



俺はチート剣の所持をバディさんから許された。

だが、それは、あくまでも「バディさんから」だ。

爺さんの仲間であったネットさんにも、

話は付けておくべきだろう。


それに、俺も爺さんの情報が知りたい。

ひょっとしたら、ネットさんが爺さんに頼まれて、

俺を召喚した……

なんてこともありうる。


剣の修理が終わったら、訪ねるべきだろう。



「わかりました。

 剣の修理が終わったら、一度伺います」


「えっ!? いいんですか。

 そんなにあっさりと?」



マリーさんは意外そうだ。


そうか……

ネットさんのもとに行けば、

最悪、俺は泥棒扱いされてしまう。

バディさんはすんなり認めてくれたが、

今日だってその危険性はあった。

相手は大魔導師だ。俺みたいな小僧、どうにでも出来るのだろう。

今日の騒動のこともあり、

マリーさんは、俺がもっと渋ると思っていたらしい。



「まぁ、この剣については、

 俺にも非があるわけですし。

 ちゃんと話せば、

 事情もわかって貰えると思います」



そうなのだ。いざとなったら名字を明かせばよい。

ガーターさんに頼んで【アナライズ】出来るようにすれば問題ない。



「ありがとうございます!

 了解して頂けて良かったです!」



マリーさんが俺を見て、にっこりと笑う。

どうやら、言いづらい話で緊張していたようだ。

うつむきがちだった顔が明るくなる。


まるで、花が咲いたように雰囲気が華やぐ。



「あっ、お茶、頂きますね!」



マリーさんがカップに口をつける。



「あっ!」


「おわっ!」

「あぁぁ、ごめんなさい!」



気が緩んだのか、手を滑らせてお茶がこぼれる。

どうやら、相当に緊張していたみたいだ。


俺のズボンにお茶がかかる。

シーツもびしょびしょに濡れてしまった。


あーあ、まるで漏らしたみたいだ。



「あぁ!

 エイジさん、ごめんなさい。

 熱くないですか!? 今拭きますね!?」



あわあわ言いながらマリーさんがうろたえる。



「だ、大丈夫ですよ」


「いいえ、ダメです!

 どうしましょう……

 とりあえずこれで……」



マリーさんは、袂からハンカチを取りだし、

拭いてくれ……


ると思ったら、

じーっと、ハンカチを持ったまま固まってしまった。


どうしたんだろうか?



「こんな夜中に……

 シーツもびしょびしょで……

 ズボンも濡れているなんて……」


「それ以上は、言わせねぇよ!?」



マリーさんを放っておくと、

この小説が18禁になってしまう。

【淑女】が仲間になってから下ネタが多すぎる。

自重しよう。



「さぁ、さぁ、はやく!

 エイジさん! 

 ズボンを脱いでください!

 アインさんから、昨日はお楽しみでしたねって、

 言われちゃいますよ?」


「ちょっ!やめてください!

 っていうか、

 なんで、マリーさんがそのネタ知ってるんですか?

 いーですから!じぶんで拭きますから!」


「いいえ!御遠慮なさらずに!

 ささ、わたくしが拭いてあげますってば!

 ハァハァ……!!」


「ちょ、マリーさん、

 なんか息遣いが変ですよ!?

 いいです、いいです!

 用が済んだなら、はやく帰ってくださいっ!」


「よいではないか、よいではないか」


「ちょ、マリーさん、台詞がおかしいですって!

 いやー、けだものー」



……まったく、マリーさんは手に負えない。

じゃれ合いながら、俺は思う。


でも、こんなマリ―さんだからこそ、

俺もすんなり打ち解けられたのかもしれない。

マリーさんが仲間になって、まだ2日。

それでも、内向的な俺にとって、

ありのままに生きるマリーさんは少し眩しい。



こうして、最後の最後で台無しになりながら……

アルバトロス家での夜は更けていくのであった。




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名前 エイジ・ニューフィールド 

    略

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名前 ライク・ブルックリン 

    略

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名前 マリーシア・スローウィン

職業 【召喚士】【淑女】

   【大魔導師の子孫】【悪代官】←NEW!

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名前 アイン・アルバトロス 

    略

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読みづらかったため、改行等変更。

内容に変更はありません。

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