第32話-天空剣
馬鹿みたいに広い応接間の中。
部屋の真ん中には高級そうなテーブルと椅子。
そこから、少し離れた空間で4人は立ちすくんでいた。
「これは……【天空剣】ではないか!?」
「てんくうけん?」
固まったアインが声を震わせて喋り出す。
俺の間抜けな声が反響して響く。
俺とアインの会話が続く。
「おぬし、これは【神鉄】で できた 剣じゃぞ……?」
「あっ、あぁ……そうなんだよ。
なんか【神具】とかってのと同じで、直すの難しいらしいよ?
でも、アインなら、修理出来るんだろ?」
俺はここに来た理由を話す。
しかし、アインはまだ喋り続ける。
語調には動揺と怒気が混ざっている。
「ばかもの!
これがその【神具】のひとつ、【神剣・天空剣】じゃ!」
「えっ!? なんだよそれ?
っていうか、アイン、この剣のこと何か知ってるのか?
なんで 鉱山のとき、教えてくれないんだよ!」
俺は文句をいう。
しかし、アインが言い返す。
「あほう!
おぬし、アルプ では 剣など つかって おらんじゃろが!」
確かにそうだ。岩トカゲはすべて素手で倒したのだ。
「……まぁ、そりゃそうだけど。
でも鍛冶屋の親父は、これが【神剣】だなんて言ってなかったよ!?」
「わからんのも むりはない!
ノーレッジどのが『光の神殿』を こうりゃく してからずっと持っとったし。
ゆくえふめい に なったあとは 墓に しまいっぱなしじゃ」
どうやら、チート剣は【天空剣】というらしい。
さらに俺とアインの会話が続く。
「わしだって バディじい のとこに ノーレッジどのが来たとき 見て以来じゃ。
ただの鍛冶屋にわかるわけないわい」
「えっ?
アインまさか、じい……じゃないノーレッジさん知ってるのか?
アイン、お前、今何歳なんだよ?」
「なんじゃ?
れでぃに 年を聞くのは しつれい なんじゃぞ!
まぁ いいわ。 わしは今70歳ぐらいじゃ!」
「えぇぇぇぇ……」
「だから、わしを こどもあつかい するなと言ったじゃろう!」
幼女だと思ったら、アインはとんだ高齢者だった。
アインが話を打ち切る。
「わしの年など、どうでもいいわ。
おぬし、これをどうやって 手にいれた!?」
もう皆、ぽかーんとした状態になっていた。
……急展開すぎる。
「英雄」である爺さんの剣で、しかもチート性能だ。
俺も、ある程度の曰くがあるのは覚悟していた。
しかし、今のアインの話と、鍛冶屋の親方の話と合わせると……
このチート剣は【神具】とか言われる貴重な武器だと言うことになる。
なんせ【神具】は世界に7つしかないらしい。
まさか、そこまでの物だったとは……
天空剣なんて中2なネーミングと言い、完全に俺の予想を超えている。
……どうしよう。この状況。
アインが怖い顔で睨んでいる。
ライクちゃんは、ビックリしてる。
マリーさんは、じっと俺を見てる。
……もう、ニューフィールドの名字をばらすか?
いやいや、俺はガーターさんの計らいで、素性がばれない様になってる。
【アナライズ】しても、分からないんだ。証拠がない。
隠したのが裏目に出てしまった。
こんな状態で説明しても、名を語ったと変に誤解される可能性がある。
「おぬし、まさか……」
考え込んでいると、アインがあらぬ疑いをかけてくる。
「いやいやいや、別にやましいことはしてないよっ!?」
「じゃあ、なぜ、これをもっておるんじゃ?」
仕方がないので、「祠」に入った事だけは話す。
もちろん、ちゃんと入口から入ったという設定でだ。
「いや、知らなかったんだよ……
俺、異国からの旅人だからさぁ……
……やっぱ、返したほうがいい……?」
剣は爺さんの形見だし、孫の俺が持ってても良いとは思う。
だけど、俺が赤の他人と言う設定では、話は別だ。
単なる墓あらしにすぎない。
説明できない以上は、返せと言われても仕方がない。
確かに、チート剣が無いのは困る。
だが、既に俺は、こいつのおかげでレベルアップの恩恵をうけた。
ここで、無理に意地をはらずとも良い。
ガーターさんに頼めば、身の潔白も証明できる。
「ふぅむ……」
アインは納得していないみたいだ。
それはそうだ、異国からの旅人とは言え、世界を救った「英雄」の墓だ。
知りませんでした、ではかなり苦しい。
すると、ライクちゃんが思わぬ助け船を出してくれた。
「あの……
エイジ君って……
本当に常識知らずだし……
ヘンタイだし……
すぐ格好つけるし……
パンツ大好きだし……
良くひとりでウジウジしてるし……
マリーさんの胸ばかり見てるし……
なのにあたしの胸は全然見ないし……
挙句の果てには、通り名までパンツだし……
……だけど、悪い子じゃないんです!
きっとパンツは欲しがっても、剣は盗まないと思います!
本当に悪気があって、やったんじゃないと思うんです!」
ほらみろ、ライクちゃんに弁論させるからこうなる。
もうやめて! 俺のライフはゼロよ。
しかし、熱意だけは伝わったようだ。
アインがライクちゃんに答える。
「わしも、エイジがわるいやつとは 思わん。
だが ものがものだけにな……」
うーんと考え込むアイン。
「やはり、わしだけじゃ はんだん できんわ。
バディじいに きいてみるか……」
そう言うと、アインは使用人を呼びつけた。
黒を基調とするさっぱりとした服の男が入ってくる。
使用人も背が高くない。ドワーフの様だ。
アインが使用人に何か用件を伝えている。
うん? そう言えば、バディ?
……それって魔石でひと山あてたドワーフか?
使用人が戻ってくるまで、出された茶を飲みながら待つ。
空気が気まずい。
喉だけやけに渇いて、茶の味なんかわかったもんじゃない。
しばらくすると、使用人が戻ってきた。
ぺこりと丁寧に一礼して、アインの耳元で何か囁く。
「じいが 会ってくださるそうじゃ
……エイジだけ ついてくるのじゃ」
えっ? なんで俺だけ?
そう思ったが、すぐに納得した。
最悪、泥棒扱いされて、騎士団に突き出されるかもしれない。
そうなれば、ライクちゃんやマリーさんにショックを与える。
どうやら、アインはその辺を配慮してくれたらしい。
事態は思ったより深刻なのかもしれない。
アインが応接間を出て歩き出す。
どうやら、どこか別の部屋に向かうようだ。
「あのっ!
……エイジさん」
俺も部屋を出ようとすると、マリーさんが俺に話しかけてきた。
「何ですか、マリーさん?」
「……あの、後でお話があります」
「なんなら今、聞きますよ?」
「いえ、大事なお話なので……
ですから……ちゃんと帰ってきてくださいね」
マリーさんは思いつめた顔で話していた。
何か俺に用があるみたいだ。
それとも、俺を勇気づけてくれているのか。
俺もアインの後を追って応接間を出た。
学校の廊下みたいな長い廊下を何度も行ったり来たりする。
階段を上に、上にと昇っていく。
この屋敷は広い。
エレベーターが無いのがすごく不便だ。
屋敷を移動するだけで、結構歩く。
屋敷の中には、高そうな絵画や骨とう品が飾ってある。
床にも、カーペットの様なものが敷いてある。
ちょっとした高級ホテルを歩いてるようだ。
「ついたぞ ここじゃ」
アインが一際重厚な扉の前で立ち止まる。
「べつに かしこまる必要は ないがの。
あまり 失礼のないようにな」
アインが注意を促す。
「バディじい 入るぞ」
「おぉ。入れ入れ」
中から、男の声がする。
「じい」と言う割には、声がしゃがれていない。
アインもこの若さだし、この世界のドワーフは長命種らしい。
ギーっという重たい音をたてながら、ドアが開く。
俺も一礼してから、部屋に入る。
なんだか面接試験を受けたときを思い出す。
緊張してきた。
「おぉ。待っとったぞ。」
「忙しいところ、すまんの じい。
こやつが、エイジじゃ」
あっ、どうも、と俺は頭を下げる。
バディじいと 呼ばれたドワーフの男は初老のおじさんだった。
少し小太りで、口に髭を生やしている。
やはりドワーフだけあって、背は低い。
「そんなに緊張せずともよい。
エイジよ、先日は孫が世話になったのぅ」
どうやら、アルプ鉱山でアインを助けた件のようだ。
俺も挨拶を返す。
「それで これなんじゃが……」
アインが、チート剣をバディさんに渡す。
「ふうぅむ……
たしかに、【天空剣】じゃ。
懐かしいのぅ……」
どうやら、バディさんはチート剣に思い入れがあるらしい。
なるほど、チート剣の所有者である爺さんは行方不明だ。
詳しい事情を詳しく知っているであろうバディさんに判断を仰ぐのだろう。
所有者がいなければ、管理者に確認しようというところだ。
バディさんが、剣はあくまで爺さんの所有物だと言えば、俺の分は悪い。
「それで……
この剣は こやつが 持っていてもかまわん 物かの?」
アインが俺の処遇を訪ねる。
「うーん。
……まぁ、良いんじゃないかのぅ」
少し考え込んで、バディさんが口を開く。
えっ?そんなに簡単でいいの?
「ネットの奴は怒るかもしれんがのう。
もともと剣を『光の遺跡』に置いたのも……
ノーレッジが、取りに来ると思ってのことじゃろうし。
じゃが、もう50年も経つしのぅ……
とりあえずは、お前さんが『預かって』おけば、良いんじゃないか?
見たところ、悪い奴でも無い様じゃしな」
剣の所在が不明では困るが、俺が持っていれば返して貰える。
所有者ではなく貸与の限度で認めるてやるということか。
「でも、【神剣】だから、そうもいかないんじゃぁ……」
一応、聞いてみる。
なにせ【神具】だ。個人の財産を管理するのと訳が違う。
「あぁ、その点はかまわんじゃろ。
ノーレッジが『光の神殿』を攻略して手に入れたんじゃから。
その時点で、もうこの剣は奴のもんじゃ。
おぬしも【ダンジョン化】がかかった奴の墓から手に入れたんじゃろ?」
バディさんが答える。
この異世界では、ダンジョンの攻略で手に入れた物は、所有権を主張できるようだ。
……まぁRPGでもそうだしな。深くは考えないでおこう。
それでも、貸与扱いなのは、やはり、チート剣に対する思い入れがあるからか。
「それにしても、50年も手入れしないと……
剣もずいぶん痛むもんじゃのぅ……」
バディさんは、チート剣を懐かしむ。
あちこち、叩いたり光に照らしたりしている。
光にあたって、剣が鈍い反射光を放つ。
「ドワーフにとって、50年なんてすぐじゃからな。
わしも、200歳のころに、魔石の研究を始めてからはあっと言う間じゃった。
ノーレッジが、ここに初めて来たのは……
あー……250歳の頃かのぅ……」
桁がずれてる年齢をつぶやきながら、バディさんが独り言を言う。
ひとしきり剣を眺めた後、鞘に収め、俺に手渡した。
「大分、ガタが来ておるようじゃな。
まぁ、お前さんが持つにせよ、墓に戻すにせよ……
このままと言うのは、忍びない。
アイン、困難だろうが、剣を直すのを手伝ってやるんじゃぞ」
バディさんがアインに指示する。
「まぁ、もとより そのつもりじゃ。
せっかく はるばる たずねて 来てくれたんじゃからの」
アインが俺を見ながら、照れくさそうに言う。
……よかった、とりあえず、これで話はついたようだ。
結論として、俺は今まで通りチート剣を持っていて良い。
ただし、貸与という条件でだ。
そして、アインは、この剣を修理してくれる。
あまり進展はないが、状況は明確になった。
バディさんにお礼を言って部屋を後にする。
応接間に戻り、ライクちゃんとマリーさんに成り行きを話した。
ライクちゃんは俺が再び牢屋行きになるかと心配していたそうだ。
「前科二犯にならなくてよかったねっ!」
ありがとう。
その前科一犯も、あなたのせいですけどね。
ライクちゃん俺に恨みでもあるの?
……そして、その夜。
「まぁ、とおくから来てくれたんじゃ。
ゆっくりしていってくれ!」
俺たちは、アインの家に泊ることになった。
なんせ大豪邸だ。
泊る部屋は腐るほどあるらしい。
ゴージャスな食事をして、ゴージャスな風呂に入り、ゴージャスな部屋に通された。
全然描写していないが無理もない。
浦島太郎も言ってるだろ、絵にも描けない美しさって。
つまり、作者が技術不足ってことだ。
旅の疲れもあったので、俺は部屋でゴロゴロしていた。
今回は、1人1部屋だ。
……まぁ、残念だが仕方がない。
……コンコン
夜半、ドアをノックする音が聞こえた。
「エイジさん……」
マリーさんだ。
そう言えば、何か話があったみたいだ。
すっかり忘れてた。
ベッドからゴロンと起き上る。
「あー……どうぞー」
てこてこと歩いて、ドアまで行く。
俺は、ドアを開け、マリーさんを招き入れた。
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名前 エイジ・ニューフィールド
略
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名前 ライク・ブルックリン
略
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名前 マリーシア・スローウィン
職業 【召喚士】【淑女】
【大魔導師の子孫】
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名前 アイン・アルバトロス
略
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誤字変更
絵にも欠けない美しさ×
絵にも描けない美しさ○