第30話-丘の上で昼食を
言葉は正確に使用しなければならない。
人に何かを伝えるというのは、本当に難しいことだ。
あいまいな言葉は、ときに意図せぬ誤解を招く。
俺は、あの時、マリーさんにこう質問した。
「別次元からの召喚が出来る『人』はいますか?」 と。
俺は異世界に来てから、ほぼ「人間」にしか会っていない。
アインのことを語るときも「ドワーフ」であることを告げていた。
だから、今まで、こんなややこしい「間違い」をせずに済んだ。
……何が言いたいのかって?
つまり、俺はこう質問すべきだったという話だ。
「別次元からの召喚が出来る『方』はいますか?」 と。
この世界にはドワーフもいればエルフもいる。
異種族がいるのだ。「人」と言ったら「人間」に限定されてしまう。
俺の自動翻訳システムの思わぬ落とし穴だ。
世界観が向こうのままの俺は、「言葉のニュアンス」がずれてしまう。
単語としては翻訳できても、文章としての意味が違うのだ。
自分で考え事をするときはともかく、「会話文」では気をつけなければならない。
俺は思考を終え、つぶっていた眼をゆっくっりと開く。
視線の先には、サンドイッチをくわえる少女。
「……ところで、マリーさん、何で居るんですか?」
「ふぇ?」
小さな口を動かしながら、マリーさんが間の抜けた返事をした。
俺たちは既に【ラジフォレス】を離れている。
早朝から買い物や準備をし早々に身支度を整えた。
日が出る前からの準備は辛かったが朝の一番の馬車に乗るためだ。
急ぐ旅ではないが、あまりゆっくりもしていられない。
馬車に乗りこみ街道を進んだ。
ガラガラという車輪の音を聞きながら、流れる景色を見た。
町を離れれば、普通は自然が増えるものだが、さすがは【ラジフォレス】。
離れるほどに、木々は減り、森林を越え、道も拓けてきた。
目的地まで、あと少しだ。
今、俺たちは休憩を兼ね、丘の上で昼食を食べている。
丘といっても、公園に在る様な小さなものだ。
この先へは徒歩で向かう。
少し早目の腹ごしらえだ。
食べているのは、ライクちゃん特製サンドイッチ。
トマト、キュウリ、チャイブ……
細かく切られたラジフォレス産の新鮮な野菜。
それをサワークリームと和え、パンに塗る。
その上に、レタス、チーズ、スモークサーモンを入れて、軽くはさむ。
パリッとしたレタスの歯触りの後に、甘酸っぱいクリームとサーモンのうまみが広がる。
ポカポカの天気の下、外での食事。
美味くないわけがない。
むぐむぐっとパンを飲み込み、マリーさんが喋る。
「実は、わたくし、御婆様から、頼まれごとをされておりまして……」
聞けば、修行の旅を兼ねて、人探しをしているらしい。
なんでも、お婆さんも有名な魔導師とのこと。
そのお婆さんから頼まれた2人の人物を探しているのだそうだ。
特にあてのない旅だから、次の町まで一緒に付いて来たいそうだ。
「一緒に居ては、ご迷惑でしょうか……?」
祈る様に腕を組み、見つてめくるマリーさん。
……うっ、またこの目だ。
ライクちゃんに、初クエストをねだられたときと同じ目。
正直、女性のこの目はずるいと思う。
どうも、この目で見られると断りきれない。
しかも、マリーさんの場合……
腕を組むと……むっ、胸が……
よせてあがって強調されて……
「大丈夫だよね、エイジ君!」
俺の邪な視線を妨げるかのように、ライクちゃんが俺を引っ張る。
ぐいっと身体がライクちゃんに引き寄せられる。
ちょ、ちょっと! こっちも胸が……
あっ、大丈夫だ、こっちはない。
「あ、ああ、大丈夫、大丈夫!」
しかし、うら若い乙女に密着されるのはマズイ。
確実に身体の一部が大丈夫ではなくなる。
こっちは健全な男子高校生なのだ。
あわてて、ライクちゃんを引きはがす。
「まぁ、マリーさんが居てくれると
魔法やスキルの情報も、いろいろ聞けますし」
「まぁ、ありがとうございます!」
満面の笑みでお礼を言われた。
食事を終え、食休みをする。
後片付けをしながら、少しの談笑。
途中、ライクちゃんが思い出したように立ち上がる。
「あっ、あたし『ろん』ちゃんにもご飯あげてくるねっ!」
と言って、去って行った。
俺とマリーさん2人だけになってしまった。
……ヘンタイ職、2人だけの空間。
放っておいたら、確実に大変なことになる。
話題の提供も兼ね、少し情報を整理してみた。
「結局、別次元からの召喚でも、エルフならできるんですね?」
「えぇ、できます」
……それならば「俺が異世界へ召喚」された可能性も捨てきれない。
爺さんが直接行わずとも、エルフに頼めば良いからだ。
「もう少し、召喚について教えてください」
「かまいませんよ」
しつこい様だが、こっちはもとの世界への帰還がかかっている。
詳しく聞かざるを得ない。
「そうですねぇ、まずは基本からお話しましょうか……」
マリーさんが言うには、召喚には必要な条件が3つある。
(1)自己の勝利による精霊の服従
(2)召喚の契約
(3)召喚の円盤 ……の3つらしい。
「まぁ、それほど身構えるものではありませんわ」
マリーさんがほほ笑む。
「勝利による服従は、知恵比べでもかまいませんし……
召喚の契約も、『困ったときは手助けをしてください』
という程度でいいんです」
……だそうだ。
召喚の円盤も見せてもらう。
町で子供を助けるとき、地面に置いていたものだ。
CDやDVDぐらいの大きさで、表面に光沢がある。
「召喚された精霊は、どうやったら帰れるんですか?」
「帰還方法ですか?」
マリーさんは不思議がっている。
それはそうだ、いきなり帰還方法に興味を持つのは不自然だ。
「異次元からの召喚でしたら……
基本的には、役割を終えるか、倒れるかのどちらかですね。
召喚された精霊が勝手に還ることはできません」
「倒れる?」
「……つまり、お亡くなりになるということです。
まぁ、精霊がそうなることは、余りありませんが」
つまり、俺が召喚されたとすれば「死ぬ」のが一番早い帰還方法になる。
「召喚された精霊が死んだら、どうなるんですか?」
「さぁ、『死』は『死』ではないでしょうか……?」
こちらの世界で死んでも、向こうで生き返る。
そういうルールでは無い様だ。
これでは、帰還のために自殺するという方法は取れない。
「あっ、でも時間は戻りますね」
「時間?」
「えぇ、精霊としても私たちに長時間拘束されるのは迷惑ですから。
戻るというか……
こちらで、どんなに時間をかけようと平気なんです。
その間、精霊たちの世界の時間は進みませんから」
つまり、俺が召喚されていた場合、まだ爺さんの葬式の日のままか。
まぁ、時間が戻っても、死んだら元も子もない。
それに、もうひとつ「役割を終える」といわれても、ピンとこない。
俺は何か目的があって、爺さんに召喚されたのか?
とにかく自力での帰還はやはり不可能か。
まぁ、これで、大体のことはわかった。
情報は十分だが、帰還についてだけ聞くのも変だ。
怪しまれないよう、一応、他の事も聞こう。
「マリーさんは……
どうしてドリアードと召喚の契約をしたんですか?」
マリーさんは「木」属性だ。
召喚は属性とも関係あるんだろうか?
「えっ、わたくしですか。
1人で、触手プレイがしたかったので……」
さすがはヘンタイ。
発想の出発点が違った。
さてと、そろそろ出発しなければ。
俺は立ち上がり、服についた草を叩く。
パラパラと草が落ちる。
「ちょっと、ライクちゃん呼んできます」
話し込んだせいで、食休みが長過ぎた。
ライクちゃんを呼びに行く。
「ろん」にエサをあげに行ったまま、まだ帰ってこない。
少し離れた木陰に、ライクちゃんと「ろん」を見つける。
ライクちゃんは何か本を読んでいた。
「何読んでるの?」
「わぁ!?」
夢中になっていて、気がつかなかったようだ。
あわてて本を隠そうとするライクちゃん。
まさか、マリーさんから、いかがわしい本でも借りたのか?
「……何で隠すの?」
「わっ、ちょっと!」
後ろに隠した本を取り上げる。
「【魔法・スキル入門】??」
「あー、ばれちゃった……」
変な本だと思ったが、そうではなかった。
「あたし【ほうちょう】のスキルも知らなかったし……
魔法や召喚術もマリーさんみたく詳しくないし……
なんか、一緒に来ても役立たずだなぁって……」
しゅん、とした顔でライクちゃんがうなだれる。
どうやら、何か気にするところがあったらしい。
俺としては、別に気にしていないのだが。
なんせ美少女との旅行だ。
少なくとも、ガーターさんと二人。
男2人の珍道中を繰り広げるよりも遥かに良い。
「そんなの別に、気にしなくていいのに」
「でもさぁ……」
ライクちゃんがぐりぐりと草を指でいじる。
ヤンデレ化のときと言い、ライクちゃんは少し気を遣いすぎだ。
別に気にすることなんて何もない。
俺が何も知らないのは、俺自身のせいだ。
「……あー、そういえば……
あのサンドイッチすごく美味かったなぁ」
俺は頭の後ろで手を組みながら、わざとらしく言う。
くるっと後ろに向きながら、横目で様子をうかがう。
「……えっ、本当!?」
「あー本当、本当。
旅先でこんな美味いサンドイッチが食えるとは思わなかった。
今度、作り方教えてよ」
ライクちゃんの顔が少し明るくなる。
「あれはねぇ!
まず、トーマの実とキュリーの実を細かく切って……」
やれやれ、召喚術の授業の次はサンドイッチ講座だ。
だが、これで気が晴れるなら、是非とも話を聞かせてもらおう。
「ふーん、それでそれで?」
俺は適当に相づちを打ちながら、道の方に歩き出した。
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名前 エイジ・ニューフィールド
職業
略
装備
略
強さ
略
スキル
【考察】【諜報】【やさしい心】【おとこの友情】
【おどす】【便利なおとこ】【残念な人】【気遣い】←NEW!
ゴミ箱
しゅうちしん
ゆうき
こんじょう
持ち物
略
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名前 マリーシア・スローウィン
職業
略
装備
略
強さ
友好度 72 ⇒ 【しんきんかん】!!
スキル
略
ゴミ箱
略
持ち物
略
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名前 ライク・ブルックリン
職業
略
装備
略
強さ
友好度 93 ⇒ 【けっこんぜんてい】!!
スキル
略
ゴミ箱
略
持ち物
略
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