第29話-召喚士
肩までかかる流れる様な金髪。
さくらんぼの様な甘やかな唇。
エルフ特有の、つん、と尖った耳。
清純さを表すような純白の法衣。
そして、奥ゆかしくも主張される艶めかしい身体のライン。
人混みの中に居たのは、絵に描いたようなお嬢様だった。
あれ? 召喚士ってこんなに若いのか?
高名な召喚士様なんて言うから、俺はてっきり老人を想像していた。
しばらく会話の内容に耳を傾けてみる。
……どうやら召喚士様は町の人の相談にのっているようだ。
スキル、魔法といった単語が時折聞こえる。
俺たちも、頃合いを見計らって話をした。
俺はライクちゃんの「包丁」について、ざっくり説明する。
……話し中、じーっと俺を見つめるエルフの少女。
なに?
俺なんか変なこと言った?
しばらくして、少女がおもむろに語る。
「そうですか、手から包丁が。
それは、めずらしいスキルですね。
よろしければ、今夜、わたくしの宿でお話いたしましょう」
えっ?
いきなり、夜の宿にご招待?
まさか、さっきの視線は恋愛フラグなの?
やったわ、ぺぇ太。
フラグが……フラグがたった!
冗談はさておき、早々に約束を付けた。
今夜、宿に7時。
美人と長々と話していると、後ろからの刺されかねない。
冒険者は常に危険と隣り合わせなのだ。
今回は即死攻撃だ。用心したほうがいい。
思ったより時間が余ったので、エルフ地区を観光する。
例の召喚士様の宿もこの辺らしい。
だから、少々うろついても遅刻をする心配はない。
エルフ地区は人間地区よりずいぶん都会的だ。
そして、緑が豊かな場所でもある。
光が葉っぱに反射すると、キラキラと美しい。
空気も心なしか新鮮な気がする。
道には街路樹として木々がふんだんに植えられてた。
中には、不似合なほど大きい木もある。
たとえば、道のど真ん中に、ドカン、と大樹……
えぇぇぇ。
明らかに邪魔だろ、これ。
大きすぎて、上の枝なんか小さくしか見えない。
建物と枝も接触してしまっている。
……どうやら、この地区は、建物を建ててから木を植えたのではない。
木があった場所に、建物を建てた感じだ。
そりゃあ、町が歪にもなる。
思わず、ライクちゃんと大樹を見上げてしまう。
「……すごいね」
「うん……すごい」
会話にならなかった。
辺りが薄暗くなった頃、いよいよ宿屋へと向かう。
風が冷たくなってきた。そろそろ、約束の時間だ。
宿屋の女主人に用件を伝える。
宿は、俺たちのよりグレードが高い。
ちょっとした調度品からも高貴さを感じる。
従業員の接客も良い様だ。
しばらくすると、女主人が戻ってきた。
どうやら、話がついたようだ。
例の召喚士の部屋まで案内される。
トントン、と2回ノックをして部屋に入った。
椅子をすすめられたので、言われるまま2人で座る。
「ようこそ。エイジさん。ライクさん。
わたくしの名前は、マリーシア・スローウィン。
召喚士をやっております」
少女が深々と頭を下げる。丁寧に挨拶をされた。
……あれ、俺たち名前名乗ったか?
俺は、不思議に思って尋ねてみた。
「自分で【アナライズ】できますから」
と笑顔で教えてくれた。
魔法が自力で使えれば魔導機を使わなくても済む。
なるほど、さっき見つめられたのは【アナライズ】してたのか。
恥ずかしい勘違いをしてしまった。
ぺぇ太。このやろう。
勘違いさせんな。
その後、不公平だからと魔導機で【アナライズ】させてくれた。
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名前 マリーシア・スローウィン
職業 【召喚士】【淑女】
【大魔導師の子孫】
装備 略
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さすがは、高名な召喚士様。
そうそうたる職業をお持ちだ。
【ヘンタイ】の俺には【淑女】は眩しすぎる。
失礼が無いよう、俺も出来るだけ丁寧に挨拶を返す。
相手は多分偉い人だろう。
お堅い敬称がいるのか悩んでいると……
「『マリー』で良いですよ」
と言ってくれた。
空気も読める優しい人だった。
さっそく、俺たちはスキルと魔法について質問をする。
まず、ライクちゃんの「包丁」について。
これは【ほうちょう】というスキルだそうだ。
他にもどんなスキルがあるか知りたいと言うと。
「スキルと魔法は、【鑑定水晶】を使用すればわかります」
とわざわざ調べる道具まで貸してくれた。
【鑑定水晶】は、本来は魔法学院なんかで使用するものらしい。
なるほど。
【魔導機】=【名前・職業・装備】
【ギルド測定】=【強さ】
【鑑定水晶】=【スキル・魔法】
という構図らしい。
調べてみると、俺も結構スキルを持っていた。
えっ、知ってる?
だから、お前ら何で知ってるの?
しかし、魔法については、新たな情報が多い。
まず、魔法はその属性の精霊の力を借りて使うものらしい。
そして、個々の生物には主たる属性もある。
マリーさんが教えてくれた。
「ライクさんは『闇』ですね」
「えぇー……可愛くない」
本人は、えぇーとか言っているが、俺は完全に納得した。
むしろ闇以外の方が不自然だ。
ちなみに、俺は『光』らしい。
マリーさんは『木』だ。
まぁ、魔法については、長くなるので、またそのうち説明しよう。
その後、召喚術にも興味があったので聞いてみる。
というか、俺はこっちが本命だったりする。
なぜなら「俺自身が異世界へ召喚」された可能性があるからだ。
「召喚術といっても大したことは出来ないんですよ」
と、マリーさん。
曰く、召喚術には大きく分けて2種類ある。
1つ目は移転。
場所的に離れたものを、別の場所に呼びだす。
こっちが「召喚術」の基本だそうだ。
2つ目は、文字通りの召喚。
「精霊」などを「別の次元」から呼びだす。
俺が召喚されたとすれば後者だ。
「この辺に、別次元からの召喚が出来る人はいますか?」
期待を込めて聞いてみる。
辿っていけば、爺さんに会えるかもしれない。
「えっ、この辺というか……
そんなことができる人はいないですよ?」
えっ? マリーさんに、きっぱりと否定された。
俺は、諦めきれないので、再び質問する。
「たとえば異世界から、召喚するとか……」
「そんなの神様でも無い限り不可能ですね」
完全否定だ。
「……そうですか」
話を聞いてわかった。
これで、爺さんが召喚術で俺を呼んだという可能性は消えた。
まぁ、がっかりだが、爺さんさえ見つかれば方法は分かる。
まだあわてるような時間じゃない。
最後に、なぜ、見ず知らずの俺たちに良くしてくれたのか問う。
するとマリーさんは……
「エイジさんが、わたくしと同じ職業をお持ちでしたので……
つい、嬉しくなってしまって……」
顔を赤らめ、恥じらう少女。
えっ?
それらしい職業は無かったはずだ。
俺は魔導機を見ながら困惑する。
すると……
「あっ、【淑女】はヘンタイの上位職です」
説明してくれた。
やったー。なかまがふえたぞ!!
……そうじゃないよ。
もうやだ、この異世界……
……大体のことは聞いたので、お礼を言って宿に帰ることにする。
今日は色々勉強し過ぎた。
マリーさんは、わざわざ宿屋の外まで見送りに来てくれた。
……おや?
外に出てみると、例の道の真ん中に生えた大樹に、人が集まっていた。
何やら騒いでいる。
事情を聞いてみると、子供が枝にいるらしい。
建物から大樹に飛び移って遊んでいるうちに、降りられなくなったそうだ。
大声で建物の方に移る様に指示を出す。
みんなで必死に声をかける。
しかし、子供は泣いていて、動こうとはしない。
このままでは、いつか落下してしまうかもしれない。
どうにか出来ないかとうろたえる。
するとマリーさんが、円盤の様な物を地面において、なにやら始め出した。
「悠久の森の盟約により、我に木々の力を授け給え。
出でよ、森の精霊、ドリアード」
パァァァと円盤が光り出す。
光の中から、葉っぱを纏った半裸の女性が現れる。
うっすらと緑色の身体が透けている。
召喚されたドリアードが、ゆっくりと手をあげる。
すると、スルスル……と地面からツルが生え、天高く伸びる。
ツルは子供をつかむと、ゆっくりと地面まで降ろした。
おぉぉ! っと辺りから歓声が上がる。
「はい、もう大丈夫
もう、危ないことしちゃだめよ」
「しょうかんしさま、ありがとー」
マリーさんが子供を優しく諭す。
ドリアードはいつの間にか消えていた。
「ねっねっ、あれ召喚術だよねっ?」
間近で見たビックリ現象を、ライクちゃんが興奮気味に語る。
まぁ、俺はVRゲームで見たことがあるが、確かにこれもすごい。
……あれっ、まてよ?
だけど、あれ明らかに「精霊」の召喚じゃなかった?
腑に落ちない俺はマリーさんに駆け寄って文句を言った。
「嘘をつくなんて酷いじゃないですか、マリーさん」
「えっ?なんのことですの?」
「精霊ですよ、精霊。
召喚できるじゃないですか!」
「えぇ、出来ますけど……」
「さっきは、出来る人いないって言ったじゃないですか!」
「あら、妙なことをおっしゃいますのね。
だって、わたくし、『エルフ』ですよ?」
「えっ?」
「えっ?」
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名前 エイジ・ニューフィールド
職業
略
装備
略
強さ
略
スキル
略
ゴミ箱
略
持ち物
略
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名前 マリーシア・スローウィン ←NEW!
職業 【召喚士】【淑女】
【大魔導師の子孫】
装備 聖女の法衣
聖樹のつえ
召喚の円盤
へんたいパンツ
強さ
レベル 23
生命力 180
攻撃力 67
守備力 61
魔法力 200
素早さ 162
友好度 70 ⇒ 【しんきんかん】!! ←NEW!
スキル
???
ゴミ箱
しゅうちしん
おとめのはじらい
たいせつななにか
持ち物
えっちなほん
うすいほん
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※作者注
こういうネタを使うと、地の文で「人」という文字を使えなくなりそうです。しかし、そうすると作者の少ない語彙では、対応出来ません。地の文で「人」を使っても勘繰らない様にお願いします。特別な意味を持たせるときは、分かる様に致します。