第2話-はじめてのせんとう
神殿の様な場所を後にして、しばらく道なりに進んでいく。
苦心してランタンを付けたので、先が見えるほどには明るい。
道は狭いが、いまのところは一本道だ。
壁が人工的にならされているように見える。
洞窟というよりも、人工的な通路だろう。
キョロキョロしながら、しばらく歩き続ける。
すると……
「うっ、ぉ…」
前方に、なんかでっかいのがいる!?
驚きながら、とっさに物陰に身を隠す。
ランタンの明かりをしぼり、暗闇にまぎれた。
まだ心臓がバクバクしている。
こっそりと、目を凝らしながら確認する。
暗がりにうっすら見える、青い半液状の巨大なかたまり。
形容しがたい物体だが、例えが1つしか浮かばなかった。
そう、RPGに出てくるあいつ。
スライムだ。
とっさにも、逃げださずに済んだのは、
VRでRPGができる世代のたまものだろう。
自分を褒めてあげたい。
えっ、なにあれ? ここVRゲーム?
俺が爺さんの部屋でやってたのは、
旧型のモニターゲームじゃ?
思考が混乱する。
さっきまで俺は、ここは当然
「現実」だと思っていた。
鎧とか剣とか、ファンタジーの要素は満載だったが、
PCやVRゲームを起動した記憶は無い。
なにより服の感触も壁や地面の感触も「本物」だったからだ。
現実と思っていた場所での、モンスターとの遭遇。
危険も予想したが、これは想定外だ。
目の前には、文字どおり怪物がいる。
混乱しない方がおかしい。
ここはゲームの中なのか……?
寝ている間にゲームを起動されたとすれば、
あり得ない話ではない。
「本物」のような物の感触、知らない場所。
不可解な点は多いが、俺の知らないゲームなんて、
ネットには山ほどある。
それなら……
「ログアウト」
頭の中で念じる。
……しかし、変化は無かった。
VRゲームでは、「ログアウト」の動作だけは共通だ。
VR体験は精神的な負担もかかるため、
どんな場面でも「ログアウト」できる。
また、重要機能である以上、不具合がでないよう管理されている。
それが出来ないということは、よほどの事故か、
ここが「現実」かのどちらかだ。
まいったな……
困った事態だ。
知らない内に管理ミスに巻き込まれたならば悲惨だし、
モンスターが出てくる現実……
なんて想像もしたくない。
まぁ、どちらにしても、現状を切り抜けなければ。
不幸中の幸いは、最初のモンスターがスライムだったことだ。
どんなゲームでも、よく見るモンスター。
思ったよりでかいが、さほど恐怖心なく目視できる。
落ち着くと、興味の方が強くなった。
物陰から、何度もチラ見する。
スライムは、道をふさぐように、たたずんでいる。
気付かれずには進めそうもない。
引き返すか? しかし、ここまでは一本道だった。
引き返した後、さっきの神殿に向かわれたらまずい。
追いつめられる形になる。
戦うにも攻撃手段は、剣しかない。
どうやって、切り抜けるか……
などと様子をうかがっていると、スライムに気付れてしまった。
ぶよん、ぶよん、と跳ねながら、こちらにむかってくる。
「うぁああああ!?」
とっさのことでパニックになる。
全力ダッシュ。
にげるの一択。
もう無理。
正直、あんなでかいのに勝てる気がしない。
いくら相手がスライムでも戦うなんてごめんだ。
しかし、このスライム、動きが意外と速かった。
俺の体力では、ダッシュは長くは続かない。
スライムとの距離がガンガン縮まってくる。
もうすぐ追いつかれる……!
すんでのところで、俺は出鱈目に剣を振り回した。
……すると、ブツン、という音とともに
スライムの一部が切れた。
どうやら、このスライムは剣で斬れるらしい。
しかも、いきなりの反撃に戸惑ったのか、
スライムは攻撃してこなかった。
斬られたスライムはうねうねしながら、
後ずさりしていく。
すこし余裕の出来た俺は、態勢を立て直した。
剣を構えつつ、思考を巡らせる。
モンスターへの恐怖が無くなったわけではない。
でも、こいつには剣が効く。
よく考えてみれば、ゲームの戦闘と変らないじゃないか?
落ち着け。
落ち着け。
……覚悟を決めて、飛び込みながら、剣を振り下ろす。
もちろん、倒そうなんて考えていない。
今の俺に出来る精一杯のこと。
最強にして最後の手段。
そう、すれ違いざま、逃げるつもりだ。
戦闘?
ヘタレの俺が戦うわけ無いじゃないですか、ヤダぁ。
ところが、結果は意外だった。
ブシュっ!
という破裂音のあと、真っ二つになった
スライムの身体が左右に倒れる。
牽制になれば、と振りかぶった剣が
敵を切り裂いた。
どうやら、一撃だったようだ。
倒れたスライムの身体は透明になって消えた。
「うひぇ、う、あれ、倒した?」
勝利したのに、激しくきょどってしまった。
あげく、勢いのあまりよろける。
嗚呼ヘタレここに極まれり。
しかし、情けないのはモンスターも同じだ。
モンスターってこんなに弱いのか?
ザコの代名詞ともいえるスライムだからか?
あるいは、俺に何らかの補正がかかっているのか?
振り返ってみると、スライムがいた場所には、
スライムの破片みたいなものが落ちている。
ドロップアイテムか?
モンスターの消え方と言い、ドロップアイテムと言い、
ここは、ゲームではないかと本気で思い始める。
それなら、機能が回復するまで待てばいいだけだ。
アイテムは、念のため剣先でつついてみる。
ここまで感触がリアルなゲームだ、
飛び散った溶解液とかだったら、怖すぎる。
どうやら、剣先は溶けていないみたいだ。
髪の毛を一本抜いて落してみる。
髪の毛も溶けない。
溶解液の類ではないようだ。
恐る恐る触ってみると、ひんやりとした感触が伝わってきた。
思ったよりべたべたしてはいない。
【スライム・ジェル】
おっ、何か頭に浮かんできた。
やっぱゲームか。
さて、問題はこれをどうするかだ。
ドロップアイテムならば、お金にもなるだろうし、
役に立つ場面もあるだろう。
周囲の状況、自分の装備、合理的に考えれば、取るべき行動は1つだ。
……俺はアイテムを放置して歩き出す。
えっ、アイテム? いらない、いらない。
あんな青くてキモいの持って歩きたくないし。
だって、カバンはおろか、ポケットすらないんだよ?
そもそも、このゲームをやりたくて始めたのでは無い。
機能が回復すれば、即「ログアウト」だ。
「今はこの場所から抜け出すことが優先だな」
気持ちを切り替え、先に進むことにした。
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名前 新原 英治 (こんらん・へたれ) ←NEW!
装備
略
強さ
???
ゴミ箱
しゅうちしん
ゆうき ←NEW!
こんじょう ←NEW!
持ち物
略
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