第28話-旅の一夜(ライク)
夕方にほど近い午後。
俺たちは宿屋の裏口で夕飯の準備をしている。
時刻は午後3時手前といったところだ。
俺、ライクちゃん、そして犬。
この場所には2人と1匹しかいない。
「やっぱりさぁ、納得いかないんだけど……」
俺は、ぶつくさと文句を言いながら、犬と戯れる。
ライクちゃんは、しゃがみ込んで手を動かしている。
桶に皮を入れながら、包丁でジャガイモを剥いているのだ。
こうして外で料理していると、林間学校を思い出す。
「えぇー、そうかなぁ……」
と反論するライクちゃん。
しかし、俺は文句を続ける。
「だって、名乗る時にさぁ……
ライクちゃんは『あたしは瞬斬のライクよ!』って
カッコよく言えるけどさぁ……
俺なんか……
『癒しのトカゲパンツだっ!ばっばーん!』って
なってしまうんだよ?」
犬を転がしながら説明する。
ライクちゃんが下を向いてプルプルしてる。
……やっぱり、笑いを堪えてる。
……最悪だ。
ライクちゃんの通り名の由来は、ゴブリンを一「瞬」で「斬」殺したから。
俺のは、もとの通り名に加えて、ポーションで村人を治療したからだ。
俺は今、こんな残念な通り名はごめんだと、文句を言っていたところだ。
ライクちゃんは料理をしつつ、その愚痴を聞いていた。
ちなみに、もうひとつ状況を説明すると。
一応、「戦闘中」でもある。
「がるるる」
と向かってくる犬を、ひのきぼうで転ばせている。
さっきから、犬、犬、言っているが……
正確には、ロンリ―・ウルフというモンスターだ。
まぁ、モンスターと言えど、レベルが低いから全然怖くない。
むしろ子犬みたいでかわいい。
毛並みの青いまめ芝みたいだ。
当然、チート剣は装備から外している。
他の荷物と一緒に宿屋の中だ。
生かさず、殺さず、ころっころっとモンスターを弄ぶ。
決して殴ってはいけない。
なんで、こんな事しているのかって?
俺がわざわざ子犬と戦闘している理由。
それは、ライクちゃんの「包丁」を使うためだ。
今夜、村で宴会がある。
ゴブリンを退治した俺たちをもてなしてくれるらしい。
俺たちもその料理の準備を手伝っている訳だ。
まぁ、単なる手伝いなら村の包丁を借りればいい。
だが、これはちょっとした検証も兼ねていた。
「やっぱり、戦闘中だと出るねぇ……」
「ということは、なんかのスキルだな……」
そう、「包丁」がどういうものかの検証だ。
2人で相談した結果、一応スキル関係ということに落ち着いた。
しかし、考えてみれば、俺は異世界に来たのに魔法やスキルを使っていない。
確かに、魔導機なんかも魔法なんだが……
文明の利器と似てい過ぎて違和感がなさすぎる。
「せっかく魔法で有名な場所まで来たから……
少し、本格的に調べてみない?」
ライクちゃんに提案してみる。
急ぐ旅でもない。宿泊を延長することは可能だ。
「そうだよねぇ……
予定が変わって、エルフ地区まで見れなかったし」
顔を上にあげながら、うーんと唸っている。
ポニーテールの髪がゆらゆら揺れる。
「もう一泊、増やしちゃおっか?」
決定だ。
明日、エルフ地区に魔法やスキルを勉強しに行こう。
こうして、宴会までの時間が過ぎて行った。
……夜、宴会が始まった。
日が落ちるのを待たずに村人たちは集まってきた。
各々が酒や肉を持ちより、テーブルにご馳走が並ぶ。
田舎の民謡がどこからともなく聞こえる。
がはは、あはは、という笑い声が響く。
ちょっと肌寒いが、素敵な夜だ。
満天の星が、夜空に輝いている。
空を見上げ、ふぅと息を吐く。
もちろん、内向流ぼっち術師範代の俺は、会話に混ざるなど出来ない。
早々に村人と社交辞令の挨拶を済ませた。
後は、もっぱら岩陰で肉をむさぼり食っていた。
……やめて、可哀そうな目で俺を見ないで。
横には、やけに懐いてきた、さっきの犬っころが居る。
倒すのも可哀そうだから、森に帰してやろうとしたら来てしまった。
まぁ、かわいいから悪い気はしない。
それに名前が気に入った。
特に「ロンリ―」ってとこだ。
「おい『ろん』、食うか?」
適当に名前を付けた。
ロンリ―・ウルフの「ろん」だ。
この名前にセンスが無いと感じた奴は職員室に来い。
後で補習授業を行う。
「わん!」
『ろん』にも肉を取り分けてやると、
はぐはぐっと旨そうに食った。
こうして、宴会の夜は楽しく更けていく。
「あー。もう食えない」
食事を終え、宴会を抜け出す。
宿屋に向かいトコトコと帰る。
……むふふっ、これからは大人の時間だ。
なんたって、美少女と一つ屋根の下に泊るのだ。
いや、居候だから今までもそうだが。
旅先では全く「環境」が違うのだ。
邪な事を考え、宿屋のドアを開ける。
おかえりなさい、と宿屋の親父が声をかけてくる。
ただいま、と笑顔で返し階段を上っていく。
俺たちの部屋は2階だ。
ライクちゃんは先に部屋に帰っている。
……そう、宿屋の親父のやつ。
何を思ったかまさかの「男女相部屋」だ。
ほめてつかわす。
ほめてつかわすぞよ。親父。
高まる鼓動を抑え、ドアに手をかける。
嗚呼、この先は桃源郷か。
鎮まれぇ、鎮まり給えぇ。
俺のゴブリンのこんぼうよ。
平静を装い、声をかける。
「はっ、入るよ」
……しかし、部屋の中には、
本物の【ゴブリンのこんぼう】が、
一列に並んでいた。
部屋を見事に分断している。
「えっ、なにこれ?」
「あっ、それ国境ねっ!」
「そっちの領土にベッドがあるんだけど……」
「大丈夫、エイジ君にもお布団は貸してあげるよっ!」
チクショー!
ライクちゃんの防御は鉄壁だった。
……悔し涙に枕を濡らしながら寝た。
翌朝、宿屋の親父に魔法やスキルの情報を聞く。
どうやら、運よく高名な召喚士様がこの町に来ているらしい。
せっかくなので、その人を探してみようと決まった。
観光を兼ねて市街地を見て回る。
人間地区の最端とは違い、なかなか都会的だ。
中心に行けばいくほど、建物が増えていく。
ちょうど人間地区とエルフ地区の境目の路上で人だかりを見つけた。
有名なだけあって、すぐに見つけられたようだ。
人混みを掻きわけ進んでいく。
そこには……
人に囲まれながら、楽しそうに談笑する金髪ウェーブの美少女が居た。
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名前 エイジ・ニューフィールド
職業 【英雄の子孫】【冒険者】
【げどう】【ヘンタイ 】
【拳闘士】【獣使い】 ←NEW!
装備
略
強さ
略
スキル
略
ゴミ箱
略
持ち物
略
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名前 ライク・ブルックリン
職業
略
装備
略
強さ
略
スキル
略
ゴミ箱
持ち物
略
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