第27話-ラジフォレスの町
ゴトゴトゴトゴト……
荷馬車は順調に丘を登っていく。
天候は晴れ。
荷台には、わらが山の様に積まれている。
俺たちは、荷台の後ろに腰かけている。
俺はいつもの皮の鎧。
ライクちゃんは虹色コガネのときと同じ装備だ。
荷馬車には、街道を歩く途中乗せてもらった。
偶然会った知り合いの荷馬車だ。
前ではおじさんが手綱を取っている。
振動が凄いが、酔うほどではない。
「うーんと、これと、これと……」
ライクちゃんは、しきりに荷物の整理をしている。
目的地は、アインの住む【ドワフィリア】という町。
ここからは、2~3個程、町を超えなくてはならない。
初めての遠出だ。
旅と身構えるようなものではないが、観光旅行ぐらいの感はある。
緊張しているのだろう。
「あっ、そうだ、忘れてた」
ライクちゃんが、荷物を取り出しながら言う。
なにか思い出したようだ。
「はい、エイジ君、これ。
ケットお姉ちゃんから」
渡された荷物を受け取る。
ケットお姉ちゃん?
聞き覚えが無いので困惑していると。
「騒動になったアイテムショップのお姉さんだよっ!」
あぁ……。あの人か。
そういえば、騎士団に連行されてから会っていない。
なにせ、俺のトラウマ生産所だ。
自然と足も向かなくなる。
「何度も誤解してごめんなさい。
お詫びの品です、だって」
ライクちゃんは旅の準備に、あの店に寄ったそうだ。
そして、そこで言伝を頼まれた。
店の親父さん、サーブさんというらしい、が……
【ラスト・ポーションEX】を1つ。
ケットさんは……
「私はまだうまく出来ないけど」
と、たくさん【ハイポーション】をくれた。
アインのところに行くには、町をひとつ越えなければならないらしい。
旅をする身だ。回復アイテムはうれしい。
どんな危険があるか、わかったものではないのだ。
ライクちゃんの荷物も、この回復アイテムでパンパンになっている。
なにも、全部持ってこなくても良いのに……
「それと、これ注意書きだって」
注意書き?
あぁポーションのか。
町から出たら読んでくれ、だそうだ。
前回は使用方法がわからなくて困った。
親切じゃないか。
ありがたく読ませていただこう。
ピラっと紙をひらくと、綺麗な女文字があった。
そこには簡潔にこう書かれていた。
「ポーションだけです。
絶対ぱんつはあげませんからね」
いらねぇよ!
こっちの「注意」かよ!
っていうか、誤解、解けてねぇよ!
と、ひと突っ込みしている間に、町に着いてしまった。
今日は、ここで一泊しなければならない。
町の名前は【ラジフォレス】。
ありえない大きさの大樹を中心に町が出来ている。
大樹の大きさは高層ビルなんてもんじゃない。
なんせ、町の外からも見えるほどだ。
町は、大樹を囲むように構成されている。
中心部がエルフ地区、周辺部が人間地区と分かれているらしい。
町というより、村の集合体のようだ。
「エルフもいるの?」
ライクちゃんに聞いてみる。
「うん、いるよ」
曰く、ここはエルフとも交流が深い町だそうだ。
大樹から分かる様に、ここは自然豊かだ。
町の人も植物を大切にしているらしい。
そういう点でエルフと気が合い、行き来があるとか。
エルフといえば、ファンタジーの美男美女の代名詞だ。
すごい美少女とかいるのだろうか。
美男は別にいい。
あと、見逃せないのは、この町の特徴だ。
エルフのおかげで、スキルや魔法関連の分野が発展しているらしい。
これも楽しみだ。
いざ、町に入る。まずは人間区の最端だ。
2人で辺りを見まわす。
そこは、まさに典型的なRPGの「村」だった。
村人が農作業したり、犬が駆けまわったりしている。
あぁ、良いなここ。なんか落ち着く。
【グランアルプ】もいいが、こういう、のどかな場所もありだ。
まぁ、人の手が入っていないということは、それだけ危険もある。
聞いてみると、小型モンスターの襲来が悩みの種だそうだ。
なんか地方のイノシシ被害みたいだ。
しばらく村を散策する。
暇つぶしに、アイテムショップを覗いてみる。
見た目は観光地の売れないお土産屋みたいだ。
ごちゃごちゃ良く分からないアイテムも多い。
とりあえず、商品を見せてもらう。
ひのきのぼう
なべのふた
のろいの人形
おおっ!やっぱりあった!
【ひのきのぼう】!
こういう場所だから、あるんじゃないかと思った。
つい嬉しくなって買う。銅貨1枚、(100円)だ。
まぁ、一部不穏なものが置いてあるがスル―しよう。
さすがは、魔法とスキルの町。
のろいって……
店から出て、しばらくぶらぶらする。
雲がゆっくりと流れる。
適当なとこで、飲み物を買った。
二人で、その辺の岩に腰かけて飲んだ。
ライクちゃんはすっかり……
「あぁ~。平和だねぇ~」
と「たれライク」状態だ。
……しかし、和やかな雰囲気は不意に終わりを告げた。
カン、カン、カン、カン!!
突然、村の警鐘が鳴る。
バッ! と臨戦態勢に入る俺たち。
「ゴブリンの強襲だぁ!!!」
矢倉からおじさんが叫んでいる。
2人で顔を見合わせる。
「行こう!ライクちゃん!」
このタイミングで、村に来ることができて良かった。
村の人を助けてあげられるはずだ。
小型モンスターの襲来くらい跳ね除けてやる。
村の端まで一気に駆け抜ける。
そこには……
ガヘッガヘッ!
全身が緑でいかにも頭悪そうな小さいモンスターが一杯いた。
こいつらがゴブリンか。
畑の作物を食い荒らし、家畜を襲っている。
数が多すぎて、対処しきれていないらしい。
少なくない村人が怪我を負っている。
ガヘッ……へへ!
数匹が、こちらに向かってくる。
一匹の強さはさほどでもなさそうだ。
ズブッ!
チート剣でひと突きにする。
しかし……!
「いやぁぁ!」
しまった! 一匹、取り逃がしたっ!
ライクちゃんめがけて、ゴブリンが襲いかかる!
ちっ、これが数のちからか!
ダメだ、待ちあわないっ!!
……ずぶりっ
肉を刺す音。
血しぶき。
だが、やられていたのは、ゴブリンの方だった。
「えっ!?」
ライクちゃんの手に包丁が握られてる。
ぽたっ……ぽたっ……と滴る血。
ぐっ……グロイ……
「……なんか、包丁……出てきたんだけど……」
なにも無いところから、手に包丁を生み出した少女。
真っ青な顔で俺を見つめる。
いや、そんな顔で俺を見られても……
知らないよ?
俺に分かるはずも無い。
と……とにかく、ライクちゃんが無事で助かった。
その後、ライクちゃんの戦闘における活躍は目覚ましいものだった!
「あわわわわ!」
と言って、ライクちゃんがすっ転ぶ。
その先には、当然の様にゴブリン。
グサッ!
「はわわわわ!」
ザクッ!
「うわわわわ!」
ズバッ!
……なんせ、トラブルメイカーが包丁を持っているのだ。
危なくないわけがない。
ゴブリンがサクサク倒されていく。
ちょっとした虐殺現場だ。
辺りにはドロップアイテム【ゴブリンのこんぼう】が散乱している。
俺は自分に包丁が刺さらない様、戦闘を放棄してタルの影に潜んでいた。
それでいいのか主人公。
これでいいのだ。
しかも、俺が見たところ、包丁はほぼ一撃でゴブリンを倒している。
ひょっとして、ライクちゃん俺より強い?
いやいやまさか。
でも、あの包丁に高い攻撃力補正があるとも思えないし……
はっ!
まさか「即死攻撃」の類か。
包丁……うん、考えない様にしよう。
ゲヒー……!
とうとう、最後の1匹が悲鳴をあげて消えた。
ゴブリンかわいそう……
「はぁー……」
気が抜けてペタンと座り込むライクちゃん。
俺は、駆け寄って肩を支える。
あれ、さっきから役割逆じゃない?
とにかく、戦闘は終わった。
……その後、俺たちは傷を負った村人の手当てを行った。
あちこちポーションで治療して回る。
「次の方どうぞぉ!」
最後の方は、診療所みたいになっていた。
ドクターエイジ診療所。
大量に持ってきたポーションがさっそく役に立ったわけだ。
おかげで、村人からは感謝された。
婆ちゃんなんか、道端で俺とライクちゃんを見ると……
「ありがたや、ありがたや」
と拝んでくるぐらいだ。
ちょっと恥ずかしいが、良い事すると気分が良い。
もっと大きな変化もある。
俺たちの通り名が、この善行で変更されたのだ!
通り名なんてのは、その人の偉業で決まる。
百人斬りの○○とか。
ドラゴン殺しの○○とかだ。
今回、ライクちゃんはこの出来事で……
「瞬斬のライク」
という通り名をつけられた。
こうして、俺たちの通り名がグレードアップしたのだ。
えっ?
俺の通り名を聞いてない?
いいよ。俺のは。
……笑うなよ。
「癒しのトカゲパンツ」
……もう、高齢者用オムツの新商品みたいだ。
……人ですらないもの。
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〔情報図巻〕
スキル 【ほうちょう】
取得条件
自分より高レベルの相手を包丁で刺す。
効果
戦闘時に包丁を生み出す。
闇属性。
そこそこの確率で即死攻撃。
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名前 エイジ・ニューフィールド
職業
略
装備
略
強さ
略
スキル
略
ゴミ箱
略
持ち物
ランタン
ギルド長のゆうあい
サバイバルメモ
皮のジャケット
布の服
岩トカゲの皮
たくさん鉱石
魔導機
ラスト・ポーションEX ←NEW!
ひのきのぼう ←NEW!
ゴブリンのこんぼう ×62個 ←NEW!
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名前 ライク・ブルックリン
職業 【マネージャー】【夢見る少女】
【世話焼きっ子】
装備
略
強さ
レベル 8
生命力 43
攻撃力 37
守備力 30
魔法力 8
素早さ 40
友好度 92 ⇒ 【けっこんぜんてい】!!
スキル
【トラブルメイカー】【ほうちょう】
ゴミ箱
持ち物
思い出のペンダント(だいじなもの)
魔導機
たくさんハイポーション ←NEW!
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一部、文章追加。
「目的地は、アインの住む【ドワフィリア】という町。
ここからは、2~3個程、町を超えなくてはならない。」