第26話-鍛冶
5月2日、木の日。
俺は、鍛冶屋の親方に呼ばれていた。
「トカゲパンツに話がある。
明日、鍛冶屋の作業場へ来いと伝えてくれ」
ガーターさんにそれだけ言って、親方は帰って行ったそうだ。
ライクちゃんと町から帰ってくると、そう伝えられた。
……そして、俺は今、鍛冶屋の裏手に来ている。
店の裏手がちょうど作業場だ。
作業場はレンガと岩を上手に組み込んで作られている。
火を扱っているせいで、室温が高い。
プシュープシューという音が場内に響く。
素材を打つ、ガン!ガン!ガン!という力強い音も聞こえる。
鉱石、かまど、ハンマー、工具……。
ギラギラと光る汗臭い漢たちの仕事場だ。
俺に気がつくと、親方が手を止めた。
パンパンに張った筋肉に滴る汗を拭きながら、こちらに歩いて来る。
途中、ガチャリ、と立てかけてあったチート剣を取る。
「よう、トカゲパンツ」
俺も、こんにちは、と頭を下げる。
わざわざ呼ばれるなんて、チート剣の攻撃力のことか? とも思った。
しかし、ギルドで測定でもしない限り、攻撃力がバレることは無い。
案の定、話は違うことだった。
「昨日、店の主人から渡されたが……
こいつはウチじゃ、手に負えねぇぜ……」
ガシャっと剣を投げる。
俺は投げられた剣を受け取りつつ言う。
「えっ、やっぱりそんなにボロいんですか?」
俺は言う。
親方がムスっと返す。
「……いや、そうじゃねぇ。
こいつは【神鉄】で出来ている。
単に、俺の手に負えねぇだけだ……」
俺が問う。
「しんてつ?
それって、オリハルゴンより、希少なんですか?」
親方が答える。
「馬鹿言うな、神鉄に比べりゃオリハルゴンなんてただの石よ。
なにせ、この世に7つしかねぇ【神具】と同じ素材だ」
さらに……
「武器は冒険者の命だから、出所はきかねぇ……が
こいつは、相当ヤベェもんだな」
……あー。爺さん、一応「英雄」だもんな。
そういう曰く付きの武器の可能性は十分だ。
「じゃあ、修理は無理なのか……
まぁ、別に困ってないし、このままでいいや」
俺はあきらめて言う。
すると、親方が……
「そいつは、もったいねぇぜ、トカゲパンツ。
見たとこ、ガタのせいで、そいつの性能はいいとこ半分だ。
しっかり、整備してやりゃ、もっと良い武器になる」
……今のままでも十分チートだが。
しかし、性能アップは魅力的だ。
「でも、直せないんじゃ、仕方がないですよ」
俺は気を使って言う。
「いや、絶対直せねぇ、とは言ってねぇ。
【神鉄の巫女】なら可能だ」
親方が返す。
【神鉄の巫女】……ドワーフ女性の固有職業。
そして、鍛冶師として【神鉄】を扱える唯一の職業でもある。
もっとも、【神鉄】自体がほとんどないものだ。
鍛冶師よりは、文字通り巫女としての側面が強いらしい。
「そんなの、知り合いにいませんよ」
アハハハ、と後頭部に手をあてて答える。
ガハハハ、と親方も豪快に笑う。
「そうだな、ドワーフでもめったになれるもんじゃねぇ。
当代じゃ、アイン・アルバトロス嬢ぐらいなもんだ」
笑いながら親方にバシバシと肩を叩かれる。
……はい、知り合いにいました。
「……と言うわけで、剣の修理に行きたいんですが」
家に帰って事情を話す。
ガーターさんとライクちゃんは呆れている。
「まさか、あのアルバトロス家と知り合いとは……」
「話に出てきたアインが……
あのアイン・アルバトロスなんて思わなかった……」
2人とも額に手をあててうなだれている。
アインのやつ、そんなに偉いんだろうか?
「まぁ、クエストのこともありますし……
無理にとは言わないんですけど……」
まぁ、俺の本音だ。
正直、クエストをこなすには十分だし。
一応、相談しているだけだ。
「そのことなんだが……」
とガーターさんが話しかける。
すこし、目が泳いでいる。
「……張り切ってくれるのは嬉しいんだが。
エイジ君が頑張りすぎると……
……その、今年はもういいかなって」
なにやら、ごにょごにょ言っている。
要するに、俺が稼ぎすぎると他の冒険者に迷惑らしい。
それもそうだ、岩トカゲ騒動であれだけ稼いだのだ。
他のクエストも同じ調子でこなされたら、ギルド側も困る。
なにせ、マネージャー制なのだ。
明らかに収入が偏る。
「……最近、同僚の目が冷たいんだ」
両手で顔を覆いながら、うつむく。
苦労してんだなこの人……
まぁこれで、心配ごとの1つは消えた。
しかし、まだ相談はある。
「それで、ライクちゃんも一緒に連れて行きたいんですが……」
えっ? という顔でライクちゃんが俺を見る。
あっ、今の顔、ちょっとかわいい。
……すいません。のろけました。
しねとか言わないでください。
あっ、イタイ。
やめて、モノは投げないでください。
……いや、真面目に話そう。
1つ目は情報のことだ。
前回の岩トカゲの【斬撃無効】のこともある。
やはり、俺だけでは異世界の戦闘を勝ち抜くことは出来ないと思い知った。
攻撃力だけのゴリ押しではダメということだ。
得られるならば、情報のサポートは欲しい。
しかし、アルプ鉱山で考えたこともある。
確かに、今回は遠方へのクエストではない。
だが、ガーターさんを連れていくのはやはり危険だ。
レエンさんと離れ離れにするのも忍びない。
2人ともデートするほど仲がいいのだ。
この点、ライクちゃんはマネージャーを目指すだけあって博学だ。
これまでも「光の遺跡」で色々教えてくれたりもしている。
ガーターさん抜きで情報を得る。
これを実現するには、ライクちゃんが適任なのだ。
まぁ、率直に言うと。
どうせ、ダメならダメおっさんよりもダメ少女ということだ。
そして、2つ目は……
……言うな。
……そう、ヤンデレ化が怖いからだ。
とまぁ、率直にお願いしてみたのだが……
めずらしくガーターさんが渋ってしまった。
さっきから、腕を組み仕切りに悩んでいる。
やはり、娘を危険な旅に出すのは躊躇われるのだろうか。
「……いくらエイジ君とは言え
嫁に出すのは早すぎる」
そこまでいってねぇよ!?
あんた、今まで何を聞いてたんだよ!
修理につれてくだけだよ!
心の中で激しく突っ込んでから、訂正する。
ほんと、クエスト情報以外はダメだこのひと。
「だけど……」
今度は、ライクちゃんから物言いが入る。
「私まだ、正式のマネージャーじゃないよ?」
そうなのだ。ライクちゃんは正式なギルド職員ではない。
だから、魔導機は使えないし、ギルドも利用できない。
「それに、すぐに正式なマネージャーになるのは無理だよ」
曰く、ギルドマネージャーになるには、年に2回開かれる選択式試験をパスし……
その後、アイテム学、魔物学、地理学、歴史学などの論述試験を経て……
3日間に及ぶクエスト実技研修を終え、やっとなれるものらしい。
マネージャーには、ギルドの管理運営義務があるのだ。
好き勝手クエストをする冒険者とは違う。
まぁ、難しい仕事なのだろう。
良い冒険者と組めば、労せず一攫千金だし。
「それについては、俺に考えがある」
俺はこう言い放った。
数十分後……
~~~~【特例通達】~~~~~~
本日、この書面の到達をもって
ギルド長特別権限により
ライク・ブルックリン 殿を
冒険者ギルドマネージャーとする。
冒険者ギルド長 ブル・ダーツ
~~~~~~~~~~~~~~~~~
俺は、ギルド長の許可を片手に家に帰る。
「なななっなんで?」
ライクちゃんが、ぽかんと口を開けている。
書類を手にとって透かしたり、なぞったりしている。
いや、偽造じゃないからね。
まったく信用されてない。
不思議に思うかもしれないが、今回は不正な手段など使っていない。
そう、ただ単にギルド長に取引を持ちかけただけだ。
ヤンデレ治す方法ありますけど聞きたくないですか? っと。
……知ってるか?
ヤンデレって撫でると治るんだぜ。
美人の奥さんが、あのハゲに……
きゅん! と言わされるのは癪だが仕方がない。
こうして俺は、武器修理をすることになった。
■■■■■■■■■■■■■■■■■■
名前 エイジ・ニューフィールド
職業
略
装備
略
強さ
略
スキル
略
ゴミ箱
略
持ち物
ランタン
ギルド長のゆうあい ←NEW!
サバイバルメモ
皮のジャケット
皮のよろい
岩トカゲの皮
たくさん鉱石
魔導機
■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■
名前 ライク・ブルックリン
職業 【マネージャー RANK UP!】【夢見る少女】
【世話焼きっ子】
装備
強さ
略
スキル
略
ゴミ箱
持ち物
略
■■■■■■■■■■■■■■■■■■