第25話-ライクちゃん感謝デー
ピンポンパンポン……
主人公死亡により、番組を変更してお送りしています。
この時間は、秋葉原茂江太教授の文学講座をお送りします。
……あっ、大丈夫です。生きてました。
茂江太教授帰ってください。
ごめんなさい。
元に戻します。
おぉ エイジよ。
しんで しまうとは なさけない。
……いや、冗談だ。死んでない。
しかし、本当に死ぬかと思った。
たぶん、俺のレベルが低ければ死んでいた。
あやうく引っ張り出された胃袋を物理的につかまれるところだった。
残酷描写を警告してて本当に良かった。
あれから、俺はライクちゃんを正気に戻すため……
「よーしよしよしよしよしよし」
とムツ○ロウさんばりに頭を撫でた。
愛情表現すれば、どんな猛獣でも気持ちは通じると思った。
結果、ライクちゃんは、きゅん! と言って正気に戻った。
すごいや、ムツ○ロウさん!
まずは正気に戻ったライクちゃんを落ち着かせる。
とりあえず、倒れた椅子や鍋を片付けた。
窓から差し込む日差しが台所を夕焼け色に染める。
……二人とも無言だ。
ガタ……ガシャ……という物を動かす音しかない。
遠くから聞こえる、子供のはしゃぎ声だけが響く。
ライクちゃんは無言で料理に戻っていく。
なんだこれ。
まるで痴話喧嘩の後じゃないか。
ほんと、ガーターさん達が居なくて良かった。
こんなところを見せるわけにはいかない。
しかし、この修羅場はどうしたわけか。
不思議に思ってアナライズしてみたら……
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名前 ライク・ブルックリン
職業 【マネージャーみならい】【夢見る少女】
【世話焼きっ子】【ヤンデレ】
装備 略
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えぇぇぇ。
ヒロインが【ヤンデレ】になっちゃった。
……いや、そういう問題じゃない。
……反省しろ。
こうなってしまったのは、俺が心配をかけ過ぎたせいだ。
いや、自惚れかもしれないが。
最近の行動には思い当たる節が多すぎる。
女の子を追い込むなんて胸糞悪い。
……ライクちゃんにもっと優しくしよう。
心に決めた。
というわけで、今日は5月1日、水の日。
俺の中でひっそりとライクちゃん感謝デーを開催する。
俺はベッドから早々に飛び出て、いつもより念入りに仕度する。
寝癖をしっかりと直し、歯を丁寧に磨く。
買ったばかりの「布の服」に袖を通す。
いつものユニホーム姿ではない。
さっぱりとしたシャツとズボンだ。
鏡の前で、何度も裾を引っ張ったり、髪を整えたりする。
よし、完璧だ。
まずは、ガーターさんの許可をとる。
男らしくないが、言い訳を使わせてもらおう。
「武器が傷んできたので、ライクちゃんの案内で、修理に行ってきます」
まぁ、あながち嘘じゃない。
確かに、良さそうな鍛冶屋ぐらい自力で探せる。
だが、武器を修理したいこと自体は事実だ。
チート剣は、俺の唯一の武器であると同時に、爺さんの形見だ。
いつまでも錆びたままにするには忍びない。
「うんいいよ。いってらっしゃい」
あっさり許可を貰えた。
……何かもうこの人、オールオッケーなんじゃないかと思う。
次は、ライクちゃん本人だ。
菜園まで呼びにく。
「あっ、エイジ君……」
ライクちゃんが少し戸惑いながらこちらを向く。
じょうろの様なもので、植物に水をあげていた。
「おはよう。
ちょっと、お願いがあるんだ」
用件を伝える。少し迷っていたが同意を得た。
よし、後は準備をするだけだ。
2人して町に繰り出す。
俺は、いつもの様にグータラ歩かず、姿勢よく歩く。
ライクちゃんは、横をうつむきながら歩いている。
今日は装備ではなく普段着を着ている。
茶色いロングスカートに白いエプロンの様なものが巻いてある。
そのエプロンの中ほどを、キュと両手でつかんでいた。
まずは、予定通り、鍛冶屋まで行く。
店の主人に剣の修理という用件だけ伝え、早々に鍛冶屋を出る。
「行こう」
「えっ、あっ、ちょ!?」
俺は、ライクちゃんの手を引っ張り歩き出す。
正直、女の子が何をすれば喜ぶかなんて見当もつかない。
だけど、楽しませてあげたい、お詫びしたい。
そんな気持ちで早まる。
まずは、近くのアイテムショップまで行く。
ここは、あのトラウマ店ではない。
魔導機や戦闘用アイテム、雑貨などが置いてある店だ。
「えっ、鍛冶屋はもういいの?」
戸惑うライクちゃん。
俺は正直に話す。
「いや、実は日頃の感謝のしるしに……
何かプレゼントさせてもらおうかなぁ……なんて」
プレゼント作戦なんて物欲に働きかけるみたいで気がすすまない。
でも、いいじゃない。
ぼっちにデートなんて無理すぎる。
裸でエベレスト登る様なもんだ。
それに、変にサプライズを狙うとロクなことにならない。
これはトラウマ2号で実証済みだ。
「えっ、いいよ、いいよ」
遠慮するライクちゃんを引っ張って店内に入る。
2人して店を見て回る。
途中、魔導機が売っているコーナーで立ち止まる。
魔導機はスマホ(スマートフォン)みたいなアイテムだ。
うすい長方形の板で、液晶の様に片面が磨かれている。
店のおっちゃんに話を聞くと、これも「魔石」を使った道具の様だ。
魔石は、魔法を蓄える性質がある石のことらしい。
いつぞやの灯は魔石に【プチライト】の魔法をかけたものだ。
祠でも魔石には【レコード】の魔法がかけられていた。
「うちのは基本で【アナライズ】も【マッピング】もかけてあるよ」
店のおっちゃんが言う。
魔法付与されればその分性能も上がる。
当然スペックの差が値段にも反映される。
ライクちゃんがじーっと、魔導機を見ている。
原則的には、冒険者とマネージャーしか使用できないアイテム。
ギルドのマネージャーを夢見るライクちゃんには憧れのアイテムだ。
「魔導機……一緒に買おうか?」
俺は声をかける。
俺も魔導機は持っていない。
そろそろ自分専用のものが欲しい頃だ。
「えっ、いいよ、これ高いよ?
それに買ってもらっても使えないし……」
確かに、最低スペックのものでも、小金貨4枚、つまり4万円ぐらいだ。
「大丈夫。
ライクちゃんなら、すぐ使えるようになれるよ。
参考までに値段を見ないで選んでみて」
魔法付与の数が性能の差だ。
だから新しい魔法でも開発されない限りモデルダウンはない。
今買っても損は無い。
うーん、と真剣に悩むライクちゃん。
スペック、デザイン、耐久性、考慮事項はいろいろある。
「これ……かな?」
やはり、値段を無視すれば、最高スペックの魔導機だ。
色は白、シンプルだが、薄型で防水、耐久性も高い。
「おっちゃん、これ2つ」
「えぇええ?」
ライクちゃんが驚く。
それはそうだ、1つ大金貨1枚。
確かに高い。でも、俺に買えない値段ではない。
「まいど」
商品を受け取り店を出る。
「わぁぁぁ」
と言いながら、包みの隙間から魔導機を眺めるライクちゃん。
「ありがとう、エイジ君!
大切に使うからねっ!」
よかった、少し元気になったみたいだ。
俺も嬉しい。
軽くなった足取りで、次は森林公園に向かう。
次は、アレだ。
園内の池まで歩いく。
木々のざわめき。春の日差しが心地いい。
若々しい草木のエネルギーを吸い込みながら歩をすすめる。
老夫婦がベンチで休んでいる。
「さぁて、着きましたっと」
池のボート乗り場だ。
係留されたボートが、ぷかぷかと浮かんでいる。
「よし、それじゃ乗りますか」
俺は、両手でライクちゃんの両足と背中を抱え込んで船に乗せる。
なんせ相手は生粋のトラブルメイカー。
ここまできて、転んで池に落ちたら最悪だ。
「わっ、あっ、あっ!?」
抱えられたライクちゃんが、わたわたと驚く。
たぷん、と足に浮力を感じる。
ボートが揺らぐ。
「いいから!
乗りたかったんでしょ?
ボート」
ライクちゃんをおろし、オールを手に取る。
ゆっくりと漕ぎ出す。
ほどなく池の中ほどに着く。
ゆらゆらゆらゆら、水面には2人の影が揺れる。
俺はコームの実を2つ取り出す。
服で少しこすって、ライクちゃんに1つ渡す。
「……レエンさんに聞いたよ。
なんか、俺に食べさせようと採っておいてくれたって」
ごめん、と謝る。
コームの実だけじゃない。心配かけて悪かった。
岩トカゲの件は、事前にちゃんと情報収集していれば済んだ話だ。
ガーターさんなら、当然【斬撃無効】のことぐらい知っている。
どこまで1人でいけるかなんて、俺のわがままだ。
そのわがままが、アインを危険にあわせ、ライクちゃんを心配させた。
全て正直に語る。
……俺はコームの実を少しかじる。
「うん、美味い」
正直、食べ飽きたがここで食わねば男がすたる。
わっ、わざとらしいか?
「ぷぷぷっ」
とライクちゃんが笑う。
「ありがとう。
こっちこそ、ごめんね。
あたし、あんなことして……
嫌われちゃったと思ってた……」
ライクちゃんが話す。
「ライクって、別の国の言葉で……
『好む』って意味があるんだよ。
優しいライクちゃんのこと、だれも嫌いになったりしないよ」
言ってて恥ずかしくなった。
俺は照れ隠しにボートに寝転がる。
うぅーん、と背伸びをする。
異世界の空気は澄んでいる。
2人の間を青くさい春の匂いが過ぎゆく。
「ありがとう……」
ライクちゃんの声が小さく聞こえた。
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名前 エイジ・ニューフィールド
職業
略
装備
略
強さ
略
スキル
略
ゴミ箱
略
持ち物
ランタン
ギルド長のおんねん
サバイバルメモ
皮のジャケット
皮のよろい
岩トカゲの皮
たくさん鉱石
魔導機 ←NEW!
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名前 ライク・ブルックリン
職業 【マネージャーみならい】【夢見る少女】
【世話焼きっ子】
装備
強さ
レベル 3
生命力 13
攻撃力 12
守備力 15
魔法力 2
素早さ 16
友好度 90 ⇒ 【けっこんぜんてい】!! ←NEW!
スキル
略
ゴミ箱
持ち物
思い出のペンダント(だいじなもの)
魔導機 ←NEW!
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