第24話-良い小舟
……岩トカゲには【斬撃】が効かない。
だから、剣での戦闘は絶望的に不利だ。
通常、この状況を打開するためには【打撃】武器を使うしかない。
だが、なにもハンマーだけが【打撃】ではない。
チート剣の性能を思い出してほしい。
この剣は「持っているだけ」で、俺のステータスを上げるのだ。
測定の時も「剣を使わず」ではなく……
「剣をはずして」測った攻撃力が420だったはずだ。
そう、俺の拳は攻撃力2920の【打撃】なのだ。
何かカッコイイ!!
岩トカゲは一撃で沈んだ。
「おお!【オリハルゴン】がこんなに!
むむ、こっちは【フレアルビー】じゃ!
おー!あっちには【魔石】もある!
あー 宝の山じゃあぁ!」
……岩トカゲが消えると全身に纏っていた岩が残った。
アインによると、その岩石の中には希少な鉱石もあるらしい。
しかも、これらは「纏っていた」物であって、ドロップアイテムではない。
当然、ドロップアイテムの【岩トカゲの皮】も出現した。
おいしい、おいしすぎる。
そのせいで、すっかり味をしめてしまった。
「隊長っ!われ前方に岩トカゲを発見しました!」
「よしっ!とつげきじゃあ~~」
ワハハハハ!
岩トカゲを見つけるたび、ボコッと小突く。
2人で岩トカゲを狩りまくった。
動物虐待みたいで可哀そう?
いや、危険な生物だ。
決して個人的な憂さ晴らしではない。
ほんとですぅ、うそじゃないですぅ。
考えなしの殺生はマズイが、これは人が生きるための業。
ありがとう岩トカゲ……
お前は星になったのだ……
採集した鉱石はとても持ち歩ける量ではない。
一か所にまとめ、後日、ギルドに取りに行ってもらった。
当然、クエストも成功だ。
アインとは、町に着く前、街道で別れることになった。
「まったく、岩トカゲを殴りたおすなど聞いたことがない。
おぬしは、でたらめな やつじゃが……
なかなか、ゆかいな旅じゃったわい!」
高笑いするアイン。
「なごりおしいが、ちょうさほうこく せんとの!
おみやげも ざっくざく じゃ!」
ホクホク顔で帰って行った。
俺も、だらだら歩きながら家に帰る。
長いクエストだった。
「ただいまぁー」
間の抜けた挨拶をして、玄関で皮のブーツの泥を落とす。
……すると、バタバタバタ……
バッ!
いきなり駆け寄って来たライクちゃんに飛びつかれた。
「……エイジ君のばか。
……心配…したんだからねっ」
Sランクとは言え、所詮、採集クエスト。
それなのに3日も音沙汰なしは不安だったのだろう。
心配かけたみたいだ。
しばらく無言で抱きつかれたまま、放してくれなかった。
皮の鎧が少し濡れた。
……それからの日々は落ち着いたものだった。
前にも話したが、【グランアルプ】は鉱山の町だ。
鉱物を加工した武器や装備で生計を立てている人が多い。
流通量だけ調整すれば、貴重な原材料が大量にあるのは嬉しいらしい。
クエストの報酬もかなり上乗せがあった。
ガーターさん曰く。
「今年はもう、働かなくても贅沢ができる」
すげぇ。
ギルドから情報が伝わり、たちまち評判になった。
俺の冒険者としての評価もウナギ昇りだ。
町を歩けば、老若男女、みな親しげに声をかけてくれる。
「おっ、トカゲパンツ、今日はどうした?」
「あっ、トカゲパンツのおにいちゃん!」
敢えて言おう。
俺のことだと。
……もう、わけわかんねーよ!
エピソード混ざりすぎだよ!
俺の通り名なのに、エイジの「エ」の字も入ってねぇよ!
明らかにおかしい通り名がついてしまった。
おかしいと言えば、最近のライクちゃんの様子もだ。
俺が家の中で部屋を移動するたび……
とてとてとて……っと付いて来る。
「何か用?」
って聞くと……
「だって、エイジ君、いつもフラフラしてるし。
あたしがついてないと、またどっか行っちゃいそうだから……」
と、俺の服の裾を、キュッとつかんでくる。
……何この萌えキャラ。
あっ、なんだその目は。
爆発しろ?
だが、断る。
まぁ、ライクちゃんが気にかけてくれるのは嬉しい。
だが、鬱陶しくもある。
だって、ちょっと散歩に行こうとしても……
「どこいくの?」
っていちいち聞いて来るし。
コームの実を持ってきて……
「うちの菜園で採れたんだよ!」
「食べてみて!」
って、やたらすすめてくる。
だから俺は、はっきりと……
「いや、最近一杯食べたからいいや」
って断った。
……いや、だってサバイバルのとき一杯食べたもの。
しばらく、コームの実は食べたくない。
とまぁ、こんな感じで数日間、生活していた。
……そんなある日。
「エイジ君、夕飯の買い物付き合って」
と、ライクちゃんが誘って来た。
今日はガーターさんとレエンさんは一緒に夕食を食べない。
「エイジ君のおかげで、生活に余裕が出来たからねっ
お父さんたち、今日は二人でデートだって」
……仲がよろしい事で。
まぁ、やることも無いし着いて行く。
2人でぶらぶら道を歩く。
「あら、こんにちは」
途中、もの凄い美人と会った。
「こんにちは」
ライクちゃんが頭をきちんと下げ丁寧に挨拶を返す。
この美人はギルド長の奥さんらしい。
つやつやのロングストレートの髪とグラマーな体型。
そのスタイルを隠す様な露出の少ないタートルネックの服。
清楚で可憐な若奥様といった印象を受ける。
トートバッグの様な買物袋を手に持っている。
夕飯の買い物だろうか。
ギルド長、こんな美人の奥さんがいるのに不倫なんかしてたのか。
心の中で、ハゲのくせに、と悪態をつく。
「あの人、女グセが悪くて……」
世間話の合間に、ふと話題になる。
なんだ、俺がバラさずとも結局知ってたのか。
まぁ一緒に生活している夫婦で隠事は難しいものだ。
「全員、飲み屋のお姉さんみたいですし。
本気で愛しているのは奥さんだけですよ」
我ながら、ナイスフォローだ。
終始、和やかな雰囲気で別れた。
別れ際……
「あの子が例の子ね。
大丈夫、まずは胃袋をつかんじゃえば良いのよっ!」
っと、奥さんが、ライクちゃんに意味ありげにウインクした。
何のことか気になったので質問すると……
「最近、妙に気が合っちゃって……
ちょっと、相談ごとしてたの」
……だそうだ。
ついでに、森林公園に散歩にも行った。
本格的に散策してみると、公園は結構広かった。
園内に大きな池もある。
池には小舟が係留され、水鳥がぷかぷかと浮かぶ。
平穏な風景そのものだ。
俺は、小舟を見る。
くいくいっと船の先を押す。
水面が揺れる。
手ごたえから十分な浮力が感じられる。
「これは、良いボートだ」
俺は言う。
「なんなら、のっ、乗ってみちゃう?」
俺に気を使ってすすめてくれる。
だが、ライクちゃんの顔が赤い。
……熱でもあるのか?
それならば、早く帰るべきだ。
「いや、やめておこう
早く家に帰った方がいい」
「えっ、二人で……」
ごにょごにょとつぶやいている。
凄く残念そうだ。
よっぽど乗りたかったのか?
その後、公園を後にして、まっすぐ家に帰る。
家に帰ると、ライクちゃんは夕飯の準備を始めた。
エプロン姿で、台所に立っている。
「今日はシチューだよ!」
トントントン、軽快に包丁が音を立てる。
くるくるくる、おたまで鍋を回す。
ライクちゃんの調理は手際が良い。
俺は、やることも無いので、テーブルで話をしながら待つ。
他愛ない雑談。
「ねぇ、クエストの話を教えてよ!」
というので話す。
ドワーフの少女との3日間。
具体的には第19話ぐらいから話す。
あれ? いま俺、変な時間の単位使った?
ひと通り話し終わると……
……何か雰囲気おかしくない?
空気が重い。
さっきまで鳴っていた軽快な包丁のリズムが途切れる。
ドン!
包丁がまな板を鳴らす。
カラン、鍋がひっくり返る。
……中身が無い……だと?
「さいてー……」
うつむいたまま、ライクちゃんが、くるりとこちらを向く。
目に光がない。
包丁を持った手が怖い。
「エイジ君が悪いんだよ……?
あたしがこんなに心配してるのに……
3日間、他の娘とイチャイチャしてたなんて……!」
アッーーー……
……一方、同時刻。
ある家での出来事。
「……ねぇ、あなた。
……私、知らないわよ。
飲み屋の女って誰よ……!」
アッーーー……
アイアンクローで胃袋を直につかまれるギルド長の姿があった。
よいこのみんな!
うわきものには、せいさいを、だよっ!
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名前 エイジ・ニューフィールド (死亡?) ←NEW!
職業
略
装備
略
強さ
レベル 43
生命力 430
攻撃力 2930
守備力 430
魔法力 430
素早さ 430
スキル
略
ゴミ箱
略
持ち物
ランタン
ギルド長のおんねん
サバイバルメモ
皮のジャケット
布の服
岩トカゲの皮 ←NEW!
たくさん鉱石 ←NEW!
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名前 アイン・アルバトロス
職業
略
装備
略
強さ
レベル 24
生命力 148
攻撃力 123
守備力 122
魔法力 43
素早さ 36
友好度 60 ←NEW!
スキル
略
ゴミ箱
持ち物
略
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名前 ライク・ブルックリン
職業 【マネージャーみならい】【夢見る少女】
【世話焼きっ子】【ヤンデレ】 ←NEW!
装備
略
強さ
レベル 3
生命力 13
攻撃力 12
守備力 15
魔法力 2
素早さ 16
友好度 80 ⇒ 【恋する乙女モード】!! ←NEW!
スキル
【トラブルメイカー】【ほうちょう】 ←NEW!
ゴミ箱
持ち物
略
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