第22話-洞窟の一夜(アイン)
パチパチという焚き火の音が聞こえる。
外はすっかり暗くなっていた。
雨足は弱まったが、まだ、しとしとと降っているようだ。
俺は目が覚めると洞窟の中に居た。
いや、洞窟と言うにはいささか狭い場所だ。
隙間風が吹き、奥行きもさほどない。
岩の隙間、横穴と言った方が近い。
「おっと、起きたようじゃの。
どうじゃ、さむくはないか?」
枯れ枝を火にくべながら、例のドワーフ少女が言う。
「ずいぶんとまぁ、きもちよさそう に寝とったの。
つかれて おったんじゃろう」
少女は、すっかり身なりを整えている。
顔からは綺麗に泥が払われ、人形のように愛らしい笑みが浮かんでいる。
破れた服は、たくしあげられたり、裾を結ばれたりして、別の服の様に見える。
赤々と燃える火に照らされて、銀色の髪と肌に赤みがさしている。
こうしてみれば、どこぞの令嬢のような美しさだ。
男と見まがうべくもない。
「はらは、へっておらぬか?」
ヒュッと、リンゴを1つ投げてよこす。
「……水と食料は、かくほ しておいた。
運よく、コ―ムの実がなっとったよ」
目線がそちらに向かう。
どこからか取ってこられた蔦に、鈴なりに赤い実がなっている。
俺が、市場で食べたのと同じリンゴ。
コームの実っていうのか。
「あぁ、ありがとう」
表面を手で擦り、少しかじる。
「なに、礼をいうのはこっちじゃ。
……さっきは、すまなかったの」
空になった【ラスト・ポーションEX】の瓶を指差す。
「あんな良いくすりを使ってくれたんじゃ。
これぐらいは、しとかんとの」
申し訳なさそうに笑う。
「俺はエイジ、えっと……名前は?」
一瞬、戸惑って少女が名乗る。
「……わしは、アイン
アイン・アルバトロスじゃ」
そっか、よろしくと挨拶すると……
「わしの名をきいても、驚かんのじゃな!」
目を丸くして、逆に驚かれてしまった。
何でもドワーフの名家らしい。
「まっ、変にかしこまられるより良いわ」
アインは、笑いながら、もう一度火に、細い枝をくべる。
それから、アインと俺は、お互いの経緯を話し合った。
俺はクエストでオリハルゴンの採集に来ていたこと。
そこで、岩トカゲに襲われるアインを見つけたこと。
アインは、アルプ鉱山に鉱石の調査に来ていたらしい。
実家が鍛冶屋だそうだ。
最初の内は順調に鉱石を調査していた。
だが、ふいに誤ってピッケルを寝ている岩トカゲに打ち込んでしまったそうだ。
「ぬかってしもうたわ……」
アインは情けなさそうに笑う。
その後、アインは自分の魔導機を出して、俺に見せた。
「わかるかの?」
映し出された地図を示す。
魔導機の【マッピング】という機能だ。
まぁGPS地図みたいなもんだ。
歩いたことがある場所や登録した場所を記憶し、地図で示すことができる。
「わしらがおるのが、ここじゃ」
小さい指がポイントを示す。
山の中腹だ。山道から大分外れている。
「ここから、こう登っていけば、山道の方に戻れるな」
俺も指を差してルートを示す。
「まぁ、地図上はの……」
アインが、ふぅ、とため息をつく。
地図上? 何か問題があるのか?
「おぬしが寝とるあいだ、外をみてきた。
この先は岩トカゲの巣じゃよ」
どうやら俺が示したルートは、あのトカゲの巣があるらしい。
「岩トカゲ……」
いいように痛めつけられた恐怖がよみがえる。
モンスターから攻撃を受けたのはあいつが初めてだ。
俺はアインに岩トカゲについて聞いてみた。
途中、剣が効かなかったこと話したら……
「おぬしは、あほうか?」
と、呆れられてしまった。
「岩トカゲは【斬撃無効】のスキル持ちじゃ。
そんなんで、よく挑んだもんじゃの……」
【斬撃無効】……「剣」や「槍」等の刃物の攻撃を無効にする。
形見の剣のチートな攻撃も【斬撃】である以上、効果は無い。
武器がこれしかない俺にとって、絶望的に不利な相手だ。
「まっ、かなり遠回りじゃが……
こっちのルートでいくしかないの」
アインが示したのは、巣を避け大きく迂回するルート。
不自然に遠回りするため、山道に戻ることもできず、町まで4日以上かかりそうだ。
アインが早めに水や食料を確保したのも、そのためらしい。
長丁場になることを覚悟しているのだろう。
「わしの戦槌さえあれば……」
アインがつぶやく。
「それがあったら、どうにかなるのか?」
俺は、質問する。
「戦槌は【打撃】型の武器じゃからの」
戦槌……つまり、ウォーハンマーはドワーフが得意な武器らしい。
おまけに【打撃】だから、岩トカゲにも通用する。
「まっ、しょせん無いものねだりじゃ。
あんな重いもの、いくさば でもないかぎり持ち歩かん」
まぁ、アインは調査目的で来ていたのだ、仕方ないだろう。
大体の話がまとまると、待っていたかのように、ゆらり、と火が揺れた。
焚き火の火力が弱まっている。
「ありゃ、もうしまいかの……」
外には雨が降っている。十分な火種は用意できない。
「まっ、おぬしも温まったじゃろ」
俺の身体を温めるため、わざわざ用意してくれたのか。
雨に濡れたアインの服は焚き火にあたって乾いているようだ。
だが、皮のブーツには、真新しい泥が着いてた。
雨でぬかるむ道を歩きまわってルートを確かめ、火種になりそうな枝も集めてくれたのか。
自分だって、さっきまで瀕死の重傷だったのに。
「ありがとうな、アイン……」
手を伸ばして頭をなでる。
「なっ!? なんじゃ、きゅうに!!」
アインはドギマギしながら返事する。
子供じゃないと言われても、ドワーフを知らない俺には幼く見える。
……もうすぐ火も消えそうだ。
「ふっ、不本意じゃが、さむいからの……
体温をうしなわぬためじゃ」
スルスルとアインが近寄ってくる。
ふわふわの巻き髪から、花のような良い匂いがした。
身体を寄せ合い目を閉じる。
すっ、と火が消える。
2人は闇に包まれた。
■■■■■■■■■■■■■■■■■■
名前 エイジ・ニューフィールド
職業
略
装備
略
強さ
略
スキル
略
ゴミ箱
略
持ち物
略
■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■
名前 アイン・アルバトロス ←NEW!
職業 【ろりばばぁ】【神鉄の巫女】
【鍛冶師】【ひんにゅう】
【冒険者】
装備 登山用シャツ
皮のブーツ
小型ナイフ
質素なしたぎ
ドワーフの帽子
強さ
レベル 14
生命力 98
攻撃力 43
守備力 42
魔法力 20
素早さ 16
友好度 30
スキル
【けなげ】
ゴミ箱
持ち物
魔導機
ピッケル
鉱山調査書
Sランク区域特別許可
■■■■■■■■■■■■■■■■■■