第1話-知らない神殿
かすかな冷気から、朝の気配を感じる。
目を閉じていても、周りが明るいことはわかる。
……どうやら、ゲームをつけながら寝てしまっていたようだ。
ちゃんと布団で寝なかったせいで、肩とか痛い。
寝返りをうって仰向けになる。
背中にひんやりとした石の感触がする。
うん?石?
おかしい。
爺さんの部屋は板張りだったはずだ。
フローリングもひんやりするが、石とでは感覚が違う。
それに、冷気?
いくら朝とは言え、真夏にそれは無い。
眠い目をこすりながら、のそのそと起きあがる。
「うん? あれ? どこ、ここ?」
そこは爺さんの部屋ではなかった。
目頭を押さえる。
いきなりの状況に、寝起きの頭を懸命に働かせた。
俺は、爺さんの部屋にいたはずだ。
少なくとも、寝てしまう前までは。
改めて現状を把握する。
どうやら俺は素っ裸で石の床に寝ていたみたいだ。
場所は、神殿の様な部屋。
6畳ほどのスペースに、
西洋の墓石みたいな石碑がある。
天井が吹き抜けになっているらしく、
石碑に日の光が差し込んでいる。
部屋は、それなりに明るかった。
荘厳というほどでもないが、神々しさを感じる場所だ。
枕もとには、何か皮で出来た鎧の様な服が置いてある。
えっ、なにこれ?コスプレ衣裳?
当然、こんな場所に見覚えは無い。
寝ている間に、誰かにここへ運ばれたのだろうか?
それに素っ裸? 制服はどこ行った?
「親父? お袋?」
部屋の中に声が反響する。
呼んでみても返事は無い。
無言のまま、頭を掻いた。
いったいどうなってんだ?
とりあえず、裸では寒いので、着るものを探す。
枕元のコスプレ衣裳は……出来れば着たくない。
俺にも羞恥心はある。
絶対に寒さなんかに負けたりしないっ。
大事なおいなりさんを手で保護しつつ、
出口らしき場所に向かって行く。
裸足でピタピタと。
銭湯の浴場でも歩いている気分だ。
「うぁ……」
目の前には、とんでもなく長い廊下が続いていた。
長過ぎて先の方は薄暗くなっている。
床は途切れて地面になっていた。
全裸で進むには、かなり絶望的だ。
向こうからは、うすら寒い風が吹いてくる。
「うぅ、寒ぃ」
10分ほど羞恥心と格闘した上、
例の服を着ることにした。
やっぱり、寒さには勝てなかったよ。
幸い、ブーツみたいな靴もあった。
これで廊下に出ても大丈夫だろう。
しかし、パンツが無かったので、
布っぽいズボンはそのまんま着た。
なんかゴワゴワする。
でもまぁ、寒さはいくらか和らいだ。
全裸では厳しいが、服を着ればしのげる寒さだ。
余裕が出来たので、部屋を探索する。
なんか無いものか?
……しばらくうろうろした結果、2つの成果があった。
1つは、ランタンと、金貨の入った布袋。
両方とも、部屋の奥の箱にあった。
ランタンは火打石付属で使えそうだし、
金貨はかなり入っている。
日本の硬貨に比べれば、いびつだが、それなりに丸い。
見たことがない硬貨だ。
素材が金なだけに、相当な額になるのではないか。
少し悩んだ末、これらについては、両方持って行くことにした。
ランタンは薄暗い廊下を進むには必要だろう。
金貨は、何の役に立つかはわからんが、無いよりはいい。
黙って持って行くのも怖いが、もともと服も借り物だ。
部屋を出ていけば、持ち主に会えるかもしれない。
ぬ、盗むんじゃないんだからね! 勘違いしないでよね!
2つめの成果は……
……どうすんだ、これ?
やたら装飾がついた剣だ。
しかも、保存状態が良くない。刃が錆てる。
石碑の下に、床石がずれる所があったので開けてみた。
この剣はそこに埋まっていたものだ。
保存状態からして、
コレクションというわけではなさそうだ。
場所が場所だけに、埋葬品かもしれない。
でも、骨や死体は見当たら無かった。
これも怒られそうではあるが、一応持って行く。
例のコスプレ衣裳も鎧みたいだったから、
危険があるのかもしれない。
こんな剣でも素手よりはましだろう。
「さてと……」
とにかく、ここから出なくては。
もう一度、身の回りを確認する。
忘れ物、無くした物などないか。
というか、俺の服は無いか。
「おーい、誰かいますかぁ?」
もう一度だけ確認して、俺は廊下の方に進んでいった。
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名前 新原 英治
装備 皮のよろい
皮のブーツ
???の剣
強さ
???
ゴミ箱
しゅうちしん
持ち物
ランタン
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