第18話-それは再び繰り返す物語
……俺の仮説について話そう。
覚えているだろうか。
キラービーがレベルの低いモンスターであると分かったとき、俺は仮説を立てた。
それは、「地下廊下にいたモンスターは高レベルだったのではないか」というものだ。
森で出会ったキラービーは、恐怖心など感じさせないデフォルメされたものだった。
それに対し、地下廊下のモンスターはファンタジーと思えないようなゴツさ。
見た目だけを比較すれば、最低でも後者がザコでは無いことが分かる。
そして、今回知った事実。
「大切な英雄」の遺品を「守る」ため、【ダンジョン化】された場所。
「魔王を倒したときの仲間」が作ったものだ。
モンスターのレベルが低いはずがない。
……多分、異世界に来たとき、本来の俺のレベルは「1」だったはずだ。
普通は、そんな場所をうろつく高レベルモンスターに勝てるはずは無い。
しかし、俺は本来「ゴール」であるべき場所から逆に「スタート」したのだ。
つまり、爺さんの遺産……
チート性能の錆びた剣、爺さんのものだろう鎧とランタン、そして遺産の金貨。
そういったものを、最初から手にしていた。
知っての通り、錆びた剣にはインチキくさいステータス補正がある。
攻撃力は、例え、もとが0だったとしても、2500だ。
レベル1の俺でも、レベル100の猛者より高い攻撃力が出せる。
攻撃は最大の防御とはよく言ったものだ。
俺は敵をほぼ一撃で沈めていた。
だが、少なくとも最初のうちは、反撃を食らえば即死だったのだ。
無茶をせず良かった。
そして、低レベルの俺が高レベルモンスターに勝てばどうなるか?
答えは明白だ。
当然、爆発的に経験値を稼ぎ、レベルが上昇したことだろう。
ましてや俺は、そんな戦闘を10時間も繰り返していたのだ。
これでチートにしては、微妙にキリの悪い「42」というレベルも納得がいった。
仮説が正しければ、「経験値」という概念もこの世界にあるはずだ。
「あるよ」
質問したら、ライクちゃんが教えてくれた。
ステータスの様に数値化されるものではないが、たまるとレベルが上がるらしい。
「えーとねぇ……
具体的には、経験値がたまってくると、強いモンスターへの恐怖心が薄れるとか……
窮地になっても冷静に対応できるみたい」
なるほど、身に覚えがある。
最初から熟練者レベル、所持金は日本円にして1000万円以上。
ニューフィールドという「英雄の子孫」の肩書。
そして、異常な攻撃力アップの武器。
傍から見たらチートな俺の性能も、全部、爺さんの恩恵じゃないか。
右も左もわからないこの異世界で、これらが無かったら、俺は死んでいたかもしれない。
「……『強くなれ』か」
その言葉が本当に意味することは、俺には分からない。
でも爺さん……
多分生きているんだろうが、あんたの遺言はあんた自身のおかげで実現しそうだ。
遺産を利用し、俺はこの異世界で「強く」なる。
そして、爺さん。あんたを探す。
……これが、俺の仮説の全貌であり、爺さんに「守られている」と感じた理由だ。
しかし、これですべての疑問が解決されたわけではない。
爺さんは、ここまで仕組んで俺を異世界に呼んだのか?
あるいは、単に偶然が重なったのか?
いまの状況では、俺にこれ以上の解答は無い。
……完全な正解は爺さんに会わなければわからない。
…………
…………
…………
「エイジ君、さっきから本当に大丈夫?」
ライクちゃんが心配そうに尋ねる。
しきりに、俺の周りをうろうろしてる。
前かがみになり、俺の顔をのぞいてくる。
それはそうだ。
楽しませようと聞かせた音声で、大の男に泣かれそうになったのだ。
「だから、大丈夫だって」
いつまでも情けない顔は見せられない。
だって、男の子だもんっ。
俺は前に歩き出した。
……とまぁ、そんなこんなで、俺たちは【グランアルプ】まで徒歩で帰ってきた。
えっ、「そんなこんな」を喋れ?
だから、なんど言ったら……
……何の特徴も無い田舎道だって言ってんだろ?
町に着くと俺たちは、そのまま市場に向かった。
帰ろうかとも思ったが、まだ夕方だ。
せっかくの休みだ、有効に使わなくてはもったない。
「お墓参り」も、思った以上に成果があった。
だから今日はもう情報収集も休みだ。
まぁ、成果は俺の精神的なものだけど。
市場に着く。
呼び子の声と音楽。人混みの音。
おねだりに失敗した子が、泣いてお母さんを困らせている。
ここはいつ来ても賑やかだ。
「ライクちゃん、なんか用はある?」
「んー。今日はお夕飯の買い物もないし、特にないよ」
「じゃあ、俺の服を選ぶの手伝ってもらえる?」
「うん。いいよ!」
行き道で思っていたことを実行する。
今の俺には「軍資金」もある。
返せと言われるのが怖くて使えなかった、あの大金貨。
それが爺さんの遺産だったのだ。
爺さんが孫に小遣いをあげるは世の習わし。
ゆえに、ちょっとぐらい孫の俺が使っても良いじゃない!
おじいちゃんだーいすきっ!
ということで、2、3軒、良さそうな店を見ていく。
買い物をするうちに面白い事も分かった。
俺は初めて町に来たとき、町の人の服装を「落穂拾い」のおばさんが着てる服なんて例えた。
そのわりには、ライクちゃんがいろんな服を着てるのはおかしいと思っただろう。
どうやら、そういったデザインの服は「装備」に分類されているようだ。
確かに、クエストをこなす冒険者やマネージャーに、あの服装は動きづらい。
ギルド関係の家庭では、職業柄、普段から「装備」を身につけることも多いらしい。
俺も、馴染みのある服装に近い「装備」から普段着を買うことにした。
結局、新たに「皮のジャケット」と「布の服、(ズボンその他諸々だ)」を買った。
そういえば、今日のワンピースも「装備」なのだろうか?
カシャ
ライクちゃんを【アナライズ】する。
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名前 ライク・ブルックリン
職業 【マネージャーみならい】【夢見る少女】
【世話焼きっ子】
装備 布の服
つば広帽子
質素なしたぎ
おてごろダガ―
星屑の腕輪
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「布の服」とある。……ということは「装備」なのか。
しかし……俺は別のところにも気付いてしまう。
「質素なしたぎ」
ハッ!
ライクちゃんが、顔を赤くしながら、プルプル怒っている。
【アナライズ】の意味を知っているのだ。
「エイジ君、さいてー!
あたしのだけ見るなんて、不公平だよ!
エイジ君のも見るからねっ!」
ライクちゃんが、魔導機を必死に奪おうと、ぴょんぴょん飛び跳ねる。
子供がよくやる、貸して! 貸して! の状態だ。
しかし、俺のはマズイ。
いや、下着じゃなくて、名字だ。
必死で抵抗するが、はずみで……
カシャ!
俺自身を【アナライズ】。
一瞬の隙を突き、ライクちゃんが魔導機を奪い取る。
しまった!
タラタラと冷や汗が流れた。
……ライクちゃんは無言だ。
今日の遺跡での俺の態度、そして名字。
もう、完全にアウトだ。
しかし……
「だ…だっ…大丈夫、軽蔑したりしないよっ!
おとおとっ男の子だもんねっ!」
ライクちゃんは真っ赤になりながら、すぐに魔導機を返す。
どういうことだ?
あたふたするライクちゃん。
おっと! うろたえ過ぎて人にぶつかる。
「すすすすっ!すみません」
バシャっと、ライクちゃんにスープがかかる。
ぶつかったおじさんが持っていた屋台の食べ物がこぼれたのだ。
「あーぁ、服が、ぐしょぐしょだ……」
俺が言うと。
「だだだだだ大丈夫、かかか乾けば着れ……」
まだ、動揺している。
そして、さすがはトラブルメイカー。
足が絡まって、すっ転ぶ。
ビリッ!
服を見事に引っかけ、ワンピースが破れてしまう。
裂け目から白い肌がのぞく。
さすがに、これは恥ずかしい。
キャッと肌を隠す。
「……大丈夫?」
近づいて声をかける。
「いいい…良いよっ、ここっ来ないで!」
後ずさり。
心なしか、俺を避けている。
……しかし、このままというわけにもいかない。
「ちょっと待ってて!」
大急ぎで、代わりの服を調達しなくては。
俺は駆け足で人混みを抜ける。
ハァ…ハァ…
どこかに良い店はないか?
人ごみの切れ間を覗きながら走る。
急いでいるせいで、だんだん息が上がる。
しめた!
ちょっと路地に入った先に、女性たちが集まっている店を見つける。
活気があり、なかなかの繁盛店の様だ。
あの様子なら、きっと女性服もあるはずだ。
周りも気にせず、バッ! と、店に飛び込んだ。
俺は、息も絶え絶えに叫ぶ。
「ハァ…ハァ…じょ、女性服はありますか!!」 と。
「おとーさーん!!」
お姉さんは、再び全力で店の奥に逃げ去った。
繰り返すのは「魔王を倒す物語」だと思った?
ざんねん、「ヘンタイの物語」でしたっ!
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名前 エイジ・ニューフィールド
職業 【英雄の子孫】【冒険者】
【げどう】【ヘンタイ RANK UP!】 ←NEW!
装備
略
強さ
略
スキル
略
ゴミ箱
略
持ち物
略
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名前 ライク・ブルックリン (動揺) ←NEW!
職業
略
装備
略
強さ
レベル 3
生命力 13
攻撃力 12
守備力 15
魔法力 2
素早さ 16
友好度 10 ←NEW!
スキル
略
ゴミ箱
持ち物
略
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