第9話-シェイクハンド
ここは深夜の冒険者ギルド。
既に町はどっぷりと闇に染まっている。
犬の遠吠えだけが、夜のしじまに木霊する。
部屋には発汗による湿気が籠っていた。
ねっとりとまとわりつく空気。
そこに、男が2人向かい合う。
一人は、満面の笑みを浮かべた中年の男性。
もう一人は、半裸でじっとりと汗を掻く少年。
はぁ…はぁ…はぁ…
少年の呼吸は荒い。
あ~、いま、いやらしいこと考えたでしょ。めッ!
たび重なる測定に、すっかりバテ気味だ。
しかし、測定を終えたエイジの記録はまさに規格外だった。
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強さ
レベル 42
生命力 420
攻撃力 2920
守備力 420
魔法力 420
素早さ 420
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「すばらしい。その年で、これほどとは!」
おじさんは、さっきから感動しっぱなしだ。
俺は、何のことだか分からない。
というか、測定ですごく疲れた。
身体の火照りが取れるにつれ、汗が冷たくなってきた。
上半身裸なのは、鎧の皮の部分が集中していたからだ。
皮が汗を吸って臭わない様、脱いだ方が良いと言われた。
「いい……かげん……、わかる様に……説明してください」
息も絶え絶えに、おじさんに質問する。
疲労で、若干声がイラついている。
「あぁ、ごめん」
どこからか出した手ぬぐいを投げてくれる。
汗を拭きながら、話を聞く。
おじさんは、疲れた俺を気遣って、手短に説明してくれた。
まとめると、こうだ。
……どうやら「ニューフィールド」と言うのは特別な名字。
なんでも50年前、魔王を倒した「英雄」の名字らしい。
その「英雄」は魔王を倒した後、忽然と姿を消した。
そいつ以外で、名字「ニューフィールド」を名乗る者は誰もいない。
まぁ詳しいことは、図書館に行けばわかると言われた。
そして【アナライズ】。
アナライズに嘘は無い。
俺が「英雄」の名字を、さらっと名乗ったもんだから調べたそうだ。
名を語ったのかと思ったら、まさかの本物。
これでクビがつながるかもしれない!
その後は、もう夢中だったそうだ。
消えた英雄の子孫。
確かに、Sランクの素質十分だ。
そして実力をはかろうと「測定」。
……その結果も驚くべきものだったらしい。
もちろん、元の世界では、「能力の数値化」なんてしたことは無い。
でも、おじさんのテンションをみたら、凄いものなんだとは分かる。
だって徹夜明けの友達みたいに絡んでくるもの。
あっ誤解してほしくないが、俺にも友達はいるよ?
うっ、なんだ その目は……
……嘘じゃない。本当にいる。
まずは、俺のレベル。42。
これは冒険者としてみても、熟練の域に入るみたいだ。
なんせ、レベル35オーバーが、
4人パーティでも組めば、ドラゴンを倒せるらしい。
まぁ肝心のドラゴンの強さを、俺は知らないんだが。
このレベルならSランクの依頼も余裕、だそうだ。
そして、各種ステータス。
レベル42で、平均420(攻撃力はちょっと除く)。
これも異常だそうだ。
1レベルアップごとに、10上がる計算。
普通は1レベルごとに、1~8が限度らしい。
つまり、成長率も半端じゃないのだ。
最後に、攻撃力。
ぶっちゃけ、これは剣が特殊だ。
攻撃力補正が2500とかおかしい。
あのとき剣で放った一撃は、オリハルゴンの鎧を紙みたいに切り裂いた。
ダミー人形までぶっ壊れ、壁と床に亀裂も走った。
建物が無事だったのが不思議なくらいだ。
ステータスは、普通、生身の強さであって、装備品は度外視されるらしい。
しかし、この剣の場合、どういうわけか反映される。
試しに腰から剣をはずし、取り替えたダミー人形を拳で殴ると420だった。
錆びた剣、つえぇ。
つまり、おじさん曰く、総合すると……
「……磨き終えたばかりのダイヤを、道端で拾ったようだ!」
ということらしい。
「きっと絶え間ぬ修練の結果なのだろう」
おじさんは一人で納得している。
いや、置いていかないでほしい。
修練と言っても、俺は地下廊下でザコモンスターを倒したぐらいの経験しかない。
こんなチートな設定を聞いても実感がない。
しがない高校生が英雄の血筋で高能力とかすげぇ。
これが噂の異世界チートってやつか。
作者め、やっとかよ。何話かかってんだ。
……など、まともな考えが浮かばない。
具体的には最後1行が特におかしい。
そうだ。
この能力はチート。
いわゆるズルだ。
賢明な人なら、この能力は隠しておくか、不正であることを告げただろう。
俺が不幸だったのは、能力を初めから自覚していなかったこと。
そして、それを発覚させた張本人が、助けを求めていたことだ。
俺だって、無類のお人好しってわけではない。
普通は、今日出会ったばかりのおじさんに、入れ込むことはしないだろう。
同情して終わりだ。
……でも、何時間も俺に付き合って話してくれたおじさんの優しさ。
あれは本当に嬉しかったんだ。
パンツで荒みきった俺の心が、元気になったんだ。
「おじさん」
俺はおじさんの方に手を伸ばした。
親愛の表現であり、合意のあかし。
あの時、うやむやになった挨拶を今こそしよう。
「わたしは、ガーターだ。
よろしく頼むよ」
おじさんも手を伸ばす。
男同士の熱い握手。
もう、リストラおじさんは、ここにはいない。
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名前 エイジ・ニューフィールド
職業 【冒険者(仮)】【ヘンタイみならい】
装備 皮のよろい
皮のブーツ
すごい錆びた剣
やせいのパンツ
強さ
レベル 42
生命力 420
攻撃力 2920
守備力 420
魔法力 420
素早さ 420
スキル
【考察】【諜報】【やさしい心】【おとこの友情】←NEW!
ゴミ箱
しゅうちしん
ゆうき
こんじょう
持ち物
ランタン
ラスト・ポーションEX
たくさん食料
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