おならして婚約破棄されましたが、新しい婚約者様はそれ以上の経験者でした
ドアを全開にして、リッタリーナと新しい婚約者はリッタリーナの部屋で紅茶を飲んでいた。
リッタリーナは社交場でおならをしてしまい、婚約者から罵倒され、婚約破棄されたのだ。
それ以来人目を避け、部屋から出なくなったのを母親が心配し、新しい婚約者を探したのが伯爵家の三男であるコンスタンティンだった。
リッタリーナは顔を伏せ、コンスタンティンは紅茶を飲む。これで五杯目である。
「実は私。大事な会議の場で大を漏らしたことがあるんですよ」
「え?」
顔を上げたリッタリーナに、コンスタンティンは優しげな眼差しを向けている。
リッタリーナは、自分のせいで恥を語るのだと察した。
「どう、なったのですの?」
「死ぬフリをしました。とにかく有耶無耶にしようと。治療院に運ばれればどうにかなると。ですがあまりにも迫真の演技だったようで、王宮医師が呼ばれてしまったのです。あのときのことは今でも夢を見ます。なので、リッタリーナ嬢の天使の音は私にとって可愛いものですよ」
「天使の音だなんて」
「おや、知りません? 天使の音と言ったの王妃様ですよ」
リッタリーナは目を丸くし、コンスタンティンは優しげに微笑みながら従僕に紅茶を注いでもらう。
「それから会議の場には美を愛するアルーシャ公爵家当主様がいらっしゃいましてね。私の迫真の演技を絶賛なさったのですよ。そのおかげで私は美の公爵様が認めた男としてかの有名な大劇団の指南役に抜擢されたのですよ」
「国一番と謳われるあの大劇団にですの!?」
「ええ。ですのでリッタリーナ嬢も外に出てみませんか? 誰もあなたを笑っている者などいませんよ。むしろ元婚約者が笑われているのです。天使の音を許さなかった器の小さい男としてね」
「あの人から手紙がきましたが読む前にお父様が暖炉に焼べてしまったのです」
「読まなくて正解ですよ。元婚約者は新しい婚約者が見つからないようなので、おそらく再婚約の手紙でしょう」
リッタリーナは顔色が悪くなる。
「私、私。罵倒されましたの。だから私、あの人と──」
「分かっていますよ。また手紙がくるようでしたら、私に渡しなさい。いいね?」
リッタリーナはポロッと涙をこぼした。
コンスタンティンはリッタリーナの涙を指先で拭う。
「私の前で天使の音を出していいんですよ。私はけして罵倒しませんから」
リッタリーナはにこりと笑う。
「私のお庭。とてもお花が美しいんですの。今度はお庭で紅茶を飲みませんか?」
一歩前に踏み出したリッタリーナに、コンスタンティンは愛しむように頬にキスをするのだった。




