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思い出の町

掲載日:2026/09/27

 僕は昔住んでいた町にやって来た。

 住んでいたのは20年位前。

 中学卒業と共に、親の転勤でこの町を離れた。

 産まれてから過ごした15年間は、やはり思い出深いものだった。

 懐かしい町並み。

 通っていた学校、買い物に行っていた商店街、遊びに行っていた公園。

 それらは当時のままだった。


 ふらふら歩いて、昔住んでいた借家の前に辿り着く。

 ここも当時のままだった。

 15年間過ごした、特に思い出が詰まっている場所だ。

 中に入りたい気持ちに駆られるけど、それは出来ない。

 あの窓の向こうはキッチンだった。

 夕食前に母が僕の名前を呼んで、配膳の手伝いをよくさせていた。

 今となっては、とても大切な時間だったと思える。

 間取りは変わらないとしても、今はどんな内装なんだろうか。

 どんな人達が住んでいるんだろうか。

 想像を膨らませながら、その場を離れる。


 小高い山にある公園。

 当時の行動範囲からは少し離れている場所だから、そこまで思い入れはないけれど、今訪れてみると町を一望出来る素敵な所だった。

 ここで昔からの町並みを見ながら、感傷に浸るのも悪くはないかもしれない。


『そろそろお時間です』


 右耳に装着しているデバイスから、女性の声が聞こえる。

 僕は右手でデバイスのボタンを押しながら、「了解、もう戻して大丈夫」と返した。

 瞬間、完成したパズルが崩れるように、世界が少しずつ黒1色になっていく。

 完全に真っ暗になると、僕の意識は覚醒し、目を開く。


 とある研究施設の1室。

 様々な機械が並んでいる部屋の中央に、僕は特殊な機械を搭載した椅子に座っている。

 椅子と太いコードで繋がれているヘルメットのような機械を外し、定位置に引っ掛ける。


「どうでしたか?」


 先程の女性の声。

 同じ部署で働いている研究員だ。


「懐かしさのあまり、あのままずっと居たい気持ちになったよ」


 女性は微笑みながら、「もう少しですね」と言った。


「うん。あとは内装の記憶データを抽出して、反映出来れば町の方は完成だね」


 僕らが作っているのは、過去の町を再構築したデジタル空間だ。

 外側はもう完成しており、あとは内装を組み込めば町は完成する。

 そこに人のデータを放り込めば、人々が生活する町が復活する。


 とある感染症が流行り、大多数の人々が倒れ、機械の箱に入って生命を維持している。

 その人達の脳から記憶を抽出してデータ化し、いつしかまた町で暮らせるようにする為のプロジェクト。

 また思い出が詰まったあの町で、皆が過ごせるように。

 倫理的に問題視されようと、僕達は研究を続ける。

 誰もが思い出の中で、幸せに生きていけるように。

記憶のバックアップ、取っておきたい今日この頃。

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