思い出の町
僕は昔住んでいた町にやって来た。
住んでいたのは20年位前。
中学卒業と共に、親の転勤でこの町を離れた。
産まれてから過ごした15年間は、やはり思い出深いものだった。
懐かしい町並み。
通っていた学校、買い物に行っていた商店街、遊びに行っていた公園。
それらは当時のままだった。
ふらふら歩いて、昔住んでいた借家の前に辿り着く。
ここも当時のままだった。
15年間過ごした、特に思い出が詰まっている場所だ。
中に入りたい気持ちに駆られるけど、それは出来ない。
あの窓の向こうはキッチンだった。
夕食前に母が僕の名前を呼んで、配膳の手伝いをよくさせていた。
今となっては、とても大切な時間だったと思える。
間取りは変わらないとしても、今はどんな内装なんだろうか。
どんな人達が住んでいるんだろうか。
想像を膨らませながら、その場を離れる。
小高い山にある公園。
当時の行動範囲からは少し離れている場所だから、そこまで思い入れはないけれど、今訪れてみると町を一望出来る素敵な所だった。
ここで昔からの町並みを見ながら、感傷に浸るのも悪くはないかもしれない。
『そろそろお時間です』
右耳に装着しているデバイスから、女性の声が聞こえる。
僕は右手でデバイスのボタンを押しながら、「了解、もう戻して大丈夫」と返した。
瞬間、完成したパズルが崩れるように、世界が少しずつ黒1色になっていく。
完全に真っ暗になると、僕の意識は覚醒し、目を開く。
とある研究施設の1室。
様々な機械が並んでいる部屋の中央に、僕は特殊な機械を搭載した椅子に座っている。
椅子と太いコードで繋がれているヘルメットのような機械を外し、定位置に引っ掛ける。
「どうでしたか?」
先程の女性の声。
同じ部署で働いている研究員だ。
「懐かしさのあまり、あのままずっと居たい気持ちになったよ」
女性は微笑みながら、「もう少しですね」と言った。
「うん。あとは内装の記憶データを抽出して、反映出来れば町の方は完成だね」
僕らが作っているのは、過去の町を再構築したデジタル空間だ。
外側はもう完成しており、あとは内装を組み込めば町は完成する。
そこに人のデータを放り込めば、人々が生活する町が復活する。
とある感染症が流行り、大多数の人々が倒れ、機械の箱に入って生命を維持している。
その人達の脳から記憶を抽出してデータ化し、いつしかまた町で暮らせるようにする為のプロジェクト。
また思い出が詰まったあの町で、皆が過ごせるように。
倫理的に問題視されようと、僕達は研究を続ける。
誰もが思い出の中で、幸せに生きていけるように。
記憶のバックアップ、取っておきたい今日この頃。




