表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元カレは隣の席のエース  作者: naomikoryo


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/21

第11話

源田さんの協力が得られたことで、止まっていた歯車が、ゆっくりと、しかし確実に回り始めた。

あれだけ非協力的だった商店街の雰囲気が、少しずつ変わり始めたのだ。

私たちは、商店街の組合会合に正式なメンバーとして参加を認められ、具体的な活性化案を提案していくことになった。


夜遅くまで、二人きりで企画書を作成する日も増えた。

隣のデスクで、パソコンに向かう彼の真剣な横顔。

時折、意見を交わす中で、彼の考えの深さや、この街への熱い想いに触れる。

そのたびに、私の心は、どうしようもなく、彼に惹きつけられていった。


それは、心地よく、満たされた時間だった。

けれど同時に、彼の隣に立つ、あの完璧な女性の姿を思い出し、罪悪感にも似た痛みが、胸を締め付けた。

この心地よさに、溺れてはいけない。

そう、自分に言い聞かせながら。


◆◇◆


「これ、どうでしょうか」


数日後。

私は、練りに練った企画書を、俊と、そして商店街の若手店主たちの前に広げた。


「題して、『#みなと再発見 隠れた逸品を探せ!スタンプラリー』です」


東京での経験を活かし、私が提案したのは、SNSと連動させた、体験型のイベントだった。

各店舗が、自慢の「隠れた逸品」をエントリーし、参加者は、それを巡りながらスタンプを集める。

集めたスタンプの数に応じて、商店街で使える商品券が当たる、という仕組みだ。


「ほう、面白そうじゃないか」

源田さんが、腕を組んで唸る。

若手の店主たちからも、「スマホを使うなら、若い人も来てくれるかも」「うちの裏メニュー、出しちゃおうかな」と、好意的な声が上がった。


プロジェクトは、いよいよ具体的な実行段階へと進む。

その手応えに、私は久しぶりに、仕事への情熱と興奮を感じていた。


このイベントを成功させるには、市の広報媒体を最大限に活用した、大々的な告知が不可欠だった。

私たちは、早速、完成した企画書を手に、広報課へと向かった。


「まあ、素晴らしい案ね!」


企画書に目を通した早乙女京華さんは、満面の笑みで私たちを迎えてくれた。

「商店街の皆さんも、やる気になってるなんて、すごいじゃない! もちろん、広報課として、全力で協力させてもらうわ」

彼女の力強い言葉に、私は心の底から安堵した。

よかった。彼女も、この街を良くしたいという想いは、同じなんだ。


◆◇◆


けれど、その安堵は、長くは続かなかった。


約束とは裏腹に、広報課からの協力は、一向に進まなかったのだ。


「ごめんなさい、今、議会関連の案件で立て込んでて、少し後でもいいかしら?」

「ああ、その件は担当の者が今日、終日外出しておりまして……」


広報課に足を運ぶたびに、何かと理由をつけられ、私たちの企画はことごとく後回しにされた。

市のウェブサイトに掲載された告知記事は、トップページの隅の方に小さな文字でたった数行載っているだけ。

市の公式SNSでの発信も、他の多くの行政情報に埋もれてしまい、全くと言っていいほど拡散されていなかった。


イベント開催日は刻一刻と迫ってくる。

このままでは十分な告知ができず、参加者が集まらないままイベントは失敗に終わってしまう。


「あの、京華さん。先日お願いした、広報誌の特集記事の件ですが……」

焦る私は、何度も広報課に足を運んだ。

しかし、京華さんはデスクに積まれた書類の山から顔も上げずに、申し訳なさそうな声で言うだけだった。

「本当にごめんなさい、美鈴さん。今手が離せなくて。また後でこちらから連絡するわね」


その完璧な笑顔と、丁寧な物腰。

しかし、その裏側に見えない壁のようなものを感じる。

歓迎会で見せた、あの凍りついたような瞳が脳裏をよぎった。


まさか。

これは、ただ忙しいだけじゃない。

意図的に、私たちのプロジェクトを妨害している……?


そんなありえないはずの疑念が、黒い靄のように私の心に広がり始めていた。


「どうしよう、俊くん。このままじゃ……」

その夜、また二人きりになったオフィスで、私は焦りと不安を彼に打ち明けた。

「広報課の協力が、まったく得られないんです。このままじゃイベントが……」


しかし、返ってきたのはあまりに冷静な言葉だった。

「催促するしかないだろう。俺からも明日の朝、広報課長に直接話しておく」

「でも、そういう簡単なことじゃなくて! 京華さん、なんだか私たちのこと避けてるみたいで……」

「感情的になっても問題は解決しない」


ピシャリ、と彼は言い放った。

「早乙女さんが協力できないなら、代わりの手段を考えろ。それが俺たちの仕事だ。もっと効率的な方法を考えろ」


その冷たい言葉に、私はカッとなった。

「効率、効率って……! 人の心が絡む問題が、そんなに簡単に割り切れるわけないじゃない!」

「……!」


しまった、と思った時にはもう遅かった。

俊は驚いたように私を見ると、すぐにふいっと顔をそむけた。

その横顔は、またあの氷の壁で覆われていた。


フロアに重い沈黙が落ちる。

味方だと思っていた。

同じ目標に向かう同志だと思っていた。

それなのに、彼にまで突き放されてしまった。


私は誰にも相談できないまま、一人暗いオフィスで頭を抱えるしかなかった。


京華さんからの見えない敵意。

そして、俊との間に生まれてしまった、小さなしかし深い亀裂。

ようやく掴みかけたと思った光が、また、遠ざかっていく。



****

見えない敵意が、美鈴の心を追い詰めていく。

果たして彼女は、この逆境を乗り越えることができるのか。

*****

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ