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AionioS  作者: 無日


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8/8

第8話:星の渡し

「敵接近、右前方!」


「レーダー反応あり!3体…いや、7体来ます!!」


 四肢ある大型のギュネオスに警戒しながらも、部下の声と同時に裂け目の暗がりから黒く光る影が新に滑り出た。

 浮遊型の小型個体は歪な球体の周囲に黒の結晶を備え、静かに漂いながら弾を放つ。


 前方ではすでに、メルとオーティスが大型のギュネオスに接触していた。


「オーティス、前に出て。間合いを詰めるわ」


「了解。そっちが派手に撃ってくれれば、こっちもやりやすい!」


 メルのライフルがうなりを上げた。

 電磁波を操るメルのNova専用にカスタムされた銃弾。蓄積された電磁波が、発射と同時に裂け目空間へと光が貫く。

 雷撃とともにギュネオスの外殻にヒビが入り、そこにオーティスが突っ込むように拳を入れた。


「もらうぞ……!」


 触れた瞬間、ギュネオスのNova粒子が吸い込まれ、オーティスの体表に筋肉の膨張が走る。

 強化された腕で拳を振り抜き、黒い外殻を粉砕した。


 一方で、隊員たちは周囲に散らばり小型の浮遊型ギュネオスとの乱戦に突入していた。


「くそっ、こっちは数が多いぞ!」


「中心部を狙って! 中に“コア”があるはずだよ、そこを壊せば──!」


 一人が叫ぶが、混戦の中では容易に狙える相手ではない。


 ヴィンセントもその輪の中にいた。銃を手に、浮遊型ギュネオスへと照準を定める。

 しかし、その動きは素早く、弾道を予測するように避けてくる。


 照準が甘く、発砲のたびに空間に弾が吸い込まれていく。ヴィンセントは苦々しく歯を食いしばった。


 その時──


「なぁ、メル艦長…!あいつ、Novaの反応…みたいなものはあったんだよな?」


 オーティスがギュネオスの一撃を抑えながら、横目にメルへ問う。


「ええ…!観測データでは確かに!平均以上の反応値。でも、実際に使ってる気配はなかったわ」

「使えないのか、使わないのか……。どっちにしても妙だな」

「無意識に抑えてる可能性もある。でもこの状況でそれは──」


──カシャン。


 金属の音と共に、ヴィンセントの足元へ一振りの剣が滑り込んできた。

 近くの隊員がパニックに陥り、手を滑らせて落としたのだ。


「やめて、来ないでッ──!」


 叫び声が響く。

 女性隊員はすぐ目の前にまで迫ったギュネオスに詰め寄られていた。予備の銃も弾切れ、逃げ場もない。


 次の瞬間──


スパンッッ


 乾いた斬撃音が裂け目空間に響いた。

 ギュネオスは空中で静止したまま、中央から真っ二つに裂け黒い粒子となって崩れ落ちた。


 ヴィンセントはゆっくりと剣を振り払い、付着した粒子を指先で掃う。


「こっちの方が……手に馴染みます。」


 その仕草は、あまりにも自然だった。

 長年手にしてきた者の動き──否、それは“身体に刻み込まれていた戦い方”のようにすら見えた。


「……なんだよ、今の……」と誰かが呟く。


 メルの目がわずかに見開かれる。

 オーティスも口端を上げた。


「へぇ、やるな」


 ヴィンセントはただ黙って迫り来るもう一体のギュネオスへと歩み寄った。


 一太刀。また一太刀。

 その動きは洗練されていた。ギュネオスが飛び交い、遠距離攻撃で距離を取ろうとするたび、彼は寸分の隙を突いて斬り伏せる。


 幾度かの交戦の中で見えた、赤黒く輝く“コア”。

 それがギュネオスの中枢、弱点。そこを断てば奴らは粒子となって消滅する。


 次の一体も、空中から飛びかかってくる。

 ヴィンセントは身体を半回転させ、すれ違いざまに斬り上げた。

 

 コアを真っ直ぐに断ち割る。

 ギュネオスは、ただ静かに霧散した。


『ヴィンセント、動きに変化があったわね。そっちは問題ない?Novaはまだ使えてないようだけど…』


ヴィンセントは息を整えながら、静かに答えた。


「……これは…私の“戦い方”のような気がするだけです。」


『なら、安心した。お前が制御できるなら、俺の出番も減るからな。』


 そのとき、メルの視線が空間の奥へと向く。


「本命は、まだこれからよ」


 戦闘は、まだ序章に過ぎなかった。


 人型のギュネオスが咆哮を上げる。身体中に渦巻くNova粒子が荒れ狂い、目の前の二人を薙ぎ払わんとする。

 メルは電磁波を込めた弾丸を打ち出す。弾け飛んだ電荷がギュネオスの肩を貫き、火花が散った。


「右肘、関節が甘い。次で決めるわよ、オーティス!」


「了解。こっちもそろそろ限界だ」


 踏み込む。拳が異形の胸を打ち抜き、同時にその奥からエネルギーを吸い上げる。ギュネオスが悲鳴をあげ、体の輪郭が揺らいだ。

 二人の息が重なった瞬間、人型のギュネオスのコアがオーティスの手によって握り潰される――「パキン」と、砕ける硝子のような音が裂界に響いた。


 しかし。


 黒い粒子となって崩れゆくその肉体の中、ただ一つ、手だけが残った。


 ボロボロに崩れながらも、どこか強い意志を宿したかのように裂け目の出口へと――手を伸ばし指を刺した。


「……まずい」


 嫌な予感。メルの顔色が変わる。


〈……キィィィィィィィィィ……〉


 彼女の視線の先で裂け目が静かに閉じ始めている。


「…………!! 全員、撤退! 飛空挺に戻って!! 裂け目が急速に収束してる……もう、2分も保たない!」


「嘘だろ、今までなら数分の猶予はあったはずだ!」


 隊員たちが走る。背後ではなおもギュネオスが朽ちた断末魔が響き渡っていた。


 甲板に滑り込むと、すぐさま人数確認。操縦士が叫ぶ。


「全員確認、飛空挺エンジン起動……最大出力で離脱します!」


 裂け目が閉じれば、二度と戻れない。永遠に暗闇を彷徨う羽目になる。

 それどころか――歪流遮断装備の耐久が先に訪れ精神が錯乱し、最終的には…。


 メルはその事実を、次元航宙士訓練校の教官たちから嫌になるほど叩き込まれていた。


 烈界学で教官に見せられる写真の多くは飛空挺だけが帰還した例ばかりだ。

 帰還した飛空挺はどれも10年〜50年前のものばかりで甲板は赤黒く乾いた痕跡がべったりと残っている。


 銃弾があちこちに残されて剣や弾丸の入っていない銃は投げ捨てられ、争った形跡だけが何が起こったのかを物語っていた。

 しかし、不思議とギュネオスの形跡はなく、分析班の出した結論では"仲間だと認識した"という説が有力だという。


 絶対に、あの症例にイプシロン隊を加える訳には行かない。

 10年、50年後に目を塞ぎたくなるような残影を、隊員達の家族に見せるためにこの飛空挺に乗せて苦楽を共にしている訳では無い。


 それが"帰還"と言わせる訳には行かない。


 導くためにここにいるのだ。


「絶対に帰還させる!!!バリア解除!空気抵抗、無視して突っ込みなさい!」


 バリアが消える。浮遊する文明の残骸がペネトラの外装を切り裂くが、気にしている余裕はなかった。


 蒼穹へ――昼の光のある場所へ向かって、飛空挺は疾走した。

 しかし、そのスピードでも間に合わない。


 全員が一瞬にして絶望のどん底へ落とされた。


「そんな…」


「…っなにかできることはないの!?船を壊してもいいから一人でも多く救える案を──」


 その時。


「――ッ!」


 ヴィンセントが、膝をついた。


 こめかみに突き刺さるような痛み。

 裂け目の中に入ってからというもの、思い出そうとする度苦しめた痛み。

 頭の中で、何度も繰り返されていた霧と消えた声。


 今、遠くの彼に届いた。


〈────ヴィンセント〉


「……っ!」


 その瞬間煮え返るような灼けつく熱が彼の体の中を駆け巡った。

 剣を甲板に突き刺す。


「おい!ヴィンセント!どうした!?」


 オーティスが駆け寄ろうとする――が、まるで風に押し返されるように前へ進めなかった。


「…風?裂け目の中で……?元素系のNovactorか…!?」


 針のように指す冷たい風が彼を中心に渦を巻く。


「違う…風じゃない!!何か別の物よ!危険だわ!オーティス!今すぐ吸収を!」

「くっ……触れないと無理だ…!!近づけない…!!!」


 白金の髪が風に舞う。ヴィンセントが目を見開いた瞬間、飛空挺は暴風に包まれ、彼の紫の瞳が輝いた。


 その刹那――


 飛空挺は、落ちた。

 機体は傾き、隊員たちは体を甲板に打ち付けられる。


「ぐ…重力バランス崩壊!機体が沈んでる!!」

「おい、バランサー再調整急げ!推進出力が狂ってる!」


 甲板が傾き、隊員たちが必死に傾く飛空艇の中で足を滑らせながらも持ち場を移動する。


 だが、突然。


 ――光が差し込んだ。ピタリと飛空艇が止まる。


「ねえ、見て…」


 閉じかけの裂け目の中にあるはずがないやわらかな光。

 闇にそっと滲み出るように現れたその輝きは、花開くように広がり、迷える者に帰還を示す道筋のようだった。


「どういうことだ……これは……」


 誰かが呟いた。

 メルが、ゆっくりと振り返る。


「……星よ。」

「私たち外へ……出てるわ」


 裂け目の中に差し込むことなどあり得ないはずの外界の光が甲板に落ち、ヴィンセントの影を長く落としていた。


 その光の中、彼は――剣を抱え静かに倒れた。

 裂け目があったはずの空間には何も無く、そこには星空が広がっていた。

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