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AionioS  作者: 無日
第二章:秩序の側に立つもの

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第14話:小さな魔法

「未登録Novactor(ノヴァクター)…またか」


 本部のエントランスを背に、セキュリティーゲートを抜け、起動したホバーバイクへ跨がる。

 低音とともに地面が離れ、目の前に映し出されたヘッドアップディスプレイがルートを自動で書き出す。


 最後の目撃情報は中央区四境街(しきょうがい)


 イリス・セントラルターミナルがある四境街(しきょうがい)は、四区から集まる出稼ぎの労働者や、旅路を急ぐ旅行者が必ず足をとめる"中央区の玄関口"であり"橋渡し"だ。


 そんな複雑な路地の入り組む場所は逃げ場所には最適と言っていいだろう。

 登録されていないNovactor(ノヴァクター)が逃げ込むには、人通りが多く監視の隙が生まれやすいエリア。


 アクセルを踏んだバイクは、浮遊しながら都市のスカイウェイに入り、整備された光の道を滑っていく。


 透明なスカイルートの脇では、外壁を伝うように人々が歩いていた。

 中には彼の姿に気づき、写真を撮る者もいる。


 都市において、オーダーは守護者であり、希望の象徴だ。

 ギュネオスや犯罪Novactor(ノヴァクター)による脅威が消えないElysion(エリュシオン)で、人々を守るその姿はヒーローそのものなのだ。


 バイクを減速させ、スカイルートを降り、通路に入る。


 四境街(しきょうがい)の入り口は既に封鎖ラインが張られ、警備ドローンが低空を旋回していた。

 だが、通行規制は行われておらず、市民はあくまで「日常の延長」としてこの状況を受け入れていた。


「また犯罪Novactor(ノヴァクター)かしら…」

「オーダーが来ればすぐ解決するだろ。ネット記事が楽しみだぜ」


 バイクを路肩に止め、辺りを見回しながら封鎖ラインの前にいる数名の事後処理班に状況を聞くため声をかけた。


「思ったより騒ぎが大きいな。事後処理班も来てるのか」


「任務お疲れ様ですっ!オーダー機関支援部からは、既にこちらへオーダーが向かったと報告を受けておりましたが、オーティスさんでしたか!」


 ビシッと敬礼をするのは事後処理班のキーパーと呼ばれる者たち。

 オーダーが戦闘に専念できるよう、その周辺環境をすべて統括・管理する実務集団。

 戦闘の余波から一般人を守るため回復やサポートに長けた者が多く、証拠品の回収や各連携機関への引継ぎ、二次災害の防止、必要に応じて現場の修繕作業の手配までも行う。


「最後の目撃情報がここだって聞いて来たんだが、逃亡犯は四境街(しきょうがい)にいるってことで間違いないな?」


「ええ、複数名の目撃者には事情聴取を行いましたが、どうも衣服に血液が付着していたようで、不審に思い通報したようですね…。四境街(しきょうがい)の街境に封鎖ラインを張りましたので、もし過剰なNova(ノヴァ)粒子反応があればすぐに通知されますっ!」


Nova粒子とは、Novactor(ノヴァクター)Nova(ノヴァ)を行使した際に出る僅かなエネルギーの乱れのことで、特定の機関にのみ対Nova(ノヴァ)感知システム等の使用を許可されている。


Nova(ノヴァ)粒子反応…たしか逃亡犯はNova(ノヴァ)未登録者だ。身体操作系ならNova(ノヴァ)エネルギーの消費は少ないはずだよな?封鎖ラインで感知できるのか?」


「えっと…、感知できるのは元素系と物理概念系、精神干渉系…ですね。身体操作系のNova(ノヴァ)反応はほとんどの場合感知…できない…と思います。」


暫くの沈黙が訪れる。


「……。」

 

気まずげに息を吐くと、オーティスは金属タグを差し出した。


「…とにかく、まずは四境街(しきょうがい)に入れてくれるか?」

「は…はい」


 金属タグをスキャンすると、封鎖ラインの表示が一部青に切り変わり、警告音が静かに鳴り止んだ。


「お気をつけて!」


 キーパーたちの声を背に、封鎖ラインの中へと足を踏み入れた瞬間、音と匂いの密度が跳ね上がる。

 この街は、無数の宿泊施設がひしめき合い、それに比例するように町全体が巨大なマーケットとして発展を遂げていった場所なのだ。


「さあさあ寄っといで!四境(しきょう)マーケットだよ!!」


「そこのネクサリス行きの旦那!西区のチーズと南区の強い果実酒がなきゃ、空の上での晩酌が台無しだ。まとめて買うなら安くしといてやるからさ!どうだい?」


「おっとそこのお嬢さん!お出かけなら西区の香水振りまいておきな!あっちの連中はハイエナみたいに寄ってくるわよ!」


 露店のホログラム看板が目まぐるしく切り替わり、空中広告の光が複雑な路地を照らし、通りには呼び込みの声が入り混じっていた。

 旅行者向けの高級な靴屋や鞄屋のすぐ隣には出稼ぎの労働者の胃袋を満たすための立ち食い屋台が並び活気に満ち溢れている。


「人が多い…これじゃ見つかるか怪しいな」


 呼び込みの声をかきわけるように歩いていくと、商人らしき女性が目の前に割り込むように入ってきた。


「あら!!!いいところに!!」


 焦った様子から、思わず足を止める。


「…!なにかあったのか」


「これよこれ!東区の上等な革でできたポーチだよ?オーダーのお兄さん、たくさん腰につけてるし、そろそろ新しいのも欲しいんじゃない?」


 どうやら、目撃情報ではないらしい。

 商人らしく隙を許さず目を輝かせる様子に、顔が引きつらせながら距離をとりつつ横切った。


「すまん…有難いんだが、俺は今ある分で十分だ」


 その時だった。

 

 賑やかな市場の奥から、突然、甲高い悲鳴が響いた。


「きゃー!!」


 悲鳴とざわめきが連鎖する。

 反射的に、人波を割って走り出した。


「道を開けてくれ!!!!」


──逃亡犯が、誰かを襲ったのか。


走りながら、首元のリング型通信機に指を当てる。


「こちらオーダー識別番号192A01、オーティス!現在、中央区四境街(しきょうがい)で逃亡犯を追跡中だが、市民対応の可能性あり。付近に待機中のオーダーはいるか?」


『確認します!……現在、四境街(しきょうがい)周辺に配置されているオーダーはいません。招集しますか?』


「了解。現場対応を優先する」


『了解しました。現場の安全確保をお願いします』


 通信を切ると同時に、彼は最後の距離を一気に詰めた。


 そこにいたのは、血でも争いでもなく。


 金属だらけの女性だった。


 ネックレス、イヤリング、スプーン、フライパン、鍵束、買い物かごの金属部品。

 ありとあらゆる金属が、彼女の体に吸い寄せられ、まるで鎧のように貼り付いている。


 店の主人は青ざめた顔で、カウンターの内側から身を乗り出していた。


「いやぁ……突然、女性の『きゃー!』って声が聞こえたと思ったら、棚のフライパンも、アクセサリーも全部、一斉に飛んでいきまして…!刃物は盗難防止に固定してたからよかったものの…止めようにも、近づくと自分まで引っ張られそうでね…」


 店の主人は頭を抱え、母親は顔を真っ赤にして困り果て、その傍では少年が地面に転げまわるように大笑いしていた。


「あははっ!母さんってば、やべぇ!ロボットみたいになってる!」

「困ったわ、どうしましょう…」


 オーティスは駆け寄った勢いのまま、状況を一瞥し、

 ──そして、ほっとするように息を吐いた。


「……ああ、なるほど」


 母親はブリキのようにぎこちなくだが、慌てて頭を下げる。


「あら、すみませんねぇ。こんなこと、大人になってからなかったのに…すごく恥ずかしいわ。オーダーさんは、もっと大変な事件の対応中ですよね……?」

「大丈夫ですよ。すぐ外しますから」


 周囲の人々も、オーダーが来たことで目に見えて安堵していた。


 オーティスは彼女の腕に貼り付いたフライパンを外そうとする。

 ──が、びくともしない。


「思ったより強力だな。元素系雷の…恐らくは変換Ⅱ型ですか?」


母親は驚いたように目を見開く。


「まぁ!やっぱり、分かるんですね。さすがオーダーさんだわ」

「知り合いに同じ元素系がいるので…それより。このまま無理に動かせば、肌に触れた部分はそのまま皮膚ごと剥がれるかもしれません」

「え!?ひっ…皮膚ごと…!?」


 店の主人が思わず身を引く。


「そ、それは困る…!うちの店は一点物なんだ!同じものなんてないし、店の備品もあるし商品も………あ、い、いや!それ以上にお客さんに怪我なんてあったら…ねぇ!?」


「同じもの…?そうか!」


視線を母親の背後にいる少年へと向ける。


「君、Nova(ノヴァ)はもう発現してるか?」


少年は一瞬きょとんとし、それから元気よく目をキラキラとさせて頷いた。


「できる!んっと、母さんと同じやつ!学校でいっつもマグネット戦隊ごっこしてんの。Nova(ノヴァ)使えば鉄棒でプロペラみてぇにもできんだぜ!」

「遺伝みたいで。最近、あの子の影響なのか私のNova(ノヴァ)が勝手に強くなってしまって。きっと今回もそれが理由だわ…」


母親は少し照れた様子に、オーティスは静かに頷いた。


Nova(ノヴァ)は、血縁で似ることが多い。珍しくはないです。ちょっといいか?試しに、君の母さんにタッチしてみてくれ」


「は?やだ!なんで俺がやんなきゃなんだよ!」


 周囲の気の抜けた様子の中で、オーティスだけが真剣に告げる。

 しゃがみ込んで、子どもに目線を合わせた。


「このままだと、君の母さんが怪我するかもしれない。時間経過で外れるかもしれないが、金属が内臓を圧迫してるんだ。お母さんが苦しそうなの、見えないか?」


少年はぷいっとそっぽを向いていたが、躊躇いがちに横目で母親を見上げると視線を落とした。


「……わかったよ。仕方ねぇなぁ」


 不貞腐れた少年がため息混じりに手を触れる。

 するとまるでスイッチでも切れたかのように金属が音を立てて床へと落ちていった。


カラン、ガシャ、コトン


 一瞬で、母親の体は元の姿に戻る。


「……あ、あら?」


母親は自分の腕を見て、ほっとしたように息をつく。


「ありがとう…ありがとうございます……!」

「すげえ!魔法みてぇ!」


子どもはオーティスを見上げ、きらきらと目を輝かせるが、

彼は少年の頭をくしゃりと撫でて、苦笑しながら立ち上がった。


「魔法を使ったのは俺じゃない」


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