たった一つの光1
「こっちかっちー。』
まだまだ小さな手に引かれて転びそうになりながらも何とかついて行く。
小学生に上がったばかりだが大人の身体を引っ張る力なんて本当に子供の成長とは早いものと常々思う。
「結衣ぃ、転ぶ転ぶ。パパ転んじゃう。』
我が最愛の娘である結衣は何とも憎らしい笑いを響かせながら足を止めてくれない。
最近目の見えないパパを面白がってないかい?
おっとっとと愉快な声を上げながらやっと立ち止まってくれた結衣に勢い余って背中に突撃してしまった。
「おっと、失礼お嬢さん。』
「涼太ー、セクハラで逮捕逮捕!』
「か、勘弁しとくれ。と言うかパパって呼びなさいパパと。それかダディ。
まったくどこで覚えるのか。
最近の子供はすぐにアニメやYouTubeで何でも影響されてしまう。
まあそんなこと言いながら可愛い奴めと頬が緩んでしまう親バカなのだが。
「はい、パパ。ここ座って?』
言われた通りしゃがみ込むと結衣は僕の手を目の前に導いた。
小さな庭の一角、そこで柔らかな感触を感じた。
その優しい柔らかさが微かな風に揺れながら2人に鼻をくすぐる香りを運んだ。
以前結衣がお花を育てたいと言って買ってきた種。
それが春の暖かさに導かれて立派に咲いていた。
「結衣が毎日水を欠かさずあげてたからちゃんと咲いたね。』
「うん、赤いのと青いの凄く綺麗だよ。ちっちゃくいろんな色もある。』
いつからだったろう?
結衣は目の前の色や形をいつでも僕に教えてくれるようになったのは。
何年か前まではあれこれと指を指して僕が分からないと「何で分からないの!?』と癇癪を起こして泣いていたものだ。
今では目が見えないことをしっかり理解して逆に何でも教えてくれるようになった。
それが正直切なく感じてしまう。
この子の親は1人だけ。
目の見えない父親が1人だけ。
この子は僕のことを本当はどう思っているのだろう?
「寂しい・・・。』
ぼそっと呟いた結衣の声に思わず鳥肌が立った。
考えていることが分かった?と冷や汗が流れたが、それは次の結衣の言葉で勘違いだと教えてくれた。
「赤と青のお花。嬉しいけど寂しい色。綺麗なのに見てると悲しい。』
「結衣?泣いてるのか?』
表情なんて見えない。
震えた声でもない。
でも、なぜか涙を流している気がした。
「そろそろ家に戻ろうか。晩御飯の準備しなきゃだしな。今日は結衣ちゃんの好きなとんかつですぞー。』
「えーっ、また黒いとんかつ?』
「ゔっ、前回の焦げかつは忘れてくれ。』
キャッキャッとはしゃぎながら玄関へと駆けていく結衣の声に、先程のは杞憂だったと思うことにした。
嬉しくて寂しい色か。
何て花だったかなこの花?
あ何ちゃらとわ何ちゃら?
「パパーっ!?はーやーくー!?』
近所に響き渡るような声にハッと我に帰り慌てて足を動かした。
目の前が家の壁とも気づかず。
結衣に負けないくらいの声を響かせたのは言うまでもない。




