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雪とけた先の春

作者: はる
掲載日:2026/01/02

人が突然跡形もなく消えてしまう現象。それは『消失病』と呼ばれるようになりました。どうやら人は悲しい、辛い、寂しいの感情があふれてしまうと消えてしまうらしい。

朝にぼんやりと食パンをかじり甘めのカフェオレを飲む。

お子様味覚と言われたこともあるがブラックコーヒーより断然こっちの方が美味しい。

大人ぶってブラックコーヒー飲む方がよっぽど子どもに見える。面倒だから言わないけど。






テレビからは朝のニュースが流れている。

いつものキャスターが世界中に蔓延している病気の感染者数を発表していた。今日は3000人らしい。毎日のことすぎてこの人数がもはや多いのか少ないのかは感覚が麻痺して分からない。そして昨日も同じようにぼんやりカフェオレを飲み出かけて行ったんだった。


















  





ストレートのロングヘアの小柄な女の子が公園に立っている。あれはリサだ。今日も俺とケントの3人で待ち合わせして自由登校になっている学校へ一緒に向かう。

俺たち3人は今15歳の幼なじみ。ずっと一緒だった。だけど春からはみんなそれぞれ違う学校に行く。



次の学校に入学するまではみんなで自習するよと適当な理由をつけて一緒に過ごしていた。俺なんて体育科の推薦だ。勉強なんてあんまり必要ないし、もはや諦めている。でも何となく残り少ない時間を幼なじみと過ごしたかった。2人も特に何も言わないけれど同じ気持ちだと思う。






俺たちを待つリサの後ろ姿。ロングヘアが風になびいてキラキラして見えた。柄にもなく感傷的になっているのかもしれない。似合わないなと気持ちを切り替えるように駆け寄る。後ろから驚かそうと手を振りかぶった時。








「おはようレイ」

「…おはよう」








いつもだったらバシッと叩いて驚かせられる所を今日は綺麗にかわされた。







「残念ね、今日はすぐ分かった」

クスクス笑うリサに少し悔しく思う。

「ケントは?」そう聞こうとしたら肩をバンッと叩かれた。思わずビクッとする。驚いたんじゃない。単純に痛かった。




「やあ親友」

「ケント…手加減して」




黒髪で短髪のケントは髪質なのかツンツンと立っていて額がでている。スポーツマンタイプで爽やかそうな雰囲気を見せるがごりごりの頭脳派。俺じゃどうやっても入れない進学校へ行くことになっている。





「いつもレイが驚かすから仕返し」





爽やかに言われてしまうと何も言い返せない。多分俺は一生こいつには勝てないと思う。

3人揃ったところでいつも通り学校へ向かい歩こうとした。










「2人とも聞いて……近くに住んでいた猫と仲良しのおばあちゃん発症しちゃったの。飼っていた猫が亡くなってから元気なくてね。私も一生懸命お話相手になろうとしたんだけどダメだった……」


リサはあまり感情の無い淡々とした声で話した。



「……」


俺とケントは黙ってリサの話を聞いた。そのおばあちゃんのことは知っていたし、その亡くなった猫にもみんなで手を合わせた。もう動かない眠る猫をちゃんと見たから幸せな一生だったんだなと思った。






もちろん二人もおばあちゃんに猫が消えなかったのは幸せだったって事だよと励ましていた。少し涙を流していたけれど良かったとホッとしたように微笑んでいたのは印象に残っている。






「毎日さみしかったのかな?」






少しづつ声のトーンが下がっていくリサの手を俺は握った。




「あんまり考えるな」




あふれるぞとは言えなかった。ただぐっと握った手をリサも強く握り返してきた。悲しくなった時の応急処置。いつもこういうのに反応が早いケントが今日はぼんやりしている。





「ほらケントも」




俺はケントの手を取り3人で手を繋いで輪になった。静かに目を閉じて数秒。




「もう大丈夫」

リサが言った。






もしも悲しい、寂しい、辛いと感じたときは大事な人や近くにいる人と手を繋いだり、抱きあったりして感情を落ち着かせる。これは病気が少しずつ解明されてきたときに政府が発表した応急処置法だった。






毎日感染者数を発表しているのは『消失病』と呼ばれている。名前の通り人が何も残さずに消えてしまうからそう名前が付いた。




最初の病気が確認された頃はそれはすごい騒ぎだったらしい。人が突然消えてしまうなんて最初は信じられなかったからだ。ただ何人も消えていき、家族や消える瞬間を目撃した人の証言でようやく国の方が動いて調べ始めたそうだ。世界中で確認された人間消失の統計。




当時はそんな馬鹿な話となったようだが悲しいとか辛いとかの気持ちが一定を超えてしまうと人が消えると正式に各国で発表された。




俺は生まれた時から消失病があったから変な感じはしないけれど。

消えていった人の分析で職場や学校、生活の中でストレスを抱え自殺願望をもっていた可能性のある人がほとんどだったそうだ。世界中の人口がぐっと減って人類は少し衰退しているのかもしれない。






「今日学校に行くのやめよっか」

ケントが言った。





「僕ね、昨日は少し良いことがあったから驕ってあげる。コンビニスイーツ選んで良いよ」

「良いのか?」






俺はマジか?と言いかけたのを堪える。ここでやっぱりやめたって言われないように。人口が減ってからすごい物価が高いんだ。コンビニスイーツなんて貧乏な学生にはとても遠い。リサも「良いの?良いの?」と何回も聞いていた。「1個だけだよ」ケントが笑って答えた。









3人の足取りは軽い。いつもはスルーのコンビニで好きなものを選べるのだ。何にしようか本気で迷う。3人それぞれぐるぐるスイーツコーナーを周りイートインコーナーで並んで座った。俺はかなり迷ったがシュークリームにした。カスタードクリームと生クリームは最強だ。







「レイのシュークリームカロリー高いよ」

「リサの苺大福も高いだろ?」

「和菓子は脂質が低いの」

「ふーん」







リサは体重を気にする万年ダイエッターだ。

女子ってそんなもんよ?といつも言っている。甘い物の誘惑には勝てないらしい。今日のスポンサーのケントが一番大きいものを買っていた。バラエティドーナツ詰め合わせ。なんとカロリーは3個入りで総カロリー堂々たる千カロリー超えだ。リサはこれは後を思うと怖くて食べられないわと嘆いていた。




人の少ないコンビニで並んで食べるスイーツはなんて贅沢なんだ。それぞれ選んだスイーツをお互い一口どうぞをして、ケントなんて1個ずつ分けてくれた。チョコとドーナツの組み合わせも王道の美味しさ。リサは躊躇いながらも結局全部食べた。俺とケントでそんなリサを笑って見ているとじろっと睨まれた。「ダイエットは明日から」と1人宣言する。勝手に何言ってんだかなあ。女子って大変だ。





食べ終わって3人でコンビニを出る。何となく今日はもう学校の気分ではなくて歩いて待ち合わせをした公園まで戻って来た。



まだ寒い公園で帰ったら忘れそうなくらいくだらない話をした。昨日のテレビ見た?とか、次の学校の準備してる?とか平凡な日常の1ページ。ダラダラと話していた。少し風がでてきてリサが「寒くなってきたから帰ろう」と言った。



俺とケントはリサの言葉に頷く。のんびり歩いて公園を後にする。


 





「スイーツ美味しかったね」

リサが呟いた。


「甘いものってマジで幸せになるよな」と俺が返すと2人に盛大に笑われた。なんだよ絶対でてるよ幸せホルモン。






「奢った甲斐があるよ」とケントが笑う。何だかレイは単純だねと言われてそうな雰囲気に少しむっとする。






リサがいつも別れる道の前でピタリと止まる。


「笑っちゃったけどカロリー高いもの美味しい。レイの言うとおり幸せだね」



うむ。そうだろう?と俺は分かれば良いと大げさに頷いてやる。


「明日も幸せかな?」

リサが言った。


「大丈夫。明日も幸せだよ」

ケントが答える。



少し微笑んだリサが手を振った。また明日って言った気がした。










あっキラキラしてる。朝リサの髪が風になびいてそう見えた事を思い出した。そのわずか一瞬。リサが消えた。





俺は目を見開く。隣のケントも動けない。




数秒の静止。




「リサ!」

ケントが叫んだ。

その声でようやく俺も動く。リサが消えた地点に走り寄る。







「なんだよ…」








何にも残っていない。少し遅れてリサが発症してしまったんだと頭が動いた。ぼんやりとリサが消えた場面を反芻する。消失というよりキラキラしてふわりと雪が溶けていったようだった。俺の脳の補正なのかリサは微笑んでいた気がする。









ケントが黙ってリサの残された鞄を拾う。2人でリサの家に向かった。そこから俺は情けないが何も言えなかった。リサの母親にもケントが説明した。「ごめんなさい」ケントが言った時に俺は頭を下げるしかできなかった。







「正直ね……そんな気はしてた。2人には悲しい思いさせたね」






昔みたいに抱きしめられいつもなら「やめてよ」と逃げるが今日はぽっかりした心に沁み込んだ。リサじゃないけどリサを感じる。どうか俺たちよりリサママが元気になれますようにと心から願った。



久しぶりにリサママの背中に手をまわしたらとても小さく感じた。










 












 


 
















ぼんやりとしてぬるくなってしまったカフェオレを流し込む。妙に甘味が喉に残った。



今日のニュースの3000人。多いか少ないかは分からない。ただ昨日とは確実に受け取り方が違う。そのうちの1人はリサだ。今日待ち合わせ場所でどれだけ待ってもリサは来ない。




携帯の振動がテーブルに響く。確認するとケントからのメッセージが届いていた。

『やあ親友』短い文と知らないゆるキャラがニコニコ笑うスタンプが1つ。

俺は『よお悪友』と文を打ちにやりと笑うスタンプを送った。





メッセージを見てホッとしている。どこかでケントももしかしたらと思っていたんだろうな。でもきっとケントもだろう。普段こんなメッセージを朝に送ったりなんかしない。






台所で皿洗いをしている母親の後ろ姿が見えた。











リサ消えちゃったんだよ。









「いってきます」


リサのことは言えずに声だけかけて俺は家をでた。
















いつもの待ち合わせの公園。ケントが見える。お互い揃うと何を言うでもなく学校に向かう。会話は無い。沈黙が苦になる間柄でも、気を遣って話せない訳でもない。単純に何を話してもリサにいきついてしまうから怖いんだ。沈黙のまま学校の正門を抜ける。何となく着いちゃったなと空を見上げると屋上のフェンスをよじ登る人影が見えた。キラキラと光るロングヘア。俺は思わずリサを重ねてしまう。








「ケント上!」

「え?」







おいおいこんなご時世に何やってんだ?!俺とケントはとにかく階段を駆け上がり屋上へ向かう。











「ここのフェンスボロボロなんだケントは押さえといて!」

「分かった」






俺はフェンスを上りロングヘアの誰かを掴んで引きずり下す。


フェンスを登るのをもたもたしていた。たぶん運動音痴。でも助かった。すぐに追いつけることが出来たから。










「わざわざさあ、今じゃないだろ?」


どうせ限界が来たら消えるのにと少し睨みながら言ってしまう。








「名前は?」

「…」









ぼんやり立つロングヘアは最初は女の子かと思った。でもよく分からない。身長は170の俺より大きい。表情はぼんやりしていて読めず、中世的な顔。服もオーバーサイズのシンプルなシャツにダボダボのパンツで体型も見えない。どこか浮き世離れした不思議な雰囲気で佇んでいた。








「名前付けてくれる?自分は今ここで1回死んだから」








俺とケントは顔を見合わせて困惑する。でもさっき死のうとしていた人に下手な質問は出来ないし怖い。











「カリ」

俺はロングヘアを見て言う。


「カリ…」

「今からカリって呼ぶ」








俺がそう名付けるとロングヘアの今からカリが頷いた。


「君さあ、カリって仮から付けた?」

ケントが呆れ気味に言う。



「だってさ名前って重要だし、これからもっと良い名前見つかるかもしれない。だから仮からがカリ」


「もー君ねえ」と苦笑するケントに「別に良いだろ?」と笑うと今日やっと朝から続く重めの空気を壊せた気がした。







「カリはここの学生?」




ケントはカリに少し言葉を選びながら話しかける。


「僕らはもうすぐ卒業で自由登校なんだ」

「…」




何も話さないカリ。まあ話したくないのかもしれない。







「なあ少し屋上で休もうか?」


カリも少し気持ちを整理した方が良いだろうし。俺は「日向ぼっこー」と座るとケントも自習する気分じゃないようですぐに俺の隣に座った。









「カリも座ったら?」


ケントが呼ぶもただ黙って立っている。何だか覇気のないぼんやりしたやつだなと思った。俺とケントは携帯で動画を見たりネットニュースを読んだり適当に過ごしていた。良い天気だなともう鍵もかけていない屋上で空を見た。門を抜けた時見た空は登るカリに焦ったけれど今は本当に青い空だけ広がっていた。









「レイ……」 

「何?」

「リサママが消えた」










ケントが携帯のメッセージ画面を俺に向ける。俺は画面を見るだけで文字が入ってこない。頭が動かない。目の前のケントもすぐに携帯を持つ手をだらりと力なく下げた。








「消えちゃったんだね」

抑揚のないカリの声がした。






「もう解放されたんだよ。救われたんだ」

カリの言葉に俺は苛立つ。








「簡単に言うな」

「どうして?辛いこと悲しいことが溢れて苦しみも痛みもなく消える。生まれ変わって新しい人生をやり直せばいい」

「もう黙れよっ!」




俺は回らない頭でカリに詰め寄り胸ぐらを掴む。





「もううんざりだっ!生まれ変わるって何だよ?それはもうそいつなのか?記憶があるか?…リサは…俺たちのこと覚えているのか?」


「…」


「見た目だけじゃない、一緒に過ごした時間や思い出が大事な絆になってかけがえのない存在になっていくんだよ」


俺は胸ぐらを掴んだカリに叫ぶ。八つ当たりかもしれない。でも抑えられなかった。




「大事な存在が消えて解放されたなんて残された俺たちは悲しみしかないんだよ!こんな負の連鎖が良い訳ないだろっ!」






さっきまで何の感情も見せなかったカリの目が大きく見開かれる。何だ?今さらショック受けてんのか?




「レイ…もう……」



ケントの力ない声に振り返る。いつも感情的になった俺を止めてくれる。




座るケントがキラキラして見えた。

本能的に飛びつこうと走った。耳を塞ごうとしたのか、抱きつこうとしたのかは自分でも分からない。感覚的にはスローモーション。でも俺はケントに触れることなくすり抜け無様に転がった。受け身なんて考えていなかったから。

もう力が入らず寝返りだけうつ。見上げたケントは悲しい笑顔で涙を流す。








「ごめんレイ……もう無理だ」








何となく分かってた。このキラキラして見えるのは消えちゃう前の前兆だ。クソっと拳だけ握る。ケントも消えちゃうのか、そんなのもう俺だって無理だ。何も気力が湧かない。





自然と流れた涙は悲しみか絶望か?どっちでも良いかと流れるに任せた。ケントにさよならも言えそうにない。さっき透けて通り抜けた。今まで一緒に繰り返した応急処置を思い出す。リサとケントといっぱい手を繋いだ。3人で苦しいぐらい抱きあって笑った。暖かかった。






自分の手が透ける。ここまでだって分かった。気怠い体を何とか起こす。ケントの方が先に消えそうだ。キラキラして俺より透けている。さっき通り抜けたからもう触れることも出来ないんだとぼんやり思う。無駄だと知りながら何となく手を伸ばした。







「えっ?」




予想外ににもケントの手がつかめた。ケントも驚いている。




「レイも…透けてるからかな?」

「びっくりしたー…うわーでもあったかい、生きてる体温がする」

「僕ら幽霊みたいだもんね」

「シャレになんないって」






お互いふっと顔が緩む。涙で揃って汚い顔だ。でもなんか吹っ切れた。






「またね」

「うん、すぐ…」







ケントが微笑んで溶けるようにふわりと消えた。キラキラして単純に綺麗だと思った。雪が溶けて消えたみたいな。そっちは厳しい冬を越えた春だったら良いな。








「なあカリ」


消えちゃう前にカリに謝ろうと思った。ショックそうな顔。傷つけたかもしれない。









「随分自分は人から遠くなっていたんだね…」

「?」








「自分が消失病を作った。分かりやすく表現すると神様って存在に近いのかもしれない」

「…えっと」











突然のカリの告白に何を聞いたら良いんだろう?訳は分からないがカリの独特の雰囲気は神様だと言われると少し納得してしまうところはある。








「どうしてそんなことしたんだよ?」


「自分は魂が巡る輪廻を知っているから…死んだら生まれ変わる。辛いなら楽にしてあげたかった。苦しみながら生きるのも死ぬのも見たくなかった…」


「そうか…」


「でも記憶もなくなる。姿も変わる。魂は同じでもそれは別人だ。レイに言われるまでそんな単純なことも気づけないぐらい人じゃなくなっていたんだ」




カリが泣いている。初めて感情のある表情を見た。


「ごめん…今を生きる人達になんて酷いルールを作ったんだろう……」







歪むカリの表情は苦しそうだ。全部理解は出来ないけれどカリなりに救いたい気持ちは本当なんだと分かった。






カリもキラキラしている。神様にもこのルールは適用されるのか、ある意味平等だ。




「カリは神様なのに消えるのか?」


「自分は違うルールがある。生まれ変わることや神様であることは言ってはいけない。だからもうすぐ消える」




消えちゃうのに話してくれたのか。カリなりの誠意か心からの後悔がそうさせたのか、神様も辛いな。


俺はカリの手を取り握った。




「全部は許せないけどカリが救った人もたくさんいると思う」


もう最後なんだ。誰だろうと苦しむ最後なんて無い方が良いに決まっている。


「さっき消えたケントキラキラして暖かかった」


手を握られたカリはただ俺をぼんやりと見ている。


「生まれ変わる先はきっと春だよカリは春を作ったんだよ」


もうそう思っちゃえよとと笑う。そうだもういっそ……









「名前、今からハルだ」

「ハル……」

「うん、カリより似合う。今だってお前の手暖かいよ。ちゃんと生きてる」

「レイは胸ぐら掴んだり手握ったり忙しいね」









うつむいて呟くようにハルは言った。でも少し苦しむような表情はやわらいだ。




どんどん透けていく俺たち。太陽に手をかざすと青空が手から透けて見えた。当たり前の日常の空が尊かった。終わりになる事を受け入れると人ってこんなに穏やかに色々感じられるんだな。ゆっくりと目を閉じる。









「ハル、一緒に生まれ変わろうな」

「レイ、名前と人の気持ちを思い出させてくれてありがとう」



ハルが俺の手をぐいっと引っ張る。

「最後に神様の力見せてあげる」





ふわりと消える。





透過、どうか、またいつか。






























はっと気づくとすごい勢いで落下中だ。スカイダイビングなんてしたことないぞ?!穏やかに消えたはずなのになんだこの状況は?









「胎内記憶が残っている幼い子は空から滑り台を滑ったって言う子が多いんだよ。もしかしたらここの記憶の片鱗が魂に残っているのかもしれないね」







一緒に手を繋いで落ちるハルは冷静だ。さすが神様。落下する空間は真っ暗で無数の星のような小さな光。宇宙空間を抜けていくようだと思った。












「このたくさんの光は全部巡る魂だよ」










すごい数。当たり前だけど人を含めたすべての生命がここで巡っているんだと圧倒的な視覚のスケールで感じる。これは色々麻痺するだろう。










「自分は神様だからすべての魂を感じられる。時間差の少ないケントならすぐみつかるよ・・・うん、みつけた」










ハルは落下する先に向かって指さした。小さな無数の光の中に1つが突然大きく発光する。眩しいなと目を細めた。どんどん大きくなる光は形を作っていく。完全な人の形になると光は消えた。ここまできたら俺にも分かる。




「ケントっ!」








叫んでみたがぼんやりしているケントは気付かない。仕方ない起こしてやるか。少し前のお返しとばかりに叩いてやろうと手を構える。あともう少しだなと思ったところでケントがハッとしたように目を見開く。そして俺にむけて開いた掌を伸ばす。









『やあ親友』そんな口の動きだった。


「よお悪友!」












俺はケントに追いつきその手を掴む。その瞬間反対側の手のハルの感覚が消えた。たぶんこれも神様にとってはルール違反だったんだろう。透けるハルがキラキラしている。そして光って弾けた。溶けるんじゃなくて光ったのは初めて見た。ハルの暖かい光に包まれる。ハル、本当に春になったんだな。












俺たち生まれ変わるよ。春は出会いと別れの季節なんだ。


 








春を越えたその先は










  





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