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臆病風に吹かれて

 今日は友だちと飲みに行きました。友だちと別れてから、ぼくは駅前広場に行きました。


 ここにいれば知らない人とも仲良くなることができます。今日は平日なのであまり人はいませんが、それでもまだ時間が早いのでぼちぼち人はいます。


 ぼくはベンチに座ってぼんやりと周りの様子を眺めていました。そうしてふと横を見ると、石垣に腰掛けている女の人がいました。そのかたわらにはギターがあります。この人のものなのだろうか、とぼくは思いました。だとしたらぼくと同じギタリストです。ぼくもちょうど、ギターを持ってきていました。ただしぼくはまだまだ初心者なので全然弾けません。


 この女の人と話したいなと思いました。ぼくからは顔がよく見えませんが、すらっとしていて綺麗な髪をした人です。よこしまな気持ちがないわけではありません。ギタリスト同士で音楽の話をしたいというのは本当ですが、ギターを通してこの人と仲良くなれればなぁと思いました。


 でもぼくには話しかける勇気がありません。ぼくはお酒を入れないと知らない人に声をかけることができません。お酒を入れようかと思いましたが、お酒の力に頼るのは情けないのでやめました。もやもやしているうちに、彼女は近くにいた外人さんに話しかけられていました。


「ギターやってるの?」

「ええ、そうよ」


 そんなやり取りのあと、彼女はギターを持ち、弾き語りを始めます。ぼくも知っている曲でした。話しかけるチャンスが訪れました。


 でも、ぼくは彼女に声をかけることができませんでした。ぼくはやっぱり勇気が足りないのです。あまり頼りたくはないのですが、仕方がないのでコンビニにお酒を買いに行きます。


 だけど、戻ってきたころには彼女はもういませんでした。ぼくはひとりちびちびとお酒を飲みました。


 女の人もいなくなってしまったので、ぼくはギターを取り出して練習を始めました。風が冷たいです。もうすっかり冬です。ギターを弾いていると指先がかじかみます。


 日付も変わり、広場の人も少なくなりました。寒いし、話せそうな人もいないし、そろそろ帰ろうかと思っていたら、見たことのある顔の人がこちらへ歩いてきます。


「なにしてるの?」


 この人はこの広場で何度か話したことのある知り合いの女の子です。ぼくは少しだけ嬉しくなりましたが、気持ちを悟られないようにあくまで冷静に、こう言いました。


「ギターの練習」

「貸して」


 女の子がそう言うので、ぼくは自分のギターを貸してあげました。彼女は結構ギターがうまいのです。


「最近つくったオリジナルの曲をやりますね」


 女の子は歌詞の書かれたスマホのメモ帳を見ながら弾き語り始めました。彼女の歌声は甘くて透き通っていて、冬の夜空によく響きます。ぼくはそれを隣で聞きながら星空を眺めました。


「ありがとう。帰るね」


 弾き終わると、女の子はそう言いました。


 ちょうどぼくも帰ろうと思っていたところなので、ギターをしまって腰を上げます。たしかこの子の家はぼくの家と方向が同じなはずなので、一緒に帰れたらうれしいな、と思ったのですが、女の子は片手を上げて、こう言いました。


「コンビニ寄っていくね。それじゃ」


 僕もつられて片手をあげると、女の子はぼくの手にハイタッチして、去っていきました。


 あの娘と一緒に帰りたかったな。そんなぼくの気持ちは冬の夜空へと消えていきました。


 ぼくはマフラーを口元までたくしあげ、シャッターの降りた商店街を歩いて家路につきました。


 今日は風が冷たいです。

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