表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

過去の足跡

作者: なと

夕暮れの雲を瓶で閉じ込めて冷蔵庫に保存する

小さな空き缶に夢を注ぎ込みぐっと飲みこむと

臓腑に染み渡る過去のおもひで

夜とは小さな繭の中の安寧

大人のたましひが海へ帰ってゆきます

背広もスーツも中身がないまま夜空を舞い

月光が人々を若返りの薬と夜道を照らす

何処からか潮騒の音色に

眠る夜

夢みたいな祭りの笛太鼓

子供の頃を思い出して空き缶にビー玉を隠す

小さな囁き声のする開かずの扉の前に立って

後ろの正面だあれと呟くと扉はゆっくり開く

血の赤がやけに美しく見える労咳の君

暖かい隙間を探して秋の夜は寒い

家守の住む屋敷はゆっくりと暖かい息を吐く

海の貝殻に小さな骨常世の夢






静かな仏間に炎が灯る

それは鎮魂の祈り

たまさかに鈴の音が何処からか這入り込む

静かな線香の糸は僕の首を絞める

旅人は秋をポケットに仕舞い込むと

口からぽかりと夜の灯火を吐き出した

煙草という大人のたしなみを

あの海の向こうへ連れて行ってくれるだろうか

魂がぼんやりと冬の棺桶に連れて行く






懐かしい町たちは

何時でも帰っておいでと手招きしている

秋風が亡くしたはずの恋心を招き寄せる

複雑怪奇な心とは裏腹に秋風が芒野を揺らす

夢の裏でひっそりとお化けが墓場で人魂探し

すっかり人の途絶えてしまったこの町では

何処からともなく花いちもんめの唄が聞こえてきて

人さらいが嗤っている









真夜中に冷たい水を飲みながら

寝静まる宿場町の街灯の灯りの事を考える

訳あって宿を探す旅人の連れ子が

じっと信号機の赤を見つめる

通りゃんせの声が何処からともなく風に乗って聞こえる

提灯灯篭には灯りが点り明日は神社のお祭り

潮騒の音が不意に聞こえた

振り返ると秋風が荒れ野の草を揺らす









蔵の巻物に蛇が絡みついていた

襖を開けると蜥蜴がささと逃げてゆく

仏間には何が棲んでいるのだろう

窓を開けると荒れ野の方から

焦げ臭い匂いがした何故か人の焼ける匂いのする

鬼籍に入った人の遺影がどんどん増えて来る仏間には

何故か時折黒い影が線香の傍に立っている

何処か夢の中にいるよう









押し入れの中で眠る夜は悪夢に怯えているから

満月の夜はお風呂の中で人魚になる夢を見る

あの歩道橋で見た環状八号線のテールランプを忘れられずに

どうせ選ばれないからと花占いは最後までしない

幽霊みたいに生きているからしとしと雨が好き

春になったら魂の抜け殻を櫻の木の下へ埋めようと思う







夕暮れ時を切り取って置いておきますと

食卓の上に熟れた柿が置いてある

寂しさと懐かしさの饗宴だ

紅い傘で雨の降る宿場町で

通りゃんせを唄いながらステップ

夏は逝ってしまった

秋雨は私を魔物に変える

そっと秋桜に口づけをして

魔物は匣の中で暴れている赤い家守

人生を蒐集しては鍵の抽斗へ






遠い過去に置き去りにした心の欠片が

古い玩具箱の中でことこと音を立てている

秋のともしびだと思ってた

心の欠片は寂しい寂しいと開かずの戸の向こうで

忘れていた自分を取り戻そうと

自転車で陽の差す坂道を下ってゆく

未来よりも懐かしい過去ばかり欲しがる魔物は

夢の中で光る心の欠片を見つける







封印されし血の記憶を消すために

秋風に吹かれて頭を冷やす

揺れる秋桜に導かれるように

あの踏切の前に出る

お地蔵様が鄙びていて

何処からか野火の匂い

暖かい母の掌を思い出して

夕暮れに芋をふかして貰う

秋雲の這入ったゼリーには

封印を開けてはならぬと

張り紙がしてあって

何処かで鈴の音







永遠を閉じ込めた匣の中から

開けてくれという子供の声がする

苔むした開かずの扉から

今日も午後五時を告げる時計の音がする

人はどうしてこんなにも残酷になれるのだろう

問うた君の横顔に秋桜の花が揺れている

木蔭が揺らめきながら陰影を造る

過去と永遠は共存できますか

向日葵畑で微笑む君がいる







懐かしい風景に秋風がするりと頬をなでる

過去の記憶が不意にあの匣から抜け出してくる

真っ白な脛がゆっくりと畳を踏む

とんとんとんと赤い毬が階段から落ちてきた

何処へ向かうのか君は

そう問いかけても過去の記憶は顔を持たない

秋の真昼は優しい太陽の光と共に

緩やかに自転車は坂を下ってゆく







秋風の荒れ野に抱いた月は輝き

蔵の裏の人魚がぴしゃんと跳ねて

主は酒蔵の中で干からびている

何処からともなくチンドン屋がやってきて

見世物小屋のチラシを配っている

此の世は暗黒だよ真っ暗だよ

誰かが呟いていた気がする遠い過去

人生とは只過ぎていくものだろうか

古い町並みは何かを問いかける









夏の欠片は過去のともしび

帰らぬ日々に想いを馳せては

宝箱の中を覗き込むような想い

少年時代とは永遠

夏とは夢

いつまでも還れない頭に

小さな赤蜻蛉が止まる

秋は静かに只虫の音を聞き

酒瓶を片手に

ぶらりと夜の道を逝く

あの子は今頃何してるかな

同級生の面影が懐かしくなる頃

人生が見えて来る









ゆめわずらい

そんな病があるからと

謎の町医者に貰った

謎の薬を飲んでみた

世界は逆さになって

町には魚や鯨が泳ぎ始める

万華鏡のように映す走馬灯が

過去をしまって置いた机の引き出しから

天女の羽衣がしゅるしゅると

気が付くとすべてはゆめ

膿んだ頭で荒れ野の冷たい秋風に

吹かれたくなった








秋の夜風に吹かれて

孤独は小さな匣の中に逃げ込み

暗闇の部屋に慣れて来ると

自分は妖怪か物の怪のように感じられます

不思議な事です

仏間の方でことりと音がしました

おそらく位牌が倒れたのでしょう

仏間には幽霊が棲んでますから

孤独の足先は真っ白で

旅人はそっとコートの中に

孤独を隠しました







蝉の声が聴こえない

夏は終わりを告げる証

ノスタルジィを封じ込めた

空き瓶の中に小さな脱脂綿

薬の匂いが僅かな過去を呼ぶ

火葬場の煙突から煙が昇っていて

何度嗅いでもなれぬ人を焼く匂い

タンパク質を焼く匂いが好きだと

言っていた同級生は秋雨の日に神隠し

川に流れる夜の灯火は星屑の欠片






夕暮れの雲を瓶で閉じ込めて冷蔵庫に保存する

小さな空き缶に夢を注ぎ込みぐっと飲みこむと

臓腑に染み渡る過去のおもひで

夜とは小さな繭の中の安寧

大人のたましひが海へ帰ってゆきます

背広もスーツも中身がないまま夜空を舞い

月光が人々を若返りの薬と夜道を照らす

何処からか潮騒の音色に

眠る夜







夕暮れ時

仕事から帰る人の足跡を追いかける猫

ぼんやりとした街の穏やかな風景に

溜息しかでない夕暮れ

人生とは何だと猫に問いかけると

明確な答えのない

ビー玉のような瞳を瞬きさせて

過去の風が背中を押して子供の頃の記憶に脳が

町は凡てを飲み込み影となす

嗚呼人生を閉じ込める隠れ家が欲しい






赤蜻蛉は何処へ行くのか

蜃気楼の町をぐるぐるとあてどなく

人生という旅路に小さな小國神社のお守りをお供にして

嗚呼今夜も潮騒を思い出しては眠れない

家に残してきた桜貝は今頃なんの夢を見る

郷愁の彼方には荒れ野の上に人魂の赤い炎

遠くからお祭りのお囃子と笛の音

窓の外から秋風は語りかける







お酒でもぶら下げて帰路に着く

夕べの夢を思い出して

あの海は何処へ続いているのだろうと

山は列車の音を乗せて誰かの声がおういおういと

砂浜に残されたダイイングメッセージを

思い出そうとすると

暗い炎にかき消されてしまう

目の前にもし地獄が横たわっているとすれば

それは過去からのよすが


真夜中に冷たい水を飲みながら

寝静まる宿場町の街灯の灯りの事を考える

訳あって宿を探す旅人の連れ子が

じっと信号機の赤を見つめる

通りゃんせの声が何処からともなく風に乗って聞こえる

提灯灯篭には灯りが点り明日は神社のお祭り

潮騒の音が不意に聞こえた

振り返ると秋風が荒れ野の草を揺らす

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ