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消えたチョコアイスと消えない彼女

作者: 米俵猫太朗

僕はチョコレートアイスが大好きだった。たぶん、食べ物の中でベスト5に入っていた。

僕の家族は喫茶店が好きで嵐山の外れに今もある店へ良く通って、そこで両親はコーヒーを、僕は子供の顔くらいはある大きなチョコアイスを口にするのが習慣だった。


だが成人して大阪へ出て社会人になって、その店で食べることもなくなり……そして彼女が来てチョコアイスは完全に僕の人生から消えた。


彼女はハチワレ柄の猫で、アイスクリームが大好きだった。猫用のミルクやフード以外で初めて彼女が食べた食物がカップに入ったアイスで、蓋についたクリームを舐めた彼女は、

「こんなに美味しいものがこの世にあったのか!?」

という顔で蓋を、そしてカップの底を綺麗にした。


一方、チョコレートというのは猫には毒で、「猫とチョコレート」というボードゲームもあったりはするのがだ、食べさせるのは厳禁だった。(それを言えばアイスも決して、猫の身体に良い食物ではないのだが)


普通のバニラ味のアイスクリームならまだしもチョコアイスを彼女が舐めてしまうと危ないので、僕はそれを一切、口にしないようになった。外出先でもだ。大好物を我慢する事になったが、彼女の為と思えば少しも辛くなかった。


しかし18年と8か月が過ぎ彼女はこの世を去った。しばらく、いや正直に言うと今でも呆然と過ごして、ある日僕は久しぶりにチョコアイスを食べてみる事にした。某メーカーのそこそこお高い奴を、だ。


……美味しくなかった。こんなものか。全然、嬉しくなかった。あと20年でも30年でも食べずに過ごせると思った。



話は急に変わるが、Googleフォトにはバックアップとアルバムの機能があって、写真を勝手にまとめてコラージュを作っては知らせてくれる。そこには当然、彼女専用のアルバムもあって、涙が出てしまうことを覚悟しながらいつも眺めていた。

しかしある日、気付いてしまった。食べ物ばかりを集めたアルバムにも、買った玩具を集めたアルバムにも、白黒の猫が映り込んでいるのだ。あまりにも不意打ちで覚悟ができておらず、僕はみっともないくらいに泣いた。

彼女は僕の人生のあらゆる所に、あらゆる物品の側にいたのだ。たぶん、これからも。


だからこの後もずっと、僕の人生からチョコアイスは消えたままだし、彼女は消えないでいると思う。

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― 新着の感想 ―
猫さんは今や心の、人生の一部となっているんですね どんなに時間が流れても、絆の根は強く育つと思います
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