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残念な嫉妬姫を誰か救ってくれ!

作者: スルーする

初投稿です

当作品は、pixivでも投稿しております

 ──この高校には、嫉妬姫と呼ばれる人が居る。なぜ、そう呼ばれるようになったのか・・・それは、ある事件が関係している。


 今から半年前、嫉妬姫──北条雪は、幼馴染の利根直人と言う男に恋をしていた。それはもう、たいそうご執心だったそうだ。

 そして、利根直人はというと・・・これまた幼馴染の恋城結衣という女の子に恋をしていた。

 ここまで来ればわかるだろう、そう。恋城結衣は、利根直人に恋をしていた!


 片や両思い、片や片思い・・・そんな、対比が美しいほどの失恋具合をしていた。

 傍から見れば、利根直人と恋城結衣のイチャイチャは「もう付き合っちまえよ」と、言われるであろう分かりやすさだった。それを、一番傍で見ているであろう北条雪は誰よりもわかっていた。

 そんな北条雪は多分、利根直人に対してこう言っただろう──



「そんな女じゃなくて、私だけを見てよ!」



 自分が好きな相手をそんな女呼ばわりをした北条雪に対して、利根直人は──



「そんなことを言う奴だったなんて!見損なったよ!」



 ──と、このように好感度がガタ落ちした。そんな状態では何を言っても何度謝っても火に油を注ぐようなもので、北条雪と利根直人の関係は日に日に悪くなり、それに反比例するよう恋城結衣と利根直人の関係は日に日に良くなっていっただろう。


 そんな状態に焦った北条雪は、最終手段に出ることにした。


 名付けて、恋城結衣精神的に殺そう作戦だ。


 うむ、小学生が考えたような稚拙な名前だ・・・それはどうでもいい、問題はその内容が全く稚拙ではないということだ。


 朝には机に落書きやら花瓶やらなんたらかんたら・・・

 昼の時間には弁当を捨てられて・・・

 登下校にはストーカーされ監視され、ことあるごとには難癖つけられ暴言吐かれ・・・と、そんな生活を一ヶ月程続いた。


 普通の女子高生がそんな仕打ちを受ければそれはもう心に傷を負い、学校に行かなくなるだろう・・・まぁ。強靭な肉体と精神を持っていたのなら話は別だっただろうが。


 ほぼ付き合ってる状態の彼女、恋城結衣がそんな仕打ちを受けていたのなら、流石に彼氏も黙ってはいられない。と、いうことで利根直人はいじめに関与した全ての人物に洗いざらい吐かせた結果・・・もう一人の幼馴染、北条雪の名前に行き着くではないか。


 これを知った利根直人はブチギレ、法的措置をとりにとりまくり、最終的に北条雪から慰謝料五百万円を勝ち取った。これには恋城結衣もニッコリ。

 そんな彼女とは裏腹に北条雪は泣き喚いた。が、慰謝料となると話は別でちゃんと大人しくなった。


 そして、学校にはほぼ立場をなくした北条雪は嫉妬姫と言う、不名誉なレッテルを貼られることとなったのであった──








「ふわぁ──あーっ、学校終わったぁ・・・」



 そんなストーリーを思い浮かべながら俺は荷物をまとめる。・・・想像も入ってるけど、大体合ってるだろ多分。



「おーい、裕也!この後カラオケ行こうぜー!」


「んあ?めんどいからパス〜」



 友達の言葉をラジオ感覚で聞きながら、家に帰った後の楽しみを思い浮かべる。ゲーム、ゲーム、ゲーム──ゲームのことしかないな・・・

 まぁ別にいい。俺は、充実した毎日を送れているからな!ガハハ!



「いっいやっ!やめっ、やめてよぉ!」



 そんなくだらないことを考えていた俺の頭に、私はピンチですと言わんばかりの声が廊下に響く。距離で言うと、すぐそこだろう。


 ・・・俺は、別にモテたいわけではない。が、助けた女の子にお礼と称して色々とムフフなフができるかもしれない。


 そんな少しの正義感と、下までたっぷりな下心を添えて、俺はピンクの頭で現場に向かった。


 見ると、ある一人の女子が3人の女子に封筒を取られているらしい。うーん・・・この状況じゃ、どちらが悪者かがわからない。

 なら、俺は息子の判断に任せるとしよう。頼んだぞマイサン。



「おいっ!やめろよ!どう見ても嫌がってんだろ!」



 ・・・・・・そうか、お前はこの子を助けるのか!いいと思うぜ、我ながら誇らしいよ!



「はっ?何あんた、誰?というか私たちに言ってんの?」



 うわっ、見るからにこの群れのリーダーですっ、って感じの女の子が喋りかけてきた!──うわ、落ち着けマイサン!反応するのはこの子じゃない!



「そうだよ!というか、三人で虐めて楽しいの?教えて欲しいわ!・・・なに?楽しい?うるせぇ!喋んじゃねぇよ!」


「うっ、うわっ、なに?こいつやばぁ・・・ちょ、い、いいから行こっ?危ない気配がするわ・・・」



 おいおい、俺の圧勝か?蜘蛛の子を散らすように逃げていくではないか!我が軍の勝利であるぞ!



「ふぅ、なんだったんだあの女達・・・大丈夫ですか──





 えっ、何この美少女、めちゃかわなんですけど!振り返ったら美少女がおるっ!


 黒髪のロングとか誰が嫌いなんだ?いや、いたらぶっ飛ばしてやる。しかも、このスタイル!ボンキュッボンやんけ!こんな美少女この学校にいたんか!



「あ、あのぉ・・・」


「あっ、ごめんなさい。つい考え事を・・・」


「いっ、いえっ!助けて頂いてありがとうございます!あの、どうお礼すれば・・・」



 おっ、きたっ!ここで運命の分岐点、ここで『いやぁ、そんな。お礼なんて・・・あなたの笑顔で、十分ですよっ(キラキラッ)』って、イケメン風に言っても良いんだけど、もしそれで関係が終わったらそれこそ死んでも死にきれない・・・つまり、ここは二択に見えて一択!



「お礼ですか?ふっ、そんなの、カフェを奢ってくれるだけで十分ですよぉ(ニチャァ)」


「ひっ・・・!」



 これぞまさしく、パーフェクトコミュニケーション。童貞の諸君、私は一歩先に行かせてもらうよっ。



「ところでぇ、どうですかぁ?このあと、空いてるんですけどぉ・・・(イケヴォ)」


「は、はぃぃ・・・もも、もちろん、い、行きます・・・(プルプル)」



 よし来たっ、ここまでこればあとはウイニングラン、ゴール目指して一直線よ!



「あはっ⭐︎ありがとぉ、ございますっ。・・・ところでぇ、お名前はぁ?(ネットォリ)」


「あぁ、あのっ、えっと、ほ、北条、雪ですっ・・・」


 ──んっ?


「あっ、あの、すみません、も、もう一度、お名前を・・・」


「???──あっ、北条雪って言います。あ、あのぉ・・・これでいいですか?」



 ──俺が助けた相手って、嫉妬姫かよォ・・・








 あの後、俺らは駅前のカフェに来ていた。と言っても、来るまでの会話は一切弾んでいない。そりゃそうだろ、あの噂の嫉妬姫だぜ?気まずいったらありゃしないよ・・・はぁ、こんなことならイケメン風の方でやっとけばなぁ。



「あっ、あの?大丈夫ですか?その、あれぇ?」


「──あぁ、うん、大丈夫大丈夫、かなり大丈夫」


「そ、そうですか・・・よかったです。あの、どれを頼むんですか・・・?その、あまり高いものだと私の財布が・・・・・・」


「ん?あぁ、そういや。雪さんって、慰謝料で金飛んでるんだっけ?」


「はっ、はうっ、知ってましたか・・・た、助けてくれたので、私のことを知らないと思っていました・・・」



 いや?ぜんっぜん知りませんでした?助けた後に気づきました、普通に。というか、嫉妬姫だって気づいてたら助けてなかったと思うわ。やっぱうちの息子ダメだわ・・・いやまぁスタイルはいいから、うーん。



「うん、まぁ知ってるけど──というか、噂に聞いてた子と全く印象が違うんだけど・・・」



 そう、そこがずっと気になってたんだよ俺。噂通りの子だとなんかすごい自己中というか、話を聞かなさそうで高飛車な感じだったんだけど。絶対『おーっほっほっ!』系だと思ってたわ。



「あ、そ、そうですよね。その、はぃ、反省しまして・・・」


「だった場合、反省しすぎじゃない?人格が変わってるじゃん」


「そ、その、昔の私は嫉妬でつい・・・」


「ついで済む可愛さじゃないけど?」


「うぅ、反省したんですよっ?ほんに、ほんとにほんとーに!心の底からっ!そ、それよりも、早く頼みましょう?」



 まぁ、確かに。カフェに来て何も頼まないのは冷やかしと一緒だしな・・・・・・さてっ、メニュー表メニュー表と──うーん、いまいちピンとこないなぁ、カフェとかあんまり行ったことないからわからないんだよなぁ。

 ココアとか?いやでも、カフェに来てココアはさすがにお子ちゃまか?


 そう思い、俺は前の雪さんの方を見る。



「はっ、はわわっ、ど、どれも美味しそうです・・・こ、ココアもあるんですかっ?」



 うん、アホらしくなってきた。まぁココアでいいか。美味しいし、安いし。



「雪さんは決まった?」


「はっ、はい。えっと、この、ココアがいいです」


「うん、わかった。すいません、ココアを二つください」


「えっ、貴方もココアなんですか・・・!」



 うん、そうだから。そのキラキラした目をこっちに向けないでね?君みたいな子供じゃないから。



「うん、ココアって、なんか安心する味がするか好きなんだよね」



 まぁ、これは本心で言ってることなんだけど、ココアってなんか落ち着くんだよな。いつも飲みたいって感じじゃないんだけど、久しぶりに飲むとほんっと、うまいんだよなぁ・・・あの現象に名前があるのか知らないけど。あったら是非知りたい。



「そうなんですよ!あったかくて、芯まで温めてくれるっていうか・・・と、とにかくっ、美味しいんですっ!」


「そうだね、美味しいよね」



 そう言って、目の前にいる嫉妬姫はちゅうちゅうとココアを吸っている・・・うーん、小動物感が凄いな。こんな子があの事件を起こしたとは考えられないんだけど・・・人間誰しも、闇の部分はあるってことか。

 まぁ、俺の知っているあの事件の事は又聞きでしかないし、もしかしたら違うのかもしれない・・・うん、そうと決まれば聞いてみるか。


 デリカシー?何それ美味しいの?



「ねぇ雪さん、聞きたいんだけどさ・・・あの事件ってさ、何があったの?」


「え゛っ・・・そ、それを聞くんですか──はぁ、まあいいですよ、聞かせてあげます。私が、どんなことをした人だと」



 そんでまぁ、話を聞いたら勘違いが何個かあったらしい。


 まず一つ目、俺が聞いていた虐めは大体やっていないらしい。虐め自体はやっていたが、悪口や陰口を少々。弁当だって捨ててないし、ストーカーだってしていない。


 そして二つ目、恋城結衣が思ったよりもヤバいやつだった。さっきの虐めの話に繋がるんだが、虐めの内容を大袈裟に吹聴し、一週間引き篭もることで利根直人の同情を誘ったらしい。ちなみに一週間休んだ後の学校では、ピンピンしていたらしい。


 最後に三つ目、慰謝料問題だ。利根直人もそんなに馬鹿ではなかったらしく、ちゃんと双方の話を聞いて判断したらしい。五百万円だと聞いていたが、二百万円らしい・・・うん、普通に大金だろ。



「ふーん、結構違かったんだな。まぁ、確かに今の雪さんを見ると納得は出来る」


「いや、貴方が誰から聞いたか気になるんですけど・・・私、そんな酷い事は出来ませんよ?」


「いやいや、俺の友達の友達の知り合いの情報だから。舐めてもらっちゃ困るよ」


「それ他人って言うんですよ?」



 いやしかし、慰謝料を払わないといけない事は事実だったとは。そう考えると、出会った時に持っていた封筒の中身はお金だったのか。頑張ってるなぁ・・・俺だったら夜逃げ確定だな。



「なぁ雪さん、お金ってどう準備してるの?闇バイト?」


「さっきの話聞いてました!?私そんな事しませんよ!?バイトですバイト、ちゃんと普通のやつですっ!」


「バイトねぇ・・・ウチの学校、バイト禁止じゃなかったっけ?」


「・・・あッ!ち、違います!バイトじゃなくて・・・そのぉ・・・えっとぉ・・・投資を嗜んでおります」


「いや誤魔化せないよ?というか、その見た目で投資は無理があるでしょ」


「──うぅ、私だってぇ・・・頑張ってるんですよぉ・・・」



 うわっ、ずる!女の子が泣いたら問答無用でこっちが悪く見えるじゃん!ちょ、ここ店の中だから泣くと目立って・・・



「うわっ、みて。あそこ、女の子泣かしてるわっ・・・ほんと、クズねクズっ!」


「あーやだやだ、ほんとにっ。どう言う神経したらあんなことできるのかしら!」


「・・・」



 野次馬が一番腹立つってそれ一番言われてるから。・・・うーん、見た目五十位のババア共は後で殴るとして、泣かせたのは事実だし・・・というか、俺がチクることが確定してると思われてるのが癪なんだが?流石に事情が事情だし、そんな血も涙もないことなんてできないだろ。



「雪さん雪さん、ここお店の中だから泣き止んで。ほら、俺チクらないし、協力するよ?」


「──グスッ・・・ほ、ほんとですか?ほんとのほんとに?」


「うん、ほんとのほんとだから、ね?」


「ずずっ・・・あ、ありがとうございます」



 なんか強制的に協力を取り付けられた感があるが、ままええやろ。こんな可愛い子と接点持てるって時点でお釣りが返ってくるし。

 とは言っても、協力って何をすればいいんだろ・・・金を渡すとかは流石にだし。バイト先を紹介するとか?それぐらいしか思いつかないんだけど。



「ねぇ雪さん、バイトって何してるの?」


「ば、バイトですか・・・?えっとー、コンビニと居酒屋とメイドカフェと・・・あとは──」


「いやいいや、うん。ありがとう」



 過労ってレベルじゃねぇぞ!教えはどうなってんだ教えは!

 こんだけはたらかないと返せない金額だし、仕方ないのか?いやでも・・・期限があるとは言っていなかったし、分割払いだから余裕がないわけでもないし・・・学生のうちに、払い終わりたい理由があるのか?



「なんでそんなにバイトしてるの?別に、社会人になっても返せるよね?」


「そ、それは・・・そうなん、ですけど・・・その、ですね──私、まだ直人君のことを諦めきれなくて・・・も、もしかしたらっ、学生のうちに払えればっ、わ、わんちゃんす、ある・・・かなって・・・」



 おいおい、ヤベェわこの女。未練たらたら過ぎねぇか?どんだけ頭メルヘンなんだよ。普通に考えて自分の好きな人を虐めた奴を好きになるって、利根直人が余程の変人でもない限り無理だぞ?


 ──まぁ協力するって言っちゃったし、出来る限りはやってみるか。恋のキューピット役なんて、俺が欲しいくらいなのによぉ。



「はぁ・・・まぁいいや。とりあえずは、頑張っていこうか。ちなみに、払った金額はどれくらいなの?」


「えぇっと・・・二十万円位ですっ!」


「結構返してるのか・・・それなら、ほんとに返せるかもな」


「そうですよね!うんうん、やっぱり、私は出来る子なんですっ!」



 このうるさい子は放っておいて・・・今が2年生の10月・・・卒業まで、あと一年と半年ぐらいか。長期休みもあるし、バイトを掛け持ちして・・・うん、卒業までには返せそうだな。なーんだ、協力するって言っても、何もしなくていいじゃん。


 ふむふむ、ならばこれは恩を売れる可能性が高いのか・・・協力するってことにかこつけて、デートとか・・・うむ、悪くない。むしろいい!



「──よし、わかった。これからは、俺と協力して、慰謝料を返していこうか・・・ってことで、はいこれ、連絡先」


「わぁ!ほんとにいいんですか!ありがとうございますっ!実を言うと私、男の人と連絡先を交換するの初めてなんですっ!」


「えっ?利根直人は?」


「それが何故か・・・交換しようとすると、いつもスマホが無いんですよね・・・タイミングが悪いんですよね」


「・・・」



 それちゃう、タイミングが悪いんじゃなくて脈なしや・・・

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