第6話『空に捨てる』
土手の上から見下ろす町の広場。
かつてはゴミだらけだったその場所に、今では巨大な観客席と、ひとつのリングがある。
バスケットゴールにくくりつけられた透明なゴミ箱。
名付けて――クリーンスタジアム。
アキラはトングを片手に、コートのラインを黙々と掃除していた。
やがて背後から声がした。
「お前、いつも試合前に掃除してたな。…変わってねぇな」
振り返ると、そこには神田レンがいた。
中学時代のチームメイト。アキラと違い、夢を諦めず、今も名門校でバスケを続けている。
「お前は、変わったか?」
アキラの問いに、レンは肩をすくめた。
「俺は夢を“守った”。お前は夢を“捨てた”だろ」
言葉が胸に刺さる。でも、アキラは笑った。
「捨てたんじゃない。拾い直したんだ」
レンは、アキラの隣にしゃがみ込むと、落ち葉の山から空き缶をひとつ拾い上げた。
「覚えてるか? あの試合。最後の1点、外したオレを責める代わりに……」
「俺、黙ってモップかけてたな」
ふたりは顔を見合わせて、ふっと笑った。
アキラはしゃがんだまま、ゴミ箱ゴールを見上げた。
「お前、泣いてたよな。あのとき」
「泣いてねーよ。……ちょっとだけ、汗が目に入っただけだ」
「言い訳も、変わってねぇな」
レンは空き缶を持ったまま立ち上がった。
助走をつけて、軽やかに跳び上がる――まるで、昔のように。
そして、透明なゴミ箱にシュート。
カコーン、と軽い音が響き、観客席にいた子どもたちが拍手を送る。
アキラも、落ちていたペットボトルを手に取った。
指でくるりと回しながら、目を細める。
「ここ、掃除してるとさ、みんなが見えるんだよ。昔、試合してた仲間とか、応援してくれた家族とか……」
「お前の父ちゃん、怖かったよな。『バスケなんて将来にならん!』って」
「でも今は……毎朝、こっそり俺の動画に“いいね”押してるらしい」
レンは吹き出した。
「チャンネル登録もしてたりしてな」
ふたりはまた笑った。
そのままアキラが、助走をとってシュート。
ペットボトルがふわりと宙を舞い、きれいにリングを通った。
夕焼けがコートを金色に染めていく。
町の人々が少しずつ集まり始め、誰かがベンチに腰かけながら言った。
「バスケって、こんなにあったかいもんだったんだなぁ…」
アキラは空を見上げた。
雲の向こうに、もうひとつの“リング”があるような気がした。
昔、ずっと追いかけていた、手の届かなかった何かが――今は、ちゃんとここにある。
「夢ってさ……ゴミみたいに扱われても、拾い直せば、また跳べるんだよな」
その言葉に、レンが頷いた。
「なら、もう一回。…一緒に跳ぼうぜ、アキラ」
次のシュートは、ふたり同時だった。
缶と紙と――そして、過去の後悔が、空へと舞った。