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ダンク・ザ・ダスト!  作者: やしゅまる
3/6

第3話『拾う人の、理由』

朝焼けに染まる商店街の通り。

 まだ人影もまばらな時間、アキラは一人で歩いていた。


 背中にはトングとゴミ袋。

 スニーカーの音が、静かなアスファルトに小さく響く。


 「空き缶……あと、タバコの吸い殻……」


 目線を落とし、しゃがみこむ。

 膝はまだ痛むが、かまわなかった。ゴールに決めるためには、まず拾わなきゃ始まらない。


 昨日は“#CleanDunk”の再生回数が1000万を越えた。

 SNSでは知らない誰かが「これ、日本発らしい」「映画化しようぜ」と騒いでいる。

 でも、アキラにとっては、今日も町を歩くだけの朝だった。


 ――その背中を、ひとりの男が遠くから見つめていた。


 アキラの父、嶺井浩一。

 スーツ姿。仕事前に、こっそり商店街に立ち寄っていた。


 「……まさか、ほんとにやってるとはな」


 離れていても、それが自分の息子だとすぐに分かった。

 背丈と姿勢。黙々とゴミを拾う姿勢に、あの日のアキラの面影が重なる。


 「あの時、止めなきゃよかったんだよな……」


 父は、かつてこう言った。


 「怪我したんだからバスケやめて、勉強しろ」


 それは正論だった。

 怪我をして落ち込んで成績も下がった、それでも部活を諦めない息子を見て、つい言ってしまった。


 「夢なんか追っても、食っていけないんだよ」


 アキラは黙って、自室にこもった。

 あの日から、ほとんど会話はなかった。


 だが今、目の前で――

 息子は“夢なんかじゃないこと”に、全力を注いでいた。


 ゴミを拾って、

 ゴールに向かって、

 「町をきれいにする」ことを、

 まるでプレイするように楽しんでいた。


 周囲の人々も、気づけば見ている。

 八百屋の親父が「アキラ、今日もありがとよ!」と笑い、

 通りすがりの主婦が「うちの子もまねしてるの」と微笑む。


 父は、不意に胸が熱くなるのを感じた。


 「……なんで、止めちまったんだろうな」


 自分が守ってやれると、思い込んでいた。

 それが、夢を折る言葉になった。

 だがアキラは、折れていなかった。形を変えて、立ち上がっていた。


 その時だった。

 アキラがふと顔を上げ、父の方を見た。


 「あれ……? 父さん?」


 バレたか、と思いながらも、父は笑って手を挙げた。


 「……ちょっとな。通りかかっただけだ」


 アキラも、照れくさそうに笑った。


 「……じゃあ、ちょうどいいや。ゴミ、一本決めてって」


 父の手に、アキラがペットボトルを渡す。


 「え、いや……俺は別に……」


 「トング貸すから。フォームはテキトーでいいよ」


 父は仕方なく受け取って、少しだけ構えた。

 腕はぎこちなく、狙いもズレていた。


 でも、アキラは言った。


 「決めたら、町がちょっとだけ良くなる」


 父は、小さくうなずいた。

 そして――投げた。


 シュッ。

 袋に、静かに吸い込まれる。


 周囲から、小さな拍手が起きた。

 アキラが笑った。父も、笑った。


 「……ごめんな、アキラ」


 それは、父が初めて口にした謝罪だった。

 そして、息子の“プレイ”を初めて認めた瞬間でもあった。


 「いいよ。こっちのほうが、得意だったし」


 太陽が商店街の上に昇っていく。

 今日もアキラは、町を歩く。

 父はその背中を、誇らしげに見守っていた。


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