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 前書いておりそれなりに読まれたっぽい作品が一つだけあり、それは暫く停止してしまっているのですが、かわりにこれを書こうと思います。

 百合・過剰な執着心・聞きかじり貴族文化などを含みます。

 突然だが、私には前世の記憶がある。


 生後半年で喋れるようになり、両親はすわ天才児かと喜んだというが、おそらくその頃から徐々に記憶が思い出されていったように思う。


 しかし、六歳くらいから新たな記憶が想起されることもなく、私は自我の目覚めがちょっとだけ早い秀才のヒト種として周囲に認知されるようになる。


 また、知るはずのない知識を持っていることも度々バレた。


 例えば私は、古代・創世神話の暗部である『世界規模の嵐を起こしたとされる、狂った神』の子孫が今も魔種として生きていることを知っていた。が、それを口に出したところ「他の子の教育に悪いから」とあやうく隔離されかけた。結局は子供の妄想だと思ってもらえて事なきを得たのだった。あの時質問した教師の顔色の変わりようはヤバかった。


 そう、この世界には二種類の種が存在している。


 『ヒト種』と『魔種』。


 かたや数は多いが簡単な魔法しか使えず、かたや希少だが多彩で強力な魔法を操る。魔種は貴族であり、その上、頭の回転も速いというのだから、憧れもする。私も小さい頃はそれはそれはあこがれたものだった。しかし、私の前世知識だと、ヒト種から魔種になる方法があった気がする。そう言うと、母は決まって私を窘めたものだ。


「アーちゃん、あのね、ヒト種は魔種になれないし、魔種と夫婦にもなれないんだよ」


 二種は交雑できない完全な別種であることを丁寧に説明された。そもそも、魔種とは話すことすら稀らしい。アーちゃんとは私アイリスの愛称である。なお、母にはそう呼ぶのを早く辞めて欲しかった。


 しかし、そんな魔種と関わる貴重な機会が得られ、私は一も二もなく承諾した。


 それは、貴族の家のメイドの仕事だった。私は今、16歳になる。



 隣町の隣町へ。馬車で連れていかれたお屋敷は、ずいぶんと立派なものだった。町の防壁よりも数倍も高い位置に窓が、屋根がある。そう、ここは城だった。


 そして、古かった。


 私の他にも新人メイドがひとりおり、ビアンカと名乗った彼女が言うには、この屋敷は大きすぎて傍流の下級貴族が数家族居候しているが、ひとり、いつからいるのかわからない魔種貴族のお嬢様がお住まいになられているらしい。


「お城に住むお嬢様ですね」

「お城って…まあ、初めて見ると、そう思うよな」

ビアンカはクールでラフな感じだ。由緒正しいお嬢様の教育に悪いのではないだろうか?

「っていうか、いつからいるのかわからないって、親は?」

「親の話は聞かねーな。てか、魔種は長生きだろ?」

「二百年生きている大貴族は有名ですよね」

「それじゃきかないらしい。眉唾だが、創世神話のころからって話があるくらいだぜ」


 ここで、私が創世神話頃の記憶があるって言ったら、ビアンカはなんて答えるんだろう。そんなことを考える私を乗せて、馬車は重々しい門をくぐった。



「お嬢様のところにご案内します」


もとから働くメイドさんがそう言ってからもう十分は経った。廊下は長く入り組んでいる。もう迷った…。


「お嬢様は、どんな方なのですか?」

「お嬢様は、一言でいえば箱入り娘ですね。それに…ええと、あなた方が正式に働くことになったら、話すことがあります」


 メイドさんの様子は好奇心と恐怖が混ざったようなものだったので、私は不思議に思ってビアンカと目くばせする。何やら秘密がありそうだ。


「この先にお嬢様がいらっしゃいます」


 私もビアンカも緊張で息をのむ。魔種と実際に会うのは初めてだ。


 扉が開いて…お嬢様の背中が目に映る。


 刹那、私の脳裏に今まで知らなかった前世の記憶がきらめく。なんだろう、これは、とても悲しかった、別れ……?


「はじめまして、ビアンカと申します」

「アイリスと申します」


 夢見心地で自己紹介をする。


「ビアンカさん、それにしょう…いえ、アイリスさん。この屋敷に遠路はるばるようこそ。わたくしが、この屋敷の主。ジュリエット・クリューゲルですわ」


 伝承通りの魔種特有の黒い瞳。ようやく出会ったお嬢様は、なぜか、泣いているように見えた。

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