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ベランダには煙草とワンカップと隣人

作者: 川端柳

 仕事の後、アパートのベランダで一人ワンカップ片手に煙草を吸うのが私の日課。一日頑張った私へのご褒美。星空の下、傾ける酒は最高だ。


 夜闇に煙草の煙を吐き出していると、隣から私と違う煙草の匂いがしてきた。

「こんばんは」

「こんばんは。お仕事お疲れ様です」

「岡野さんこそ、お疲れ様です」

 数か月前に隣の部屋へ岡野さんが引っ越してきてから、こうしてベランダのパーテーション越しに挨拶するのが夜の新たな日課になっている。

 互いの部屋を行き来しているとか、そんなこともない。ただのお隣さんで、白い板一枚隔てた夜のベランダで少しおしゃべりをする。それだけの関係。別に大した話をする訳じゃない。

「最近急に冷えてきましたね」

「そうですね。流石に羽毛布団出しました」

「ですよね。俺、今日遂にコート出しました」

「私も慌てて衣替えしてます。少し前まで夏日近い気温だったから全然冬服出してなくって」

「分かります。ヒートテックどこにしまい込んだのか、さっきまで探してました」

「見つかりました?」

「なんとか」

「あ、マフラーどこしまってたっけ?」

「大捜索しないとだ」

「ですね」

 どちらかの煙草が尽きるのが終わりの合図。

 今日は私だった。

「私、そろそろ」

「そうですか。おやすみなさい」

「おやすみなさい」

 部屋に入ると、エアコンで温まっている筈の室内なのに、どこか寒く感じた。

 明日も仕事がある。今日はもう寝よう。


 次の日の夜。ベランダに先に出ていたのは岡野さんの方だった。

「あ、新藤さん、こんばんは。お仕事お疲れ様です」

「こんばんは。お疲れ様です」

 ワンカップを開け、煙草に火を点ける。

「そうだ今日、流星群見えるらしいですよ」

「そうなんですか?」

「えっと、何時だったかな」

 岡野さんが煙草を口に咥えたままスマホで検索し始める。

「あぁ、九時半頃がピークだそうです」

「じゃあ、もうすぐですね」

「ピーク時間前だとしても、もう流れてるはずなんですけどね」

 彼は手すりに凭れ、夜空に向かって少しだけ身を乗り出す。私もワンカップを傾けながら空に目をやる。

「あ」

 光が横切り、二人同時に声を上げた。

「見ました?」

「見ました」

「都会でも見えるもんなんですね」

「ですね」

 顔を見合わせ笑う。なんだか少し照れくさい。

 隣から百円ライターのヤスリが回る音がする。

「二本目ですか? 珍しいですね」

「えぇ。もう少し見ていたくて」

 この時間が終わらないでほしいと思ったのは、私も同じだった。

お読みいただきありがとうございます。


こんな生活してみたいな、と思う寂しい人間です、自分は。

アパートやマンションで暮らしていて、隣人と会話を交わしたことがある人はどれほどいるでしょうか。

この二人のように親しくなれているのは果たしてその中の何割なのか。


それでは皆様、良いお年をお迎えください。

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