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~前編~

 その夕焼けはどんな夕焼けよりも憂鬱な感じがした。



 でも、1つの結論がでた。



 陽が沈み、町の明りが夜の川を照らす。



 僕の胸の奥にはメラメラと熱い炎が燃え(たぎ)る。



 そして心のメモ帳をそっと書き換えるのだ。




 さっきまで彼とみていた夕焼けって実はどんな夕焼けよりも美しかったのかもしれない――




「ずっと……ずっと……好きでした!!」



 1年生から2年生にあがったその春に、僕は息を呑みながら万感の勇気をだした。



「僕と付き合ってください!!」




 瀬戸内歌恋。彼女と接近したのは中学3年生の時の事だ。小学生の頃から超絶根暗でクラスに馴染めない僕をいつも彼女は気にかけてくれた。



 修学旅行では自由行動で安定のボッチになる僕の手を彼女の手が遠慮なく優しく包んで楽しい思い出作りへとエスコートしてくれた。



 彼女もとてもおとなしい女子だ。ハッキリ言えば暗い感じの女子で間違いないのかもしれない。だけどクラスじゃ「いいひと」と評判がよくって、生徒会を3年務めあげるほどの優等生だ。



 そんな彼女が誰に対しても不愛想になっちゃうこの僕を不思議なぐらいまでに優しく護ってくれた。



 そんな日々が続くなかで僕は……



 ただの友達以上になりたいと強く思い……




 そう、恋の文字を持つこの子に恋をしたのだ。




 彼女と一緒にいたい。そう思っただけで無気力だった毎日がピンクに色づく。



 今までが嘘のように勉強や運動等に打ち込む僕自身に驚きつつ、3年生になって入ったサッカー部では異例の遅咲きエースとしてレギュラー抜擢。勉強だってテストの成績があの瀬戸内さんを抜いてクラストップを記録し続けるまでになった。




 そして僕は彼女と同じ進学校に入学する。



 さらに何の運命か1年生からクラスは彼女と同じだ。彼女も僕の手をとってくれ喜んでくれた。



 日に日に綺麗に可愛くなってゆく瀬戸内さん。そして募っていく僕の想い。




 1年生から2年生にあがったその春に、僕は息を呑みながらその勇気をだした。



「ごめんなさい。木下くん、私、中学生の頃から彼氏がいるの……」

「えっ!?」

「でも、気持ちは嬉しかったよ。ありがとう」



 春の夕焼けに染まる河川敷のベンチ。僕の青春に絶望の黒がドカンと堕ちた。



「ぼ、ぼ、ぼ、僕は瀬戸内さんと一緒に居たいと思って、この学校を受験して。だけど、だけども、まさかの展開すぎて……!」

「本当にごめん。でも木下君は私の彼となんか同じような雰囲気を持っていてね、友達になりたいなって素直に思ったの。そういう意味で私は木下君が大好きよ」



 そうなのか。そうだったのか。ならば。



「じゃあ……これからも友達でいさせてください」

「うん! よろこんで!」



 笑顔で彼女が僕の手をとる。友情の握手ってヤツだ。




 2年生でも僕と彼女は同じクラスになる。だけど僕は彼女の彼氏がどうしても気になって、いつしか彼女とは距離を置くようになった。それを向こうも特段気にしてなんかなかった。



 ただ友達でいたいとは思ってくれているのだろう。僕の事を気にかけてくれるメールはどんなに離れた存在になっても3年生になるまで週1で送ってくれた。



「はぁ……」

「んだよ、こんな綺麗な夕焼けを見ながらも溜息をつくなんてさ」

「宮内さんはいいよね。いつも楽しそうでさ」

「んだよ、悩みかなんかあるの? 聞いてやってもいいけど?」



 高校に入って僕はサッカー部ではなく放送部に入った。いやサッカー部に入るのは入ったが全国大会に行くことのできるその層の厚さで僕のレベルは下手くそだと実感せざるえないものだ。入部から半年して僕は迷わず退部届をだした。



 その翌週に放送部からのスカウトを受ける。



 そのスカウトをしてくれたのが同学年の宮内さんだ。



 彼女はその……可愛い女子っていう可愛い女子なんかではない。本人も自覚をしているのか、将来の夢は「お笑い芸人」だという。



 僕を放送部にスカウトしたのは1年で生徒会に入った瀬戸内さんが僕のことを心配して、彼女の友人でもある宮内さんに放送部に誘ってみてはどうかと言ったからだ。



 ちなみに我が校の放送部は僕の学年で男子1名と女子2名の計3名。そりゃスカウトにも力が入る事だろう。ちなみにもう1人の女子とは生徒会と3つの部活を掛け持ちする瀬戸内さん。



 僕はすっかり宮内さんと仲良くなったが、瀬戸内さんみたいに恋しちゃう事などなかった。僕には友達なんていないけど、多分男友達ってこういう感じなのかと思うような存在だ。コレを聞いたら、どういう女子かそこのアナタもきっとご理解いただけると思う。



 そして彼女と僕は近所だったことものちに判明した。部活が終わると自転車を並べて共に帰宅した。たまにはベンチに座って夕焼けを眺めながら、どうでもいい事をゲラゲラ話し合ったりした。彼女はお笑い芸人を真剣に目指しているだけあって、お笑いの話ならいっぱいしてくれる。それまで興味などなかったその分野にちょっと興味を持つキッカケにはなっていた。



 そう、そしてこのベンチは僕が瀬戸内さんに告白した思い出の場所――




 ある日、気がつけば僕は宮内さんに瀬戸内さんに告白した事を打ち明けた。



「そっかぁ! ふられたのね! ウハハハハッ!」

「宮内さんも僕を笑うのか」

「いや、カレチンは思わせぶりなのよ。八方美人のコというかね。多分カレチンに同じ感じでアタックしたのは木下だけじゃないと思うぞ?」

「そんなにモテモテなのか?」

「木下は周りを見てなさすぎだ。木下じゃない男子にもカレチンは優しくしているしさ、メールも送ったりしてPRしまくりよ」

「男たらしには見えないけどなぁ。中学生の時はどちらかと言うと暗かったし」

「木下はさ、カレチンの将来の夢とか知ってる?」

「えっ? いや? ないけど……」

「政治家だよ。これカレチンのお友達なら常識だよ? まずはそこから知らないと」

「そっかぁ。全く知らなかったなぁ」

「ねぇ、木下は何になりたいのさ?」

「特に何も……」

「じゃあアタシとコンビを組もうよ」

「えっ」

「お笑いコンビ! やってみよう!」



 宮内さんの笑顔がとっても眩しかった。その眩しさに逆らえなかった僕は思いもよらない彼女の告白にすぐに快く応じていた――




 僕と宮内さんの漫才コンビ「ウル虎きのこ」は昼休憩の放送部の放送で披露された。賛否両論の評価があったそうだが、僕たちの事をよく知ってくれている人達は「笑え過ぎてお腹が痛かった」と言ってくれた。



 これを機に放送部に入部してくれる人がいるかと期待したが、まったくそんな事はなかった。ウル虎きのこは学園祭のステージでも活躍したりで遂に漫才王になろうGPの予選に挑む事となる。



 それがよくなかった。



 当たり前と言えば当たり前だが予選1回戦での敗退。客も全く笑ってくれない。むしろ溜息が聴こえる事すらあった。



 舞台袖に下がって、僕は宮内さんに胸座を掴まれ散々言われた。



「噛み過ぎだろうが! 声も小さかったぞ! ボケ! あんな悲惨な漫才なんかして恥ずかしいとも思わないのか!」

「だってあんな沢山の人の前でやるのはさすがに緊張が……」

「お前のせいでアタシの夢が崩れそうだって言っているの!! このクソバカタレのアホンダラァ!!!」



 僕はそれから泣いてしまった。心配した大人の人が僕たちの間に入ってくれたけど、僕と宮内さんの間に亀裂が入ったのは確かだった――




 そして宮内さんは放送部を退部した。



 風の便りで僕じゃあない相方をみつけて漫才を続けていると聞く。



 僕は放送部に残った。



 そしてもうお笑いなんかに関わってやるものかと強く誓った――





(´;ω;`)うううぅぅぅああああああああああああああああああああああああああああ!!!くやじいいいいぃぃぃいいいぃぃぃいいいいいいいいいいいいいい!!!家紋武範さんの「夕焼け企画」に間に合わなかった。合掌。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 「ウル虎きのこ」が脳内で「きのこヨーグルト」に変換されて大笑い。(そんなのアンタだけや! って声が聞こえる) [一言] 流行の「モテない君がなぜかモテる」系かと思えば容赦なく失恋するあたり…
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