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第8話 兵士長

アザゼルがメモ用紙を見ながら、ちまちまと寮へ行くための石版に数字を打っている。


「まだぁ? いつも、来てるのに」


ルルはため息をついて、アザゼルを睨みつけた。


「待てって。こういうの覚えるの苦手なんだよ! 知ってるだろ?」


「というか、いつも打つの私じゃん」


「後輩の前では、カッコつけたいだろうが」


「あぁ......」


ルルはアザゼルの微塵も格好がついていない姿に呆れ返る。


「ジーーーーー」


オノバーは早くしてというように、ルルに視線を向ける。


「その後輩が退屈そうな目で、こっち見てるんだけど?」


「うるせぇな......おっ、行けたぞ!」


それと同時に三人は転移する。


「オノバー! ここが合同訓練場だ!」


そこは全体的に灰色がかった部屋で兵士たちが竹刀を藁人形に打ち付けていたり、魔法を的に向かって放っていたり、試合形式で訓練している者まで居た。


「意外と小さいんですね.......」


オノバーは悪気なく、毒づいた。


「それ、タブー......」


ルルが小言を挟む。


「まぁ、元気出せよ。な?」


「はぁ......分かりました。でも、次は俺がやりますから」


「お、おう」


その圧に気圧されたアザゼルは後ずさりし、


「アザゼル、うしろ!」


「え?」


ルルの注意も虚しく、後ろにいる人とぶつかった。

衝撃でガシャという音が鳴った。


「おっと、すんませ......」


ぶつかった武士風の男が、刀を鞘から一瞬にして引き抜き、軽く謝ろうとした彼の首に刃を当てた。


「「「ッ!?」」」


(敵か!?)


オノバーは鈍った感覚を研ぎ澄まし、拳を構えた。


「なんだ、アザゼルか」


男はすぐに刀を収めた。

それを確認すると、オノバーも拳を引っ込めた。


「リュウライ......兵士長」


アザゼルは先程の冷たい感触に震え上がったのか、言葉を出そうにも口ごもり、上手く言えなかった。


「ガッハッハッ、そうかたくなるな! お前らしくもない! そういや、スミスはどうした?」


「なんか他の奴らと任務らしいですよ」


「珍しいこともあるもんだなぁ」


リュウライは後ろのオノバーへ目をやった。


「で、お前だな。噂の新人ってのは」


「え?」


本人はよく分かっておらず、首を傾げた。


「「ん?」」


ルル達も同様に頭にハテナマークを浮かべる。


「知らねぇのか? まぁいいや。用があるのは、その新人だし、説明はしなくていいな」


「なんでだよ」


「え、俺ですか?」


オノバーは驚きの声を漏らす。


「そうだ。そして、単刀直入に言おう。お前と闘いたい!!! 猛烈に!!!」


リュウライに押しかけられた、オノバーが口を開こうとした......その時。


「うちの隊員に何してくれてんのかなぁ?」


彼らの後ろにいた青年の男が声をかける。


「「やべっ......」」


リュウライは咄嗟に目を逸らし、アザゼルはそーっとその場から離れようとした。


「ルルも行くぞ......!」


「うん......!」


そして、二人はそそくさと石版の方へ向かっていく。


「いや、ビエル。何かの誤解だ。俺は訓練場の案内をしようと......」


「誤解などしてないが? そう自ら喋るってことはやましいことでもあるんだろう?」


ビエルと呼ばれた男は、彼の心を見透かしたように言葉を放っていく。


「えぇとだな......」


なんとかこの状況を抜けようと必死に頭の中で言い訳を考えていたリュウライであったが、


「俺と闘いたいって言ってましたよ」


その一言で全てが崩れ去った。


「おい!!!」


リュウライは声を荒ららげたが、横からのおぞましい覇気を感じ、身を強ばらせた。


「何ヶ月も過ごしてる野郎ならともかく、許可なく新人は貸せねぇ、それが俺とのルールだったよなぁ? 分かってんだろ?」


(どうなるかと思ったけど、まともな人っぽくて良かった)


「じゃあ、この新人を訓練させてはくれないでしょうか......? ......OK?」


「当たり前じゃねぇか......ダメに決まってんだろぉ!」


ビエルはリュウライに飛び蹴りを食らわす。

衝撃で彼は、地面に倒れ込む。


(まともじゃなかった......)


「そうやって、いっつもお見合いしてるが、いつか地面と結婚すんじゃねぇぞ」


「お前のせいだからな!?」


怒るリュウライ。


「ソウナンデスカー、ソレハタイヘンヨカッタデス」


その怒りをカタコトで返すビエル。

そんなやりとりを終えた彼は石版へ向かう。


ビエルは縮こまる灰色の毛をした獣人と鍛冶師の息子を、ひょいとつまみ上げた。


「離して!!!」


「お前らもダメだぞ。新人は、最初に小隊専用の訓練場に連れていかねぇと」


「でも、スミスがいないし寂しいだもん」


ルルの顔は期限を損ねたのか、ふくれっ面になっていた。


「なら、自分たちのとこ行けば良かったんじゃ......」


「「うっ......」」


可愛い後輩に正論を言われたルルとアザゼルはショックを受けた。


ビエルが手を離すと、二人はその場に座り込んだ。


「よぅし! 新人行くぞ」


「あ、はい!」


彼らを横目にオノバーは兵士長の方へ駆け抜けた。


------戦闘七番部隊専用訓練場にて。


「おい、お前ら!」


訓練をしていた兵士たちは一斉に兵士長を見る。


「俺の部隊に新たな兵士が加わる! 前に出ろ!」


呼ばれた新人がビエルの横に立つ。


「コイツはオノバー・ウィネー・レイク! 男だ!」


「よろしくお願いします!」


挨拶と同時に彼はお辞儀をした。


しかし、七番部隊の兵士たちはオノバーの挨拶が終わると、自分の訓練に戻っていった。


(空気間、悪ッ!)


「すまんなぁ、コイツらはノルマをいち早く達成したいんだ」


「ノルマ?」

「打ち込み1000回、(もも)上げ1000回、腕立て1000回、対戦10回......」


(えげつない訓練量だ......)


前世含め30年、訓練していない男はそう思った。


「そして、俺との対戦1回......新入りのノルマはこれだけだ」


そういうとオノバーに向け、木刀を軽く投げた。

オノバーはそれを受け取った。


「構えろ」


覇気のかかったその声は訓練場全体を威圧し、覇気を浴びた兵士たちはこちらを見ることだろう。

表情には哀れみが帯びていた。


ビエルは突きを放つような構えでオノバーを待つ。


「はい!」


オノバーは木刀を構えた。


「じゃあ、行くぞ。雷速(らいそく)......斬り!!!」


ビエルは一歩を踏み出すと、そのまま勢いを上げ、攻撃を仕掛ける。


(速いッ!)


それは雷の如く、速かった。

オノバーは反応し、木刀を振り下ろす。

しかし、相手は左の方へ避け、刃をオノバーの肩に思いっきり当てた。

衝撃により、オノバーは壁へ吹っ飛ばされた。


「ちょっ......兵士長! 流石に......」


「安心しろ。()()()が俺の所にいれた野郎だ。こんなんで倒れねぇよ......多分」


青髪の青年が「やりすぎですよ」と言い終わる前にビエルは口を挟んだ。


「っと!」


オノバーはTのポーズで立ち上がると、体に付いた汚れを払った。


「ほらな!」


「ほっ」


特に怪我をしているところは無さそうで青年は安堵する。


「というか、俺の部下なんだから、どんなに怪我させてもいいだろ」


「それは暴論すぎますよ」


「ちっ」


ビエルは舌打ちを繰り出し、オノバーへ向かう。


「オノバー、お前。俺の攻撃をどう見切った?」


「正面に向かってきてるのが見えて、振り下ろしただけですよ」


「やっぱ、見えてんのか......まぁいいや」


そして、またリュウライのところへ戻っていく。


すると、一人の兵士がオノバーの肩を軽く叩いた。


「お前すげぇな! 俺たちなんかが行っても、手刀で一撃KOされるのに......」


「そうなんですか......」


「さっきの受け身、どうやったんだ!?」

今度はぽっちゃりとした兵士が話しかける。

「あの一撃どうだった?」

今度は背の高い兵士が。

「良かったら、俺と闘ってくれないか!」

「じゃあ、その次さ、俺でいい?」

「ま〜た、天才が......」

と様々な兵士がオノバーを囲んでいた。








戦士の国ズリャオはドゥースターと同盟を結んでいる国の一つ。

兵は数より質を重視しており一人一人、礼儀正しい。

そしてズリャオの戦士は肩に赤い龍のマークが描かれている。



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