第6話 任務
「まぁいいや。今日は任務あるんだろ? オノバーはどうするんだ?」
(えっ、それは聞いてない)
オノバーは痛い腰を叩きながら、椅子へ座った。
「このタイミングで入ってくるとは思わなかったから、想定外の人員だけど、一応ついてきてもらおうか。オノバー君もそれでいい?」
料理しながら、スミスはオノバーに聞く。
「大丈夫ですよ。一応聞きますけど、どんな任務なんですか?」
「えぇと確か、ガルグラ森林にいるグリーンゴブリンの掃討だったかな。そのゴブリン達のせいで野草とかが採取できないって話だったよ」
ゴブリン。
それは知底族と呼ばれる二足歩行の魔物であり、その名の通り知能がめっぽう低いことで知られている。
形は人間に近い、鼻が大きいことが特徴。
皮膚は緑、黄、青、紫などの多彩な色を持ち、色によって強さが異なる......
彼らが討伐するグリーンゴブリンはゴブリンの中で最も弱く、体格も比較的小さいため、任務は普段、市民兵に頼むことが多い。
「十級二人と九級一人が揃っているところに出すってことは数が少ないんですかね」
「それが、僕達だけじゃないんだよね。他の寮の人達もこの任務に参加するらしい。合計で七寮だったかな」
スミスは指で数える。
「かなりの規模では?」
「こんな時期に横断しようとするとは思えないし、滞在期間が長すぎる。何かあるのかもね」
「たまに知能が高いゴブリンとかいますよね。まぁ、上位種じゃないことを願うばかりですが」
「いや、その点は『面奇団』から聞いたけど、魔力量的に上位種がいる気配は無かったらしいよ」
(面奇団って確か、ドゥースターの部隊別組織だったよな)
「ルル、俺たちが参加出来ないタイプの会話だ。じっとしてよう」
アザゼルがルルの左肩に手で触れ、一緒に座り込んだ。
「うん、そうだね......」
ルルは三角座りでアザゼルはあぐらで待機する。
「......よし。オノバー君には僕達の陣形を教えといたから、もう行けるよ」
「んがっ? ......もう終わったのか、行くぞ!」
アザゼルは眠りこけそうなところを踏ん張り、顔を叩くと立ち上がった。
「「「「行くぞ〜〜〜!」」」」
------ガルグラ森林にて。
オノバーらは革の軽装備を着用し、腰元の鞘には長剣を入れ、任務の準備を完了していた。
「う〜ん! やっぱり、森は気持ちいい!」
ルルは背伸びと深呼吸を同時に行った。
「そうだね」
スミスも準備体操をして、緊張を和らげる。
「この奥にいるんだよな? それにしては人気が無さすぎるんじゃないか?」
アザゼルはというと、木の上に登り、サンドイッチを食べていた。
盗み食いだ。
「じー」
オノバーは木の上にいるアザゼルをじっと見つめた。
それに気がついた彼はサンドイッチを急いで食べて、下へ降りた。
「この感じだと、他寮の人はもう自分達の持ち場に行ってるみたいだね。取りこぼしがないよう、僕らも少し急ごうか」
「「おう!」」「はい」
皆は森の奥へと駆け出す。
「そういや、私たちの担当場所ってどこなの?」
「細かく記載されてなかったから、全域だと思うよ」
「は!? 頭、イカれてるんじゃねぇのか!!!」
「全域っていっても僕達の仕事は取りこぼしの排除。そこまでの仕事量は無いよ。ただ.....」
草むらから音が聞こえる。
「ガゥゥゥゥ......ウラァァァァァァァ!」
そこから、現れたのはグリーンゴブリンであった。
「チッ」
判断が早かった。
アザゼルが斧でゴブリンを一刀両断にする。
「ただ.....なんだ?」
紫色の血を浴びた彼はスミスの途切れた言葉を聞き直す。
「ゴブリンの死体が無さすぎることと、他の音や声が一切聞こえないことが気がかりかな」
「そもそもなんで、他寮は俺たちを待たなかったんでしょうか」
純粋な疑問をオノバーはぶつける。
「アザゼルとルルってかなりの問題児だからさ。その2人と任務するのをよく思わなかったんだろう」
「あ〜、なるほど」
「おい! オノバー! それは酷いぞ!」
「私たち、問題児じゃないもん!」
声を荒らげて、ルルはオノバーを睨みつける。
「おっと......」
ルルが何かに気付くと、一同は足を止めた。
「おいおい、マジかよ......!」
アザゼルは斧を肩に担ぎ、楽しそうな笑顔を出す。
「ケヒヒッ」
そこにはグリーンゴブリンが一匹。
しかし、そのゴブリンは中側は白色。外側には金色の弧を描く、まるで騎士のような鎧と兜を身につけ、腰には高そうな剣を携わえていた。
無闇に近づくと、今すぐにでも斬りかかってきそうだ。
「これを相手しながら、ゴブリン軍団も対処しないといけないとなると、結構、賢いな!」
「ケッヒヒヒ。ガゴゲェガギコ」
その声とともに大量のゴブリンが顔を覗く。
「すまないけど、オノバー君は周りにいる敵を頼む。凌いでくれればそれでいい。僕たちはあのリーダー格を仕留める」
「了解」
彼は一切の感情を顕さずに返事をする。
(見た感じ、アイツの強さは八級の中ぐらいだろう。九級とはかなりの差があるし、ましてや十級では対処出来ない。いざとなったら俺が出るしか......!)
オノバーはそう考えつつ、取り巻きのグリーンゴブリンに刃を向けて、一気に狩っていく。
ゴミを見るような目で。
一方。
スミスらの方では、騎士ゴブリンがルルに刃を向け、攻撃を仕掛けていた。
それを防ごうとスミスはルルの前に出ると、手を前に突き出し、その周りに円状の結界を張った。
騎士ゴブリンはその結界を割ろうと剣を放つが、結界はヒビを入れることすら、許さなかった。
「ゲッ!?」
動きが止まった一瞬を狙い目にアザゼルが斧を大きく横に振った。
それをモロに食らった騎士ゴブリンは吹っ飛ばされ、地面に倒れ込む。
何故か、騎士ゴブリンは立たない。
自分の息が整うまで待つつもりだ。
しかし、早く立てと言わんばかりにルルが腹に蹴りを入れ、騎士ゴブリンを上空に上げた。
「ルル!」
「分かってる!」
ルルは両脚をピンと上げ、足を地面のように平らにする。
アザゼルはそれに合わせ、足の上に飛び込む。
彼の両足が乗った時、ルルは脚をバネのように引き、突き上げた。
騎士ゴブリンより上についたアザゼルは斧を振りかむり、ルルの蹴りで傷ついた部分に被せ、重い攻撃をかます。
その衝撃で地面に叩きつけられ、騎士ゴブリンは立つことすらままならなくなった。
「ゲギゴーガアグゲギゴ」
ピュ〜〜〜!
騎士ゴブリンは周りの仲間を呼び寄せるように口笛を吹く......が、一匹も来ることは無かった。
それを不思議がった騎士ゴブリンは辺りを見渡した。
「ギギギ......!」
あるところに目をやると、驚いた表情を見せた。
そこには、同胞の屍が転がっている光景があった。
(三人を援護しにいくか)
オノバーは仕事を終え、三人の方へ向かおうとした。
三人も相手の様子を妙に思い、騎士ゴブリンと同じ方を向く。
途端、両者は目が合う。
(あれ。あのゴブリン、もうボロボロなんだけど......怖)
オノバーは呆然とする。
(どうやったら、あの数を一人で倒せるんだろう......怖)
スミスは彼の防具や剣などを見ながら、そう思う。
「ゲガアグ......!」
騎士ゴブリンはカチャカチャと金属音とともに背中を見せ、逃げた。
それを逃すはずがない。
彼女は左から周り、騎士ゴブリンの前に出て、進行を邪魔した。
しかし、窮鼠猫を噛むというのはこのことなのだろう。
高そうな剣から、強力な一太刀が放たれる。
その一太刀は攻撃の邪魔をする木を砕き、勢いが止まることなく、ルルの方へ向かう。
「アザゼル!」
ルルはそう呼びかけた。
「もうやってる!」
アザゼルは自分が持っていた斧をぶん投げた。
投げられた斧は騎士ゴブリンを目指し飛んでゆき、その者の鎧を貫いたのだ。
それによって強力な一太刀は止まった。
この者達には勝てないと悟り、またもや逃げようと背を見せる。
しかし、横にスミスがいた。
スミスは簪のようなものを取り出し、それを騎士ゴブリンの首に刺した。
「ごめんね」
「ゲガギ......」
そのゴブリンは息絶え、地面に倒れ込んだ。
「「「「任務完了!」」」」
皆はハイタッチをした。
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この後、森の奥に行くと岩にある空洞の中にいた他寮の兵士を発見することが出来た。
大量に血を流していたり、気絶していたりする者もいた。全員、息はあったので、国に帰ると治療室へ送った。
ゴブリン雑学〜!
ゴブリンは肉を食べるイメージが定着してるけど、草食だよ!
ただ、鉄分補給のために動物の血を飲んだりするけど、肉食動物の血は飲まないよ!
シンプルに不味いから!
あと、女性を見ると、真っ先に狙うよ!
生物的にか弱いのが分かっているんだね!
でも、それと同時にニヤって笑うよ!
理由は僕には分からないけど、自分が女性だと思ったら、そういう反応を示すみたい!
オノバーはその反応が示されたので、ゴブリンにとっては女性みたいだね!




