第3話 生まれ変わった月
ボロボロな服を着た白髪の少年がペンを鼻にのっけて、椅子にもたれ掛かっていた。
彼の名は『オノバー・ウィネー・レイク』。
16年前に親から捨てられ、そこを通りかかった老婆に助けられた子供だ。
オノバーはノートに文字を書いていた。
ある程度まで書き込むと、その手を止める。
「ばあや......そろそろ、休憩していい?」
ばあやが彼の方へ近寄る。
「ダメですよ。模擬テストまで、あと三日しかないんですから。魔法の制限......せめて、魔力の込め方のところまで」
オノバーは後ろを向く。
「はぁ......だから、もう覚えてるんだってさ」
(前世で、だけど......)
彼は気まずそうにノートに俯く。
「なら、この問題集を解いてください」
ばあやは懐から分厚い問題集を取り出し、机の上に置いた。
オノバーはそれを机の端まで寄せる。
「やらないよ。いつも、いい点取れてるんだし、少しはのんびりしたいよ。あくまで模擬でしょ?」
「う〜ん。確かに、たまには休息が必要ですね。では、どうしますか?」
「そうだな。最近、会ってないし、レウターのところにでも行こうかな」
「そうですか。でしたら、ついでに買い物を頼まれてはくれませんか?」
「なんか足りてないものあったっけ?」
「少し、お金が貯まったので、新しくハサミと包丁を」
「確かにボロだもんね、了解」
オノバーは部屋を出て、玄関に向かう。
彼はコートラックに掛かっている手提げバッグを手に取り、ドアノブに手をかけた。
「ばあや、行ってくるよ」
「ちょっと待ってね」
ばあやがいる奥の方からガタゴトと音が鳴り始める。
「ん?」
静かになると、ばあやが玄関に来る。
「なにをして......」
「久しぶりの1人での外出だから、鈴を」
ばあやは塗装の剥がれた鈴をチリンチリンと鳴らしながら、彼に手渡そうとする。
「いいって、もう子供じゃないんだから」
「まぁまぁ」
ばあやは詰め寄った。
「ちょっ......」
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オノバーはゆっくりとした足運びで狭い路地を通っていた。
(結局、断れなかった......)
と鈴を手に取り、思う。
オノバーはそのまま歩き続けて、ある店の前に着く。
通ってきた道を確認して、ガタがついた扉に三回、ノックをし、入った。
その扉の軋んだ音と錆びた鉄の棒の音がオノバーを快く、歓迎する。
だが、店の内装は最悪だった。
床には穴や腐敗があり、油も飛び散っている。
オノバーは思わず鼻を塞いだ。
(この金属と酒が絡み合った臭い......相変わらずだな!)
しかし、臭いが鼻にこびりついたため、すぐに鼻から指を離し、前にあるカウンターテーブルまで移動した。
奥から卵のように綺麗な頭をした男が現れる。
その者はカウンターテーブルに腕を置き、オノバーを見つめる。
「どうだ? 元気してたか?」
「お陰様で」
「おいおい! 相変わらず、素っ気ねぇな!」
「なんとでも言えよ。俺はただ買い物しに来ただけだ、無駄話を咲かせる気はないね」
「そんなに嫌か? 俺に会うの......」
その男は見て分かるレベルにしょげていた。
「冗談だよ。ホントにレウターは見た目に寄らず、こういうのに打たれ弱いよな」
オノバーはレウターの肩をポンと叩き、慰める。
「だってよ。折角の買い手がいなくなったら、懐も俺も寂しいだろ?」
「第一に懐かよ」
オノバーは呆れ返る。
「そりゃあな? 買い手なんか、また集めればいい」
.
「その買い手がいないから、金に困ってるんだろうがよ。とりあえず、ハサミと包丁を一つ」
「痛いとこ突くなぁ......まぁいい。予算は?」
「あるのは銀貨5枚」
レウターに向け、麻袋から5枚の銀貨を出して見せた。
「なるほどな、少し待ってろ。奥から取ってくる」
レウターは冷静な顔つきで店の奥へと行った。
そして、十秒も経つことなく帰ってきて、テーブルにハサミと包丁を叩きつけた。
「銀貨4枚だ」
オノバーは銀貨4枚をテーブルに軽く投げると、その二つを手に取り、手提げバックに入れた。
「......帰らないのか?」
「買い物はついでだ。本当はお前に用があんだよ」
「で、なんの用だ?」
「休憩がてらに雑談をね」
「はっ、大した用事じゃねぇな」
オノバーは指の力で何かを勢いよく弾き飛ばし、それを壁に埋め込ませた。
「ばあやには申し訳ないけど、好奇心には変えられない」
その銀のコイン1枚をレウターは腰に掛けてある麻袋の中にせっせと入れた。
「じゃあ......兵士試験は知ってるか?」
「い〜や、知らないね」
オノバーは軽く首を振った。
「よぉし。兵士試験は、40年前ぐらいからあるもんでな。誰でも兵になれるように、と執り行われた。場所は中心街の闘技場。試験内容と試験官は大抵、変わらないらしいが本当かは分からん」
「日時はいつだ!」
オノバーは目を輝かせる仕草で早く言えと急かす。
「その試験が実施されているのは1年に1回だけ。今年は5月の1日だな。あと、合格したからといって必ず兵士になれってわけじゃないから、腕試しとして行くやつも少なくない」
「それは俺でも受けれるものなのか?」
「お前の歳なら行けるはずだぞ。そんなに気になるんなら、行ってみたらどうだ?」
「とはいえ、参加費が必要だろう。悪いがそんなに金は持っちゃいない」
興味を持っていたオノバーは諦めた顔つきで穴の空いている床を踏みつけた。
「しっかしなぁ、タダなんだよな」
「は......? 貧民もか? それは流石に......」
「貧民もだ、保証もついてる」
「手続きは!?」
オノバーは声を荒らげる。
「いらん」
「装備は!?」
「支給される」
「え......じゃあ、かかる時間は!?」
「そんなに掛からないはずだ......いや、これは人によるか」
レウターは指に手を乗せ、考えてから言った。
「行きたいが、三日後だよな......」
「そうか、模擬テストか。どうする? 俺が話をつけてやろうか?」
「いや、いい。自分で言うよ」
「あの婆さんのことだ、ネチネチ言うに決まってる。だから、少しでも早く帰った方がいい」
「じゃあ、そうさせてもらうよ。また今度な」
オノバーはレウターに向かって手を軽く振り、店を後にした。
(単刀直入に行こうか、理由付けしても言い訳にしかならない)
彼がそう思う頃には、瞬間移動でもしたかのように家に着くことだろう。
そして、家の中に入った。
「ただいま」
「あら、早かったですね」
ばあやは急いで玄関の方へ向かった。
「ばあやに言わないといけないことがあってさ......」
「そんなにかしこまって、どうしたんですか?」
「3日後の兵士試験、行かせてもらえませんか!」
ばあやは黙り込んだ。
(やっぱり、無理か......?)
「......いいですよ」
「え?」
「レウターから聞いたのでしょう? 坊ちゃんが行くというのであれば、文句は言いませんとも。ただ、命を失うという覚悟だけは常に持っていてください。合格だとしても不合格だとしてもです」
「ありがとう、ばあや」
オノバーは照れくさそうに頭を搔いた。
バトル以外だと執筆が進まなくて、かなり速めに話をぶった切ってしまいました!
大まかなストーリーは決まっているのですが、細かいところはかなり修正しています。




