第2話 魂は巡る
「口を慎め。汝よ、妾を誰と心得るか。死を司る神『モルス』じゃぞ。お主が本来、口も聞けぬ存在......言葉を選ぶべきじゃの。魂を冥府の方へ送ってやってもいいぞ?」
その少女から出た言葉は何かと古めかしいものであった。
「じゃあ、モルス様...... と、呼んだらいいか?」
「フフン」
モルスは上機嫌に鼻を鳴らした。
(やっぱ見た目通り、ガキか)
「じゃあ、この場所についての説明をしようではないか。来たばかりで状況も分からないであろうからな。コホン」
モルスは咳払いをする。
「ここはあるレベルに達した不運な魂が来る場所で妾が支配している領域じゃ。お主がここにおるのは、お主が呼び出した魔神......『アバドン』というんじゃが、ソヤツが妾にお主を入らせるよう頼んできたからじゃの。しかしながら正直、お主の扱いに困っておる」
(だとしても、それを本人に言っちゃう?)
「お主は特に問題も無さそうじゃしの〜。早くやる事やろうかの」
「やること?」
首を傾げるディーク。
「お主、察しが悪いようじゃな。魂らがここに来て、何をすると思うとるんじゃ」
ディークは指で円を描くように考えた。
「......罪を裁いて、天国地獄に送り付けるとかじゃないのか?」
「はぁ.、くだらんの。天国と地獄は人間が創作したものであって実在しているものではない。やるのは『転生』じゃ」
(冥府と地獄の違いって......なんだ? まぁいいか)
「天国の極楽や地獄の償いのようなものはないが、妾の空間には転生をする際にある特典を設けておる。それは『スキル』のプレゼントじゃ」
「『スキル』!? それは本当か!」
ディークはテーブルを叩き、モルスに詰め寄った。
「お主。落ち着け」
「あっ」
モルスは呆れた表情を見せる。
「おかげでお主が、どれだけ『スキル』が欲しいか分かったわ......でもの、あくまで妾が暇な時に創った複製品であって、古の神が創ったものとは劣るじゃろう」
「どんなに使えないものでも貰えるなら問題ないな」
「物好きじゃな」
「そりゃどうも」
そのとき、ディークは何かに気づき、上空を見上げた。
映るは謎の黒い空間。
そこから、紫と黒が混同している鎌が吐き出された。
その鎌は物理法則を無視し、高速で自転した。
それは死神へ向かっていく。
モルスはその禍々しい鎌を片手で受け取ると、鎌でディークの後ろにある黒い魔法陣の方を指し示す。
「とりあえず、この魔法陣の上に立つのじゃ。さすれば『スキル』が手に入るぞ。流石に自分で選ぶことは出来ないがの」
(さっきまで無かったろ、この魔法陣。しかも、あの鎌。俺を殺せるレベルの呪法が組み込まれている......ちゃんと神なんだな)
ディークはポケットに手を突っ込み、ゆっくりとその魔法陣の上に立った。
少し経ち、魔法陣が白く光り出す。
平行するように彼の真上から、四枚の紙切れが飛び交う。
その紙切れは彼の手元に届くと、燃え尽きた。
ジジッ------------
「ん?」
その奇怪な音は脳内に鮮明に流れている。
ディークは気付いておらず、辺りを見渡すも、原因らしきものは見られない。
(なんか、嫌な予感が......)
ディークは急な悪寒を感じると、身を強ばらせた。
「スキルの説明いっくよ〜〜〜!!!!!!!」
高く可愛らしい声は脳内に一瞬にして駆け巡る。
その声だけで彼は失神しそうになり、フラッとよろめいた。
(音量調整ミスってんだろ! 殺す気かッ!)
「あの〜、モルス様ァ? これは聞いてないんだが!?」
「ま〜た、間違えたか。こればっかりは直らないんじゃよなぁ」
モルスはブツブツと彼に聞こえないぐらいの声でそう喋る。
「なんか言ったか?」
「話す暇があったら『スキル』の説明に神経を注ぐのじゃ。一度しか説明は無いからの」
「わ、分かった......どれどれ」
1つ目は【物質解析(ぶっしつかいせき】→任意で触れた物に限るけど、物質に込められた能力を無理やり掘り起こし、確認することが出来るスキル!!! しかし、短時間で使い過ぎると脳に負担がかかって死に至るから注意!!!
2つ目は【天元無双】→任意で詠唱した際、発動するスキル!!! 五分間だけ身体能力と魔法の能力を向上させるが、発動時間が切れた場合、五分間向上した分だけ身体能力と魔法の能力を低下させるから注意!!!
3つ目は【忍】→加速と幻術を組み合わせたスキル!!! よく分からないけど、身体の強化ではないから、頭に留めて置くように!!!
4つ目は【神認者】→ERROR!!! 未知の『スキル』を確認しました!!!
その瞬間、ディークに送られたスキルの情報が遮断され、反動で身体中に電流が流れているような痛みが走る。
(痛って.....ちょっと待て、エラー!? あんのガキ神......これも聞いてねぇぞ!)
彼が『スキル』の情報を確認している間、モルスはクッキーをハムハム食べていた。
「おい、モルス。『スキル』の情報開示にエラーってのがが起こったんだが?」
モルスは、バッと立ち上がる。
その際、食べていたクッキーが落ちた。
「嘘でしょ!? エラーなんて、有り得ない! 今まで、そんなこと無かった!」
「あれ、口調が変わったような......」
ディークがボソッとそう言葉を漏らした。
「あっ......コホン。じゃが、身体的に何もなくて良かったの。最悪、廃人になってもおかしくなかった」
ゆっくりとモルスは席についた。
「えぇ......なんで、それを先に言ってくれないんだ?」
「言ったら、やってくれなくなるじゃろうし、さっきも言ったように今まで起こったことがないものを想定して話す必要はないしの」
モルスはティーカップを持ち、優雅にその中にある紅茶を口に運ぶ。
「あと、一つ聞きたいことがある。スキル【神認者】について知りたい」
優雅に飲んでいた死神は持っていたティーカップをまた落として割ってしまう。
「はぁ〜......イレギュラーだわ。【神認者】は文字通り、神に認められた者しか与えられないのよ!」
モルスは、また立ち上がった。
「10億人に1人いるかいないかの『スキル』よ!? 色々なことが起こりすぎて、人間不信になりそうだわ!」
どうやら、モルスは口調を隠すのをやめたようだ。
「それとエラーは何か関係してたりするのか?」
「い〜や、分かんないわね。能力も歴史も一切、語られてない『スキル』だからね......でも、一つだけ分かることがある、それは。この『スキル』を持っている者は確定で『神之啓示』が手に入ること」
「『神之啓示』って、神から渡される特殊能力の事だよな? それが俺に?」
モルスは思いっきり胸を叩いた。
が、無いのでドン!と良い音が響く。
「フフン! そうよ! 有難いでしょう?」
モルスは嬉しそうに両腕をくの字に曲げ、それを腰に当てた。
(決めるのは、上の神だろうに......なんでコイツ、こうも自慢げなんだ?)
「でも、そう言われたら、気になってきただろうが......早く転生させろ」
「......しょうがないわね、またエラーやらイレギュラーやら起こされたら嫌だし、転生させてあげるわ。魂達之凱旋門!」
詠唱により、地面が揺れ出し、巨大な白い門が出現した。
それは穢れを知らないかのように白く輝いていて、左側には嘆き、喚く男の姿の彫刻......右側には愛し、慈しむ女の姿の彫刻が掘られていた。
中にはまるで世界の美を埋めつくしたかのような淡い青色の光。
「これが神の魔法なのか......!」
(この門と彫刻だけでも魔法で生み出そうとすると平気で何十年もかかるだろう。しかも、パーツのように創り出して組み合わせないと出来ない......)
「入っていいわよ」
「あっ、あぁ」
ディークは門の中へ入っていくが、三歩進んだところで足を止め、モルスの方を振り返る。
「これってどこまで進めばいいんだ? 見た感じ永遠に道が続いてそうだけど......」
「えっとね。ある程度進んだら、この門ごとアンタは消えるから、その時まで待っていなさい。対した時間はかからないわよ。まぁ、会うのは最後だろうし、褒め言葉をアンタにあげようじゃない。暇つぶしにしては良かったわ」
「そうか、それは良かった。だけど、最後だと? また会おうの間違いだろ?」
「フッ......会うとしても、流石に記憶はないでしょうけどね。楽しみにはして置くわ」
「記憶がなかろうと俺は家族の仇を殺すまで諦めたくないんでね。俺が死んだ時は頼むとするわ。じゃあな、モルス」
ディークは前を向き、奥へと歩き出した。
すると、モルスの言った通り、門が両端から徐々に消えてゆく。
「あっ! そういえば言うの忘れてたけど、飛んでいく時代はランダムだから一秒後かも知れないし、何万年後かも知れないわ!」
モルスがそう言ったのは門がボールサイズになっている時だった。
「ちょっ.......! それ早く言えよ!」
ディークはまた振り返り、手を伸ばすが、時すでに遅し。
『紅月』は門ごと、この世界から消えることだろう。
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ある家にて......
「アア〜〜〜! ア〜〜ア〜! ア〜アア〜!」
この日、神......から祝福された子が産声をあげる。
その赤ちゃんの前世が英雄だということは誰も知らない......
本来、ディークは白き死神に気付くことなく、死ぬ予定でした。
ですが、流石に人類最強である十人の一人の称号を持っている男が戦闘もせずに死ぬのは、後々なにか言われそうだなと思ったので戦闘描写を入れました。
戦闘描写に関しても短くしてあります。
前のは、もうちょいまともに闘り合えてました。




