プロローグ
この世界には強さの指標として十級から一級までが存在する。
平凡な者が幾ら鍛錬をしようとも、到達できる領域は九級が限界とされている。
九級以上を目指すには『経験』と『ある程度の才能』が必須条件。
それらの頂点である一級はそれ以下とは比べ物にならない。
その一級の中で小国又は大国の都市を支配できる者を『英雄級』と人々は呼んだ。
更にその英雄級の中でいや、世界の中で最も強い人間十人がかき集められて出来た組織、英雄級『十本指』。
その『十本指』の中で『紅月』のディークと『金剛』のザグが南方の国ドゥースターへと派遣される。
その二人は国王の元へ行き、任務を引き受けた。
内容は26年前の未解決死傷事件の『犯人ら』の捕縛、または抹消。
国王から渡された一枚の情報を元に、彼らは森へ入っていったのである。
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赤い髪をなびかせているディークは一枚の古臭い紙を見て、現在地の確認及び目的地の位置の把握をしている。
だが、その紙はところどころ破れやシミが生じており、それには眉をひそめていた。
「ザグ〜。ここら辺なのは分かるけどよ、こんなんじゃ、明確な場所は把握出来ないぞ。この紙、信用していいのか?」
「あのがめつい国王がくれたもんだからな、その紙に価値・信用があるのは確か。まだ場所が分かるだけいいってもんだろう」
銀髪に大きな体格を持つザグは見た目とは裏腹に冷静な喋りで捜索の手を止めたディークに促す。
「あのな、これを俺以外のやつが見たら速攻で捨てる。俺も少し捨てたくなったほどだ。まぁだから、国王は俺たちに頼んだのかもな......クソっ」
ディークは足元にあった大きな石を蹴り、粉砕した。
「いつでも戦えるよう、準備しとけよ」
ザグは錬金術で灰色の金属を両腕に纏わせる。
「お、今日はやけにやる気だな。なんかあったか?」
「今回の任務のターゲットはお前の家族の仇になるわけだろ? そりゃ、やる気も出るってもんだ。空から俺の良いところを見てもらわないといけないしな」
「そうか。もう手遅れだと思うが、何も言わないでおいてやるよ。ま、いるかも分からねぇけどな」
「お前なぁ......サボってねぇでいくぞ!」
ザグは周りの物を無闇に破壊する彼を止めようと声を張った。
「へいへい」
ディークはそれを軽い返事で答える。
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その頃、二人はジャングルのように繁っている草木をかけ分け、木が密集していない広い空間を見つけていた。
そこには大きな石造りの建物が在り、見た目は教会に近いものだと二人は理解した。
「アジトって言う割には目立つな。これはアジトじゃありませんでしたってオチじゃないことを祈ろう」
そういうとディークはアジトと思わしき建物をじっくりと眺める。
「そうだな。ハリボテかと疑いたくなる」
「じゃあ、確認するか!」
ディークは地面から小石を拾い上げ、それを人差し指と中指で包み、アジトへ向けて思いっきり投げた。
小石はアジトの壁に当たると、深くヒビを入れた。
「魔法は張られてない点から見るに多分、違うな」
「でも、こりゃあバレたろ」
ザグはディークに呆れた表情を向ける。
「バレても、速く行けば問題な......」
ディークの言葉を遮るかのように、近くから数十個もの足音が聞こえた。
それは徐々に音が大きくなっていった。
「今回のクジは当たったな」
ザグはディークの肩を軽く叩いた。
「そうかもな」
彼はゆっくりと後ろを振り返る。
ガサガサ
草木からガラの悪い連中がゾロゾロと湧いて出る。
そして、棘のついた鈍器を握り締め、彼らを囲んでいく。
「ヒッヒッヒッ」
その連中は不気味にも微笑んだ。
二人は俺らをナメてんのかと言わんばかりに地面を潰すほどの一歩を踏みしめた。
「アジトにいなかったら、どうせ帰るんだし、家で寝んねしとけよ。まぁ、もう遅いけどな」
ディークは後ろの鞘から柄に赤い装飾が施された輝く剣を取り出した。
「消えてもらう絶好の機会ですのでね」
フードを深々と被ったふくよかな男が連中の奥から出てきて、そう言い放った。
ディークはその男を見るや否や血相を変えるもすぐに冷静になる。
「まさか、こんな簡単に見つかるとはな。クロユリ野郎」
赤髪の彼は相手を嘲笑してみせた。
「はっ、クロユリなどと......私はドゥルドゥ・ギラーという美しい名前を持っている。それで呼んでくれんかね?」
「そんなことはどうでもいいから、教えろ。この取り巻き共はメンバーで間違いないよな?」
取り巻きと呼ばれた連中は一斉に武器を両手で持ち、構えた。
その者達のイラつきは目に見えて分かる。
気にせず、ディークはドゥルドゥの方へ熱く、冷たい視線を向けた。
「他になんだとお思いで?」
ドゥルドゥはバカにした目つきでディークを睨む。
「てっきり、またお人形遊びをしているのかと思っただけだ。他意はない」
その言葉で取り巻きの感情はヒートアップする。
ディークはそれを待っていた。
後ろへゆっくりと戻っていき、ザグの真隣に付く。
「ザグ、お前は取り巻きを頼む。俺はクロユリの方をやる」
「了解」
ディークは拳に炎を纏い、ザグは金属の腕をより強固なものにした。
連中は一斉に攻撃を仕掛けようと一歩踏み出そうとしたが、圧に負けてしまい、二歩三歩引いてしまう。
「死にたいのですか?」
ドゥルドゥは仲間に脅迫まじりの言葉をかける。
連中の頬には汗が伝い、一歩、また一歩と進んでいき、
「「「「「オオオォォォォォ!!!」」」」」
ついには雄叫びをあげ、ディーク達に駆け出した。
「クズだな」
ザグは強固にした灰色の腕を振りかむり、連中を木や地面に叩きつけた。
そのたった一回の行動で犯人の約30人を片付ける。
「お前の相手は他でもない俺だ」
ドゥルドゥにも圧が効いたのか、先程までの態度とは一変し、まるで怒られた子供のように縮こまる。
「ヒィッ!!!」
ドゥルドゥは腰を抜かした。
しかし、腕を後ろに置き必死に逃げた。
「役立たず共めッ!」
クズな男は立ち上がり、走り出す。
一本の木へ行き着くと、すぐさま、彼の方を振り向いた。
「喰らえ! 魂之掌握!」
ディークは動くことなく、その場に留まった。
来いよという、挑発なのであろうか。
ドゥルドゥはそんなことを気にも止めず、拳を握りしめ、その技を発動させた。
「ハッハッハッ、私を舐めたのが運の尽きだったな。これは竜をも殺す呪法だ。貴様如きに使うハメになったのは、失敗だがな」
これは人々の怨みを代用として、対象の生命力を蝕み、崩壊させる呪法。
ドゥルドゥは自分の駒を薙ぎ払うザグを倒すために先の場所へと向く。
「!?」
「二股はタブーだぜ」
しかし、その視線の先にはディークが立ち塞がっていた。
彼は竜をも軽くあしらうことが出来る現代最高峰の英雄。
呪法など、通るはずがなかったのだ。
「何故、生きている! 私の最強の呪法を喰らったというのに......!」
「遺言はそれで終わりか?」
ディークはドゥルドゥの方へ歩み寄る。
「ヒッ! 怪物め! 近づいてくるな!」
その瞬間、追い詰められているのにも関わらず、ドゥルドゥは不気味な笑みを浮かべた。
「ディーク! 危ねぇ!」
ザグの声に反応し、ディークは顔を横に向ける。
目の前に見えたのは、ザグの錬金術によって生成された金属の盾。
(これは盾! なんで......)
彼が瞬きを一つした時、その盾は破られた。
そこからドゥルドゥと同じローブを付けた長身の男が現れた。
ディークは咄嗟に両腕を胸のところで交差し、防御を繰り出すも防ぎきることが出来ず、吹っ飛ばれてしまい、アジトの奥でその意識を失う。
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意識を戻したディークは瞼を開ける。
(夢......か?)
ディークはそう思った。
いや、思いたかった。
目の前にはドゥルドゥと見たこともない長身の男がいた。
ディークは思考するよりも体が動き、相手を視認しつつ、離れた。
その時に気づく。
自身の右腕に愛剣が刺さっていることを。
(吹っ飛ばされた時に刺さったか......)
「思っていたより、頑丈だ......心臓が停止したから、死んだと思ったのだが......」
「次は確実に仕留めろ」
ドゥルドゥは落ち着いた表情で長身の男に命令を下す。
「分かっている......」
長身の男は懐から短剣を取り出すと、彼に斬りかかる。
手負いの右腕を狙う動きだ。
ディークは急いで腕から剣を引き抜き、全力でローブ男の剣撃を受け流そうとする。
だが、力が思うように出ず、押し負けた。
長身の男が彼の右肩から、左横腹にかけて、斬りつける。
ディークは瞬時に距離を取り、傷を最小限に抑えた。
「......お前、ナニモンだ?」
口から血を吐き出しながらも、ディークは問う。
「『白き死神』.......」
白き死神は白い息を吐き、そう答えた。
「二つ名ってことは、『本格派』か」
「ご名答......」
白き死神は拍手をする。
「ハハハハハ......」
それに合わせ、ディークは笑った。
(『治癒魔法』を使えば、少なからず隙が生まれる。アイツは逃すことなく、斬りかかる。そこから、防戦一方になるだろう。耐久に関しては、アイツの方が上手。なら! 一撃で決めるまで!)
「ここから、短期決戦と行こう」
ディークは剣を地面に突き立て、右手の中央に紫色に煌めく『魔力』を溜め始めた。
その魔力は徐々に禍々しくなり、大きくなってゆく。
「強欲だな......」
右手の魔力が更に大きくなっているのを見てか、白き死神はすぐにディークの眼前まで移動する。
白き死神は短剣の持ち手を変え、右手を斬り落とそうと振るが、その短剣は空を斬り、視界から彼の姿が消えた。
ディークは短剣が右手に届く寸前に下へしゃがみ、回避していた。
そして、自身を認識出来ていていない相手の腹を殴り、軽く距離を離した。
その時、準備は終えていたのだ。
「『紅月』!!!!!」
とたん、ディークは両手を大きく開け、その中央に右手の魔力を移動させる。
その魔力は徐々に赤くなり始め、より膨大になった。
これはディークの決死の魔法。
その魔法を魔力の記憶である『魔憶』を元に最大出力で構築、それを実行した。
白き死神は汗を滴らせ、後ろへ下がる。
紅月は白き死神の方へ向かい、衝突しようとした時。
白き死神が助走をつけ、魔法・紅月に短剣を真っ直ぐ放った。
紅月は真っ二つに割れ、塵となる。
(小国を滅ぼせる一撃を一撃で返しやがって......ネジぶっ飛んでんのかよ!)
ディークは唖然とし、一瞬だけ思考が鈍る。
その一瞬をつき、白き死神が彼の心臓に狙いをつけて、短剣を振りかぶった。
その短剣が表皮に、筋肉に、血管に、心臓に到達するまで、そう時間はかからなかった。
その短剣は刃が見えなくなるまで、深く突き刺さる。
(は......?)
そして、無惨にも白き死神は、短剣を引き抜いた。
すると、ディークの身体中から大量の血液が溢れだす。
彼は冷たい地面に倒れ込んだ。
Q.ここから生き残る術はあるのか?
A.ない。この世は、無情である。
しかし、偶然か、それとも神の気まぐれか、身体中から吹き出る血液が一つの円を創り出す。
その円に描かれていたのは烏の翼が着いた羊の骨。
すると、骨にある目の部分が赤く光りだし、中心から円が焼き切れていく。
それは魔法陣であった。
そこから、まるで鮮血を表しているかのような濃い赤紫色の髪、黒曜石のように硬く、艶のある尾と翼。何より膨大でドス黒い魔力を有したモノ......大罪により神から堕落したモノがこの世に顕現する。
彼は......いやコレは『魔神』だ。
魔神は『無』を見るような目でドゥルドゥと白き死神を見つめる。
見つめる......この行為だけで生物を軽く殺せるような、その圧倒的な存在感は二人に押し潰すような感覚を覺えさせることだろう。
ドゥルドゥは恐怖し、白き死神に縋りついた。
白き死神は手を震わせながらも短剣を新たに取り出し、低い姿勢で短剣を右手に1本、左手にも1本携え、すぐ動けるように構えた。
(魔神......供物は俺か......確かに条件は満たしてる。これもまた運命か......)
そして、ディークは供物として姿を消した。
「貴様の記憶、気に入った。平凡な人間なぞに使うのは勿体ないが、餞別をくれてやる」
その魔神は二人を凝視する。
「貴様らがターゲットだな?」
「ひぃ.......!」
「我々がターゲットで間違いないと思うが......」
その言葉に反応し、魔神の瞳孔が赤く輝きだした。
それに驚き、白き死神はほんの少し後ずさりする。
「じゃあ、容赦はせん。俺の名は『アバドン』、冥土の土産にしろ。そういえば、力比べはこれが初めてだな? 全力でぶつかり合おうじゃないか。なぁ? ベリトォ!」
一方------
ディークは目を覚ます。
目に入ったのは綺麗な星空。
彼はこの空間に落ちることも昇ることもなく。
そこにただ、存在していた。
(ここは......? というか、何処も動かせないんだが、どうすればいいんだ?」
数十秒経った後だろうか。
ディークの身体が急に重くなり、先が見えぬ光に落ちていく。
奥へ行くほど、周りが白く明るくなっていった。
(眩しっ......あれ? 肉体の感覚がある。それより、なんで俺は片膝の状態で下を向いているんだ?)
肉体があるかのように、それはリアルな感覚。
それを奇妙に思いながらも、ディークは顔を上げ、立ち上がる。
見えたのは大きな玉座と黒いテーブル、赤いカーペット。
そこの周りは全て白く殺風景でだだっ広い。
まるで土台だけ作った劇場のよう。
そして、空間に見合わない程、小さな女の子がこの大きな玉座に座っていた。
外見は可愛らしく、童顔で灰色の髪に赤色や紫色が交じりあった服を着ていた。
しかし、見た目は完全に子供。
だが、まだ決めつけてはならない。
ディークは左手を腰に当て、その少女を睨みつける。
「お前は神か?」
とても、神に質問をする態度では無かった。
見て下さりありがとうございます!
投稿するのは、ものすごく遅いのであまり期待しないでください!




