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5 カイトside2

「カイト君、まさかこんな事になるなんてな。私達も急いで来たのだが、サインを」


 ラナの父、ホルン子爵は書類を俺に差し出した。書類は婚姻証明書だ。既にホルン子爵とラナのサインがされてある。


「すみませんっ。俺のために」


 俺は目頭が熱くなった。こんな夜中にも拘わらず、馬車で駆けつけてくれたのだろう。途中で騎士達に止められる可能性だってあったはずなのに。

 震える手で五枚の書類にサインをした。一枚は我が家の控え、もう一枚はホルン子爵の控え、もう一枚は神殿に提出する事になっている。後の二枚は予備。


「神殿はいつの時間でも受け入れているはずだ。今から両家の執事に神殿へと提出させにいく」

「カイト坊ちゃん、私達が命を掛けて神殿へと届けます」


 別々のルートで教会に提出するようだ。残りの一枚は執事達が駄目だった場合、侍女が買い物へ出る時に神殿に届ける最後の手段のようだ。


「……ありが、とうございます」


俺は涙が止まらなかった。


「さぁ、もうすぐ騎士達がここへ来る。私達は帰るとしよう。では成功を祈っている」


 俺達はホルン子爵に深々と頭を下げた。子爵は中庭の使用人が裏口として使っている場所から馬車で帰路についた。ホルン子爵の執事は別の裏口から馬で。我が家の執事は庭師の装いをし庭師と共に植木鉢を乗せた小さな幌馬車で隣村の教会へ向かった。


「さぁ、少しの時間でもお前は寝ておけ。もうすぐ騎士達がお前を迎えにくるだろう」「父上、迷惑を掛けてすみません」

「カイト、気にするな。我が子が困っていたら助けるのが親だろう?さぁ、休め」

「はい」


 父はそう言っているが、下手をすれば反逆罪になってもおかしくはない。父やホルン子爵、周りに助けて貰っている俺は無力である事を実感する。身体が興奮しているせいか寝つけないでいたのだが、ベッドで休んでいるうちに少し寝ていたようだ。


部屋をノックする音で目が覚めた。


侍女が朝食を持ってきてくれたようだ。返事と共に俺は目を擦っていると騎士達がさっとベッドの周りを取り囲んだ。


「カイト・ローゼフ。城まで来てもらおう」

「何故ですか?こんな早朝に。俺は何もしていませんが」

「陛下がお呼びだ。さぁ、着替えろ。あぁ、折角だ朝食を流し込め」


 俺は騎士の一人に促され着替えをした後、侍女の持ってきたパンに齧り付いたまま王宮に連れていかれるようだ。罪人ではないので拘束される事はないらしい。そして押し込まれるように馬車の中へ。二人の騎士が俺を挟むように座った。


もちろん父や母の見送りはない。


「俺は一体どうなるんでしょうか」

「……さぁな。恨むならグレイス王女を恨め。きっとそういう事だろう。……これは私の独り言だ。王女は二日後、ナーゼル国に出立する。それまでに事を起こす気らしい。わかるな?」


 騎士の一人が窓の外を向きながらそう呟いた。俺は黙って頷く事しか出来なかった。二日か。俺の心は酷く沈み込む。

何で俺がこんな目に合わなければいけないんだ。行きたくない。執事達が出した婚姻が受理されているだろうか。


 不安とやるせない思い、憤りを抱えたまま馬車は王宮に到着し、俺は騎士に連れられて客室に入れられた。


「ここで君は過ごす事になる。水以外口にしない方がいいだろう。水も味が変だと思えば止めた方がいい。では用事があればベルで侍女を呼ぶように。じきにお呼びが掛かるだろう」


 騎士はそう言うとバタリと音を立てて出て行った。

 案内された客室を改めて見渡す。やはり子爵家とは違って一つ一つが高級な物だと分かる。

 俺は特段やることもないので部屋を見回した後、水を少し口に含んでからベッドへと寝っ転がる。今ある水は問題なさそうだ。騎士に言われた通りギリギリまで何も口にしないでおこうと心に誓う。

 それにしても王女はどこまで人に嫌われているんだろうか。今までよく廃嫡されなかったものだ。陛下が庇っていたんだろうな。今回の事も陛下から強制的な呼び出しだ。無理やり既成事実を作らされそうだ。

 王太子殿下はどう思っているのだろうか?昨日の対応では少なからず貴族を敵に回すような感じでは無かった。むしろいつも王女の尻ぬぐいをして回っている印象だ。

 アンドリュー殿下に助けを求めるのはどうだろうか。たかが子爵の俺が助けを求めた所で無視される気もする。


一縷の望みにかけるべきだろうか。


 俺の考えが堂々巡りをしている間にどうやら眠っていたようだ。昨日の今日でやはり疲れが出ていたようだ。


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