表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
誰か翼のラクリマ  作者: 仲元心影
プロローグ
6/6

序章五話 午前十一時に正門前で



 《ギルドカウンター》から〝クエスト〟を受けて、数十分が経過した頃。


 アスナたちは〝アンチ・グリード〟と遭遇した時の事を考えて、念入りに出立の準備をしていた。



「…………」

 一応、各自解散で買い物をしていたが。


 理由は分かっている。



( 揉めてるんだろうな…… )


 ヤマトは空を見上げ、《草影くさかげしゅう》の〝少女〟を思い浮かべる。


 あの娘はアスナの事になると暴走する、《狂信者》なのだ。



「……はぁ」

 一足先に集合場所である、エメラルド王国の正門前に着いたのは良かったけど。


 ヤマトはもう、ため息しか出ない。


 門番とか衛兵の視線がチラチラしてて、痛い。



 そんな鬱屈うっくつな気持ちでいると、どこか聞き覚えのある声が耳に入る。



「……ヤマトくん!」


「……?」

 思わずそちらの方に視線を移すと、ヤマトの表情が固まった。



「あれ?」

 ここにいるはずがない、ヤマトの同級生。



「何で、ここにいるんですか? ノエルちゃん」


「……ふふ」

 その問いかけに、優しく少女は微笑む。


 その少女の名前は、ノエル・フォートナー。



 短い水色のポニーテールと、大人しい印象を持つ顔立ち。


 白い制服の上に、青いコートドレスと赤いネクタイを身に付けた。



 魔法使いの様な優等生。



「そこの門番さんが教えてくれた」


「あ、なるほど。〝妨害〟ですね」



( これをしてくる辺り、エドゥの仕業ですね )



 そう思い当たる人物に恨みを向けていると。


 ノエルが少し申し訳なさそうな表情で、こんな事を聞いてきた。



「……ねぇ、ヤマトくん。また、〝お外〟に行くの?」


「……まぁ、部活動の一環ですからね。強くならないと、いけないですし」

 少し言いづらい空気を感じるが、これは伝えないといけない。



「何より部費を稼がないと、アスナちゃんを守れないので」



「…………」

 ノエルの表情が、わずかに揺れた。



「…………」

 何に反応したかは、何となく分かる。


 〝()()()()〟だったら、あり得ない行動だから。



( ……ごめん、ノエルちゃん )


 思い出す、〝()()()〟を。



( 君を〝()()()()()()()〟、きっと君は()()()()()()と思うから )



 ただ、微笑みを向けるしかない。


 この《世界》で()()()()はずっと、《否定》されてきたから。




「……そっか」


「――――」



「……ヤマトくんらしいね」

 ノエルが悲しそうに笑っている。


 ヤマトの胸に、不安と葛藤かっとうが溢れ出してくる。



「…………ッ」

 苦しい。


 自分の感情が、抑えきれないと自覚してしまう。



( ……ダメだ。それは……! )


 どれだけの嫌な記憶が、感情があろうとも。


 あの小さな女の子(アスナ)が背負った“暗黙〟を、《否定》する訳にはいかない。 



 だから、思考を――――




「……あれ? ノエルじゃない」



「……ッ!?」

 この、最悪なタイミングで。



「こんなとこで、何してるの?」

 きょとんとしたアスナが、来てしまった。





「……アスナ、ちゃん……」

 あの表情が怖いと感じる。


 何か思い出しそうで、不安で堪らない。



「…………」

 そんなヤマトの、ノエルの様子を見て分かった。




「……どうしたの、そんな顔をして」



「……え、あ……」

 ノエルの気を紛らわそうと。


 アスナはそっと微笑みかける。



「大丈夫よ。わたしが、ヤマトを守るから」



「…………」

 とても、複雑そうな顔をしている。


 何に思ったのかは、何となく想像できる。



「……アスナちゃん……」

 ヤマトは動けなかった。



 これで良いのかと、頭の中で叫んでいる。


 後悔はしないのかと、心に訴えかけてくる。



 だけど。



『――――――』

 記憶が、《ユイコ》さんは《否定》している。


 約束を《否定》していると、言っている。



 だから。



「……僕は」

 ヤマトは動けた。



「僕は大丈夫だよ、ノエルちゃん」


「……え?」

 何でもないと微笑み、言葉を繋げた。



「必ず帰るよ。だって」

 アスナを見て、思い出した事を告げる。



「ここが、僕たちの《居場所》だから」

 今となっては、〝皮肉〟でしかない。


 こんな《()()()()()()()()()》は、本当の《居場所》ではないから。



「…………」


( ……ヤマト )


 それはアスナも分かっていた。


 理解していた。



 だけど、それでも。



 確かに存在していたんだ。



『――――ヤマトくん』

 胸の奥にある、輝かしき〝思い出〟があったんだ。



『――――あはは』

 いつも気にかけてくれる君を、巻き込ませない様に。


 不安を見させない様に。



 ヤマトは、この言葉を伝えた。




「それじゃ、行ってくるよ」

 これは、《否定》する為の言葉じゃない。


 一歩を踏み締める為の言葉だ。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ