序章四話 《緊急クエスト》
そう機嫌を損ねたアスナの口調は続く。
「そもそも、何で今、動き出したのかなあ。〝手がかり〟なんてこれっぽっちも……」
言葉が弱くなった。
「……いつから?」
( アカネの立場上、三日前は知ってるはず )
そう思考した上で、アスナは確信した。
「……あの《夢》は《現実》で、何か〝イレギュラーな戦闘〟が、起こった?」
「ッ!?」
「え、何て!?」
状況が分からない。
「《姫様》は知ってるんですか!? 〝敵〟の動きを!?」
「え、あ……何でもないわ。そう思っただけよ」
ウルルの前で言ったのが悪かった。
必死でアスナは首を振る。
「そう思ったって……貴女の《ラクリマスキル》は……」
「あ、いや。さすがに分からないと思うよ」
少し動揺してしまったが、ヤマトは何とかフォローを入れる。
「アスナちゃんの《ラクリマスキル》は《奇跡》。自分に対して有利な効果を持っていくスキルですよ。さすがに《未来予知》のスキルでは無いと思います」
「うっ……だって、《姫様》は……」
「いや、いくら《テラリア様》の《加護》があるとは言え。そんな心身に負担するスキルは、扱えないと思いますよ」
「………………」
( 何とかごまかせた…… )
ウルルは納得いかない顔を出しているが。
ヤマトはとりあえず、ため息を付く。
「……ごめん、ややこしくなったよね?」
申し訳なさそうに、アスナは頬をかく。
「次からは気を付けてください」
「……うん、分かった」
ちょっと怒られたので、話を修正していく。
「えっと。とりあえず、クエストをください。出来るだけ、〝グリード〟には近付かない様にするから」
「………………」
ウルルはまだ納得していない。
だけど話が進まないので、もう諦めた口調で話し始めた。
「……はぁ。分かりました。とりあえず、このクエストを斡旋させて頂きます」
「はい……」
( めっちゃ睨まれた…… )
内心、アスナは危機感を持ちつつも。
持ってきた〝依頼書〟に、目を通す。
「貴女達は一応、レベル三十以上の実力者なのですが……。受けませんよね?」
「受ける訳がないじゃない」
「まぁ、部長がいない事には……無理ですね」
キッパリとしたアスナと、苦くしたヤマトは答える。
「そうですよね。安心しました」
( どんな〝クエスト〟? )
ウルルのあんな笑顔、ヤマトは見た事がない。
「それでは、紹介させて頂いたクエストの内容についてですが。いくつかの注意点を挙げさせて貰います」
「あ、はい……」
若干、不安が残るものの。
アスナ達は説明を聞いていく。
「まず、最初にお伝えした通り。現在〝アンチ・グリード〟の大量発生によって、《緊急クエスト》が発行されております」
「うん、そうだね……」
「まさかとは思いますが、〝規制〟ですか?」
「〝規制〟ですね」
「あー、なるほど……」
( それほどまで、緊急事態なのかな? )
片手を上げたヤマトは、再び苦い表情を浮かべる。
「幸い、低レベルの発生ですから。何かと余裕があるんです」
「余裕……」
( 絶対《草影衆》が動いてるわね…… )
アスナの脳裏に〝アカネ達〟の姿を思い浮かんでしまったが。
話がややこしくなるので、口には出さなかった。
「ですから絶対、余計な所には行かないで下さい」
「うっ……」
あの真っ直ぐな視線に、アスナは突き刺さる。
「うう……」
「まあまあ……。とりあえず、指定した場所でエネミーを狩ればいいですね?」
「はい、そうです。討伐対象である〝ブラックナイト・スライム〟の生息地、《翡翠色の草原》で遂行してくれれば」
「《翡翠色の草原》……」
アスナの中で、何かが引っかかる。
( 確か、場所的に〝アンチ・グリード〟が関わってきそうなんだけど…… )
軽く見た〝依頼書〟をよく見ても、状況的には行ってはいけないはずなんだけど。
「……だから、余計な所には行くなと」
ヤマトは察した。
そこを指定した場所の近くに、〝とある聖域〟がある事を。
「…………」
彼女は少しの沈黙を選んだ。
どうやら何かしらの〝事情〟が関わっていそうだ。
「……とりあえず、お受け、致しますよね?」
「…………」
「…………」
何とも言えない、ぎこちない笑顔だったが。
思わず、ヤマトの顔を見てしまったが。
「……分かった。引き受けるよ」
問題はないと。
そう頷いてくれたから、アスナはウルルに向かってこう言えたのであった。