序章三話 《ギルドカウンター》
――――エメラルド王国にある、とある建物。
それは立派で、《ギルドカウンター》と呼ばれる場所であった。
「………………」
アスナ達はその建物に入り、辺りを見渡した。
ここでも多くの学生がいたが、国家を守る〝警察〟の様な役割を持つ《ギルド》、《王国近衛騎士団》のメンバー達まで来ていた。
皆は〝掲示板〟に掲げられた依頼――――〝クエスト〟を見たり、その手に取ったりしていた。
他にもショップでポーションを買う人、飲み物を飲みながら雑談する人、自分の《ギルド》を勧誘する人のエトセトラ。
「ううっ……」
「あはは……結構多いね……」
そう苦い顔を浮かべながら、アスナ達はカウンターの方に足を運んでいく。
「――――お、あれって……」
「間違いないな……」
「………………」
余りにも視線が、注目が集め過ぎている。
「――――ッ!」
目の前を通り過ぎるだけで、騎士達から〝敬礼〟を送られる。
「……また、あの《姫様のギルド》だ」
「何で、《生徒会》に入らないだろう?」
「…………ッ」
学生達の噂が、アスナの神経に触る。
人混みの中に居たくない理由の一つだ。
「あ……」
急に速度を上げたアスナをつい、手を伸ばしてしまう。
「………………」
ヤマトは分かってしまう。
知りたくない無力感を。
「―――――」
( 何で、誰も……気づかないの? )
苦しい、悲しい、イラつく。
それを〝昔の様に〟飲み込もうとして、ちょっと出てしまった。
いつもの事なのに。
「………………」
急に悔しくなった。
そして、急に虚しくなった。
アスナは立ち止まってしまった。
( ……らしく、ないな……わたし )
冷静な判断が出来る様になって、アスナは受付の人に声をかける。
「……あの、すみません」
「……はい」
何か諦めた様な口調で、女性が反応する。
彼女の名前は、ウルル・インベントリ。
赤いリボンを付けた、赤いオカッパの看板娘。
受付嬢らしく、赤い帽子とスーツを着ている。
「何か稼げる、討伐クエストってありますか?」
「《姫様》、ご自身の立場をご理解してから言ってください」
真顔で言われた。
「理解して言ってます」
ストレスを感じながら、アスナは真顔で返す。
「あはは……」
頬をかきながら、ヤマトは加勢する。
「まぁ、《生徒会》に部費を削られてしまったからね。だからこうして、稼ぎに来たって訳です」
「……だったら、《生徒会》に入ればいいんじゃないですか」
「―――――ッ」
ウルルの言葉が、アスナの心を蝕む。
「そう言う訳にはいきません。《生徒会》――――《王選学園生徒会》はアスナちゃんの事を、ただの〝お飾り〟程度としか思っていません」
「いや、お飾りって……」
「実際にそうですからね」
内心をぶちまけながら、ヤマトはアスナを庇う様に立つ。
「十才の子供が、強制的に〝政治〟を押し付ける。 それってどうかと思いますよ」
「いや、《姫様》を戦場に連れていくの方が、問題がありますよ!?」
こっちも正論だった。
「それでも―――――それがアスナちゃんの《意志》なら、僕はそれを尊重したい」
「……ヤマト」
アスナの胸が、心が軽くなる。
でも、ヤマトの立場が悪くなるのが怖くなってくる。
「………………」
ウルルは困惑する。
チラリと後ろを振り向き、お偉いさんとコンタクトを取る。
「…………(無理無理無理無理)」
「……はぁ」
結果は惨敗。
彼女は溜め息を付くしかない。
「分かりました。〝依頼〟を紹介させて頂きます」
もう折れざる得ない、そう言った感じでカウンターを後にする。
「―――――」
ヤマトに悪い事はない。
自分が望む事が出来る。
そう言う嬉しさが、アスナの胸いっぱいに溢れ出してくる。
「…………」
アスナの顔を見てたら、笑えてくる。
そんな風に、ヤマトも釣られた。
気分穏やかに待ってみると、ウルルが一枚の〝紙〟と一緒に戻ってきた。
「……ゴホン」
気を取り直して、ウルルは口頭で何かを伝え始めた。
「それでは、《姫様》。最近の〝外〟の状況、分かっていますか?」
「……? 何かあったの?」
「……あ」
何か心当たりがあるなと、ヤマトは思い出した。
「もしかして、〝部長〟が言ってたのって、これの事?」
「え?」
「ええ。まさしく、その通りです」
内容を察したウルルは頷く。
「〝外〟は今、大量の〝アンチ・グリード〟で対応が追われています」
「えぇ!?」
「その為、レベル三十以上の実力者には《緊急クエスト》を要請させて頂きます」
「そこまで?」
( その割にはずいぶん楽しそうなんだけど )
横目で見てるヤマトにアスナは呟く。
「……まず。何でわたしに伝えないの?」
「あー。たぶん、アカネちゃんが伝えるな。と言われたんでしょう」
「さすがに〝グリード〟相手に、一人で戦わないわよ。バカ」