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誰か翼のラクリマ  作者: 仲元心影
プロローグ
3/6

序章二話 朝十時の公園にて




――――午前十時になった頃。



 エメラルド王国の中心にある広場にて。



「………………」

 一人の少年は立っていた。


 短い茶髪ちゃぱつで、学ランの下に鉄アーマーを着ている少年。


 手元てもとにある〝ホロウィンドウ〟で、時間をつぶしていた。


「……はぁ」

 冒険者ぼうけんしゃみたいな学生が、ため息を付いた。



「――――ヤマト!!」

 その瞬間、アスナの呼び声が聞こえた。


「!」

 顔を向けると、アスナの姿が見えた。


 こっちに向かって、走っている。 



「……アスナちゃん」

 たどり着いたと同時に、手元にある〝ホロウィンドウ〟を閉じた。



「突然でごめんね。メールして」

 申し訳なさそうに、アスナは頬をかく。


「いいよ。友達と遊ぶのは、君の仕事だろ?」


「むっ」

 その言葉に、納得がいかない。



「ナチュラルに子供こどもあつかい……」


「あはは、ごめんごめん」

 そんな優しい笑顔を見せた、少年。



 その少年の名前は、ヤマト・タチバナ。


 五歳上の、アスナの相方あいかたである。




「………………」

 しばらくにらんでから、アスナは本題へと移っていく。



「……まぁ、いいわ。さっそくメールで言った用件なんだけど、聞いてくれる?」



「――――あぁ。そのために来たからな」

 優しい笑顔から、真剣しんけんな顔付きに変わっていく。


 それほどヤマトは、〝重大じゅうだいな事〟に気をかけていた。



「《ナーサリーシステム》――――――〝人の魂〟を読み取る、《禁断きんだん心象しんしょうシステム》」


「……」


「それについて起こる、《心象現象しんしょうげんしょう》」

 要点を語っていたヤマトの脳裏のうりに、〝とある人物〟が横切よこぎった。



「……《グリム》か、人か……よく分からないが……」

 当然の不安を抱くが、ヤマトはこう結論けつろんを出した。


「――――少なくとも、アスナちゃんの夢は《心象現象しんしょうげんしょう》で間違いないと思う」


「……そう」


( 当然と言えば、当然ね )


 ここは納得するしかない。


 アスナにも分からない、《現象》だから。 



「でも、結果オーライじゃない。新たな〝手がかり〟を掴んだんだし」


「でも、アスナちゃんが……」

 暗い顔を浮かべるヤマトは知っている。


 あの〝悲劇ひげき〟のせいで、アスナは――――――



「…………」

 その顔を見たアスナは、こう返した。


「大丈夫だよ。別に〝悪夢あくむ〟を見た訳じゃないし」

 今までと同じ、笑顔を向けて。



「…………」


「それに、ね」

 アスナは〝あの夢〟を思い返す。



「わたし、思ったの」

 〝あの夢〟で、感じた事を。



「〝あの人〟はまだ、戦ってるんだって」



「……!」

 その言葉に、その表情に。


 ヤマトは気付いた。



「〝あの人〟は――――《ユイコ》さんは、絶対生きてるって」

 アスナの心の支えになっている、〝恩人の存在〟を。



「だから」

 だから、アスナは言う。



「わたしが絶対に―――――《クリア》してみせる。この《世界》から、抜け出す為に……!!」



「――――――」

 それが()()、《()()()》だったら?


 その可能性が、一瞬浮かんだ。


 でも。




『――――――』

 あの〝悲劇〟で、彼女は言った。


 ()()()〝少女〟を、《否定》する様に。


 ()()()()〝少女〟を、《肯定》する様に。



( だから、〝ちかったんだ〟 )



 彼女と共有きょうゆうする思い出。



( アスナを守る。それが、〝あの人〟にとっての――――――《約束》だ )


 彼もまた、ユイコに救われた者の一人だ。



「………………」

 こんな決意けついあふれた女の子に、()()()()()()()()訳にはいかない。


 たとえ地獄でも、今度こそは絶対に、守られなければならない。



「…………」

 だから笑って、ヤマトは答えた。



「わたしが、じゃなくて。〝わたしたち〟が、でしょ?」



「――――」

 アスナは呆気あっけに取られてしまった。



「……そんな事ないわ」

 少し時間かかったけど、アスナはこう返した。



「だってヤマトは、わたしの〝相棒〟だもの」

 ニコッとした笑顔が一番まぶしい。


 そんなアスナと笑い合って、ヤマトは手を伸ばす。



「――――行こう、アスナちゃん」


「……? どこに?」



「〝部長ぶちょう〟が、部費ぶひを稼いでくれだってさ」

 アスナの不思議そうな顔から、驚きの顔に変わった。



「えー、またぁ!? どんだけ減らしてくるのよ、あの《生徒会》!」


「……まぁ、変な事しかしてないからね。うちの部は」

 アスナの叫び声で、苦くしてしまったが。



 〝とある部長〟も頑張っていると思いたいので。



「と言う訳で、仕事に行くよ」


「……分かったよ、もぉー」

 気に食わない様子だったが、アスナはヤマトの後ろを付いていった。






――――これが、僕にできる《唯一の肯定せんたく》だ










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