家1
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京都市、とある山奥にある真浄宗総本山″天龍院″──
ここは対魑魅魍魎専門の寺院である。日本に数多く存在する寺院の中でも最大、最高クラスの寺院であり連日、魑魅魍魎に関する依頼が絶えない場所であり且つ、龍の実家である。
寺院には総勢1000名以上の信徒や僧侶がおり、日夜対魑魅魍魎を想定し修行に励んでいる。
その拝殿(本殿の前の参拝する場所)に高位の僧侶達が集まり会議を開いていた。龍もまた暇そうに会議に参加していた。
物々しい沈黙の中、緋色の布衣を纏った坊主頭の大僧正であり龍の実父、星谷光輝が口を開いた。
「それでは、これより定例会議を始める。報告のある者はいるか。」
中僧正が口を開く。
「ハッ、先日のランク2の怪異の件は三人の僧侶達のお陰で無事、処理が完了いたしました。そして本日新たに入った依頼、『高速道路に現れる火車』についてはまた新たに三人の僧侶達を向かわせる予定です。」
「うむ」
ランクとは──
怪異にもどの程度の規模かを定めるランクがある。
それぞれ
ランク1・・・・一人、または二人の僧侶がいれば祓えるレベル
ランク2・・・・数人の手練れの僧侶がいれば祓えるレベル
ランク3・・・・数人、または十数人の僧侶で大儀式や大祓えをしなければいけないレベル
ランク4・・・・数十人の僧侶達、さらには自衛隊にまで応援を要請しなければいけないレベル
ランク5・・・・国の危機。放置すれば国が滅びるレベル
さらにその上がもう一つ───
「続きまして──」
そこで、血相を変えて小僧正が飛び込んできた。
「大僧正様!大変です!」
「落ち着け。何事だ」
「ハッ、し、失礼しました。たった今、『鵺』の大祓えをしていた僧侶達から連絡が入り、儀式は失敗、二名負傷、一般人にも被害が出ているとの事です!」
「現場には動ける僧侶は何名残っている?」
「あと二人います!」
「わかった。これよりその鵺をランク3相当と見做す。直ちに数名の手練れの僧侶達を向かわせろ。残った僧侶らは結界を張って応援が来るまで持ち堪えさせろ。これ以上鵺に暴れさせるな」
「わかりました!」
小僧正は慌てて去っていった。
「中僧正、続きを」
「ハッ、一週間ほど前に依頼があった『呪われた家』についてですが六名の僧侶達を向かわせ大祓えをしたのですが未だ成果が得られず、現地の僧侶達からは連絡が取れません」
「そうか……わかった、その件はランク4と見做し、龍を向かわせる。よいな、龍?」
そこで話を振られた龍は「へ〜い」と一言だけ返事をした。
「蓮も連れて行け。お前一人では何をしでかすかわからん」
大僧正がそう言うと一瞬、場がざわついた。
「るっせーな、わーってるよ。」
龍は「んじゃ、ちょっくら行ってくるわ」と言うと拝殿を後にした。
会議の場はしばし沈黙していた。そんな時、紫の布衣を纏った権大僧正(大僧正の一つ下の階級の僧侶)が物々しく口を開いた。
「大僧正、いい加減アレは処分すべきかと。」
別の権大僧正が口を開く。
「然り。我ら真浄宗の沽券にも関わります。いくら我らの庇護下にあるとはいえ、いつ、牙を剥くかわかったものではありませぬ」
中僧正が口を開く。
「しかし、アレに牙を剥かれたら我々では到底太刀打ち出来ぬのもまた現実…」
権大僧正が顔を赤らめながら反論する。
「フンッ!我ら真浄宗の総力をもってすればあんなものどうとでも──」
「アレの力は最早当時の比ではありませんぞ?幾つかの依頼をこなし順当に力を付けている様子……そもそも当時ですら龍様がいなければどうにもならなかったではありませんか!」
「それは我々だってそうだ!今や最新の法具に最新鋭の僧侶達……各地に散らばっておる同胞達を集めれば万を越えよう!討伐するなら早い方が良いのだ!」
別の中僧正が口を開く。
「最悪、バチカンのあの聖女の力を借りると言う手も──」
権大僧正が顔を真っ赤にしながら反論した。
「馬鹿を言うな!我らの力だけで討たねば意味がないではないか!外国に借りを作るなど論外だ!」
「しかし…」「いや…」「でも…」と、会議が熱を帯びはじめた。今までも何度も出た話題……大僧正もまたか…と言った感じだった
そんな時、今まで黙って聞いていた大僧正が厳かに口を開いた。
「静まれ!」
大僧正の覇気が拝殿に響き渡り、辺りは水を打ったような静けさに包まれた。
「蓮の件は龍に一任してある。確かに暴れ出す危険性も無い訳ではない。だが近況を見ればわかるようにすぐにどうこうと言う話でもあるまい。確かに我々だけでは対処は難しいということもある。したがって、まだしばらくは現状維持……様子見ということでよいな?権大僧正」
権大僧正は何か言いたげであったが「ハッ」と一言返事をし、頭を垂れるとそれ以降声を上げることはなかった。
「皆のものもそれでよいな?」
「ハッ」と勢いよく返事が上がった。
「ではこれで、本日の会議を終了する。皆のもの、ご苦労であった。」
所変わってここは喫茶店″百鬼夜行″
天龍院の目と鼻の先にある魑魅魍魎専門の喫茶店だ。
客は主に現世を彷徨う無害な霊や害のない河童や座敷童子、小豆洗いと言った妖怪達……ごく稀に魑魅魍魎が見える一般人も来るが──といった人?達だ。
働いているのは昔、蓮が沖縄で蟹坊主というカニのような妖怪に襲われていた所を助けたら懐かれてしまった3匹の小さな緑色の毛に覆われた玉のようなキジムナーという妖怪と、これまた北海道でラプスカムイという怪鳥の妖怪に襲われていた所を助けたら懐かれてしまった座敷童子に似たコロポックルという妖怪だ。
蓮と四匹の小さな妖怪達が日々忙しなく働いている。
今日の客は常連の老齢の河童とこれまた常連の大昔の戦争で亡くなり、彷徨う浮遊霊の二人の兵隊達だ。
テーブル席に座った兵隊達がのんびりと会話している。
「いや〜やっぱり午後はここのコーヒーに限りますなぁ」
「そうでありますなぁ」
他愛のない会話をしながらゆっくりとコーヒーを啜っている。
「ややっ!蓮殿、またコーヒーの腕前が上がりましたか!?さらにコクが増したと言うか…」
「ん?いや、いつもと変わらない筈だけど……」
「蓮殿、お気に召されるな。此奴は通ぶりたいだけなのだ」
「よいではないか!自分は最近本当にコーヒーに精通してきたのであります!」
「やれやれ……怪しいものだ」
「本当であります!」
蓮が「ハハハ」と笑っているとカランカランとドアを開けるベルが鳴った。
コロポックルが元気よくお客さんを迎える。
「いらっしゃいませなのっ!」
続いてキジムナー達が迎える。
「いらっしゃいませでやんす!」
「やんす!」
「やんす!」
入ってきたのは龍だった。
「よぅ、チビ共、元気かー?」
「あっ、龍なの!マスター、龍がきたのー!」
「あぁ、龍。いらっしゃい。」
「おう、仕事だ。行くぞ……の前に俺もコーヒー一杯貰うわ」
「はいよ」
龍はカウンターに腰掛ける。仕事前にこうして蓮の店で一杯飲みながら情報交換、最早見慣れた光景だった。
「今回の仕事はランク4相当だとよ」
「そっか…ターゲットは?」
「家だ」
「家?」
「あぁ、何でも大祓えでも祓えんらしい。『呪われた家』だとよ」
「ふーん、なんか訳ありっぽいね」
「んなもん、吹き飛ばして終わりでいーんだよ」
「ハハッ、ダメだよ龍。しっかりやらないと光輝さんに怒られるよ?」
「へいへい」
龍がコーヒーを飲み終えると蓮は準備をし始めた。
「マスター、お仕事なの?」
「うん、ちょっと行ってくるよ。店番頼むね、ポックル」
「はいなのっ!」
「キジムン達も後はよろしくね。あんまりサボっちゃダメだよ?」
「サ、サボらないでやんす!」
「やんす!」
「やんす!」
「じゃあ、行ってくるね。」
「行ってらっしゃいなの!」
「行ってらっしゃいでやんす!」
「やんす!」
「やんす!」
二人は『呪われた家』へと向かっていった。
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