プロローグ2
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廃校内……一人の男が歩いていた。男は身長170cmほどで整った顔立ち、黒いロングコートを羽織り黒縁の眼鏡をかけ髪にはパーマがかかった所謂最近の若者、といった風だった。
男は廃校内1階の探索を終え、2階に上がっていった。
コツコツ…と自分の足音だけが響く廃校。今は夜だが月明かりのおかけでほんのりと明るい。男が懐中電灯も持たず探索できているのは正しく、月明かりのお陰だった。
男は2階にたどり着くとふと、足を止めた。包み込む静寂……月明かりで照らされているとはいえやはり夜の廃校は不気味な雰囲気だった。廊下の奥の方は月明かりが届かず漆黒の闇が広がっていた。
すると、そんな廊下の奥からペタ…ペタ…という音が聞こえた。
ナニカ居る。
ペタ…ペタ……ペタ…ペタと音はゆっくりと、しかし確実に男の方へと近づいていた。
そして、月明かりに照らされその姿が露わになった。
ソレは明らかに人ではなかった。
上半身は辛うじて人の形をしていたが下半身が無い。両の腕だけで己の上半身を支え、ペタペタと歩いているのだ。
そして、その化物は男に気付いたのかピタリと止まった。
長い黒髪が顔を覆っているせいでどこを向いているかわからないがおそらく男の方を凝視しているのだろう、そんな気がした。
男もまた、微動だにせずその場で化け物を観察していた。
すると化物は両腕を曲げ、何やら力を溜め始める姿勢をとった。
そして次の瞬間、突如として化け物が男に向かって突進してきた。
しかも尋常ではないスピード、常人ならまず反応できない音速の領域だった。
衝撃波が発生し化物が移動した場所は抉れ、2階の窓ガラスがバシャーンというけたたましい音を立てて一斉に割れた。
男との距離を一気に詰め、化物が左腕をまるでギロチンのように突き出し男の胴体を両断せんと迫った。
通常、音速で物体が飛来すればどんな小さなものでも当たれば致命傷だ。
例えばそれが人間の腕だった場合、それが胴体に当たった瞬間上半身と下半身は真っ二つになるだろう。
ましてや化物の腕だ、結果は明白だった。
化物が男との間を通り過ぎるとドサッという音がした。
男の上半身は下半身とわかれ、下半身から血が噴水のように飛び出し、その男の上半身が廊下に落ちた音だった──
かと思われた。
しかし実際、落ちたのは化物のほうだった。
男の体を両断せんと迫った左腕が無くなっている。
何故?化物は無くなった自分の左腕を見て思った。
コツ…コツ…と男がゆっくりと化物の方に迫る。
化物は器用に右腕だけで立ち上がり、今度はその右腕をバネにし男に飛びかかった。
そして、今度は男の心臓目がけて右腕を突き出し貫いた。
化物の右腕は確かに男に突き刺さっている。
が、背中を貫通していない…それどころか血の一滴すら流れていない。化物は右腕を引き抜こうとした──が抜けない…それどころか徐々に男の体に沈んでいる。
化物はもがくがまるで底なし沼で暴れるが如し、何の意味もなく徐々に沈んでいく。
男が抱きしめるように両手を化物の背後に回し、そのまま自分の体に押し込んでいく。
そして頭まで沈む直前―
「さようなら」
という声が聞こえた。
化物は完全に消え、辺りを静寂が包んだ…かに思われた。
男が登ってきた階段のほうから音がした。
コツコツ、ジャラジャラとまるで緊張感のない階段を上がる音。
男はこの音の正体については検討がついているのかまるで警戒している素振りを見せない。
そして、音が男の背後で止まった。
「よぉ、そっちは終わったか?蓮」
蓮と呼ばれた男が振り返る。
「今終わったとこだよ。そっちはどう?龍」
龍と呼ばれた男が答える。
「こっちは3匹片付けた。お前は?」
「こっちも3匹。何を倒したの?こっちは『トイレの花子さん』『走る人体模型』今さっき『テケテケ』を倒した所だよ」
「こっちは廃校付近の『落武者』『カシマさん』『口裂け女』だ。あと1匹か…」
「『大百足』だね」
「何処に居んだよそんなの」
「さぁ?妖気はうっすらと感じるけど…何処に居るんだろうね?」
「俺が聞いてんだよ!」
そんなやりとりをしていると突然、廃校が揺れ始めた。
「あ?なんだ?」
「運動場のほうからだね」
二人は外に出た。するとけたたましい地響きと共に地面が盛り上がりそこからとてつもなく巨大な大百足が姿を現した。
大百足は全長300mほどだろうか、廃校に巻き付いても余りある大きさだった。
常人なら一目散に逃げ、自衛隊に助けを求めるレベルの化物百足…そんな化物を目の前にしても二人は冷静だった。
「なるほど。地中深くに居たからこんな大きな妖気でもあまり感じとれなかったのか…」
「俺がやる。最近体動かしてねーから鈍っちまう」
「いいけど消し飛ばさないでね。これは僕が貰う」
「チッ、しゃーねーな」
そんな会話をしていると大百足がまるで鞭のように体をしならせ尻尾を二人目がけて振り下ろしてきた。
二人はそれぞれ別の方向に回避した。
蓮は飛び退き、そのまま傍観を決め込み龍は一気に跳躍し300mはあろう大百足のさらに頭上を取った。
そして──
「オラァ!」
龍は大百足の頭目がけて手に持った錫杖を振り下ろした。
すると、ドゴンッ!という音と共に大百足の頭は地面が抉れるほどに思い切り叩きつけられ、そしてピクピクと痙攣していた
「おいおい、一発かよ…もちっと粘れや。つまんねーな」
「お疲れ様」
蓮が歩いてきた。
「じゃあ、コレは僕が貰うから」
「好きにしろ」
そう蓮が言うと蓮の足元から真っ黒な水溜りのような漆黒の闇が広がった。月夜なため幾分かマシだがそれでも、夜闇よりもさらに昏く、深い闇──その闇が大百足の体より大きく広がるとやがてズブズブとその闇に大百足を沈めていった。
そして闇は蓮の足元に戻っていき、後には大百足の姿はキレイサッパリなくなっていた。
「ふぅ…とりあえず終わったかな」
「あぁ…あとは元凶だけだ」
二人が会話しているとどこからともなく一人の女の子がシクシク…と泣きながら二人の方へ向かって歩いてきた。
女の子は今の時代に似つかわしくない昔の格好で防空頭巾を被っていた。そして小さな妖気を纏っていた。というよりこれは大きかった妖気が削がれて小さくなってしまったという感じだった。恐らくこの廃校に出た数々の化け物は彼女が己の妖気を使って生み出してしまったものだろう。間違いなく生きている人間ではない。だが敵意といったものもまたなかった。
「……君がこの廃校に住まうものだね?大丈夫かい?」
女の子は相変わらずシクシクと泣いている。
「コラ、ガキんちょ、泣いてるだけじゃわかんねーだろ」
女の子はビクリと跳ね上がり余計に泣き出してしまった。
「ご、ごめんね!このお兄ちゃんはちょっとその…なんていうか…頭が悪いんだ…」
「直球じゃねぇか殺すぞ」
「さぁ、ゆっくり話してごらん?どうして君はこんなことになってしまったんだい?」
女の子はゆっくりと話し始めた。
「私、昔から一人だったから……友達が欲しかっただけなの…わた、私はここでずっと一人で……ヒック……本当にそれだけなの…なのにどんどん力が付いてきて……私一人じゃどうしようもなかったの…」
「そっか…大変だったね。君はここでその…亡くなったのかい?」
女の子はコクリと頷いた。
「…昔、火事が起きてそれで……」
「そっかそっか。嫌な事を思い出させてごめんね。もう大丈夫だよ。あとはお兄さん達に任せて君はお帰り」
「一人は…嫌…」
「一人じゃないさ。僕達はもう友達なんだから。ねぇ、龍」
蓮は龍に視線を送る。それに釣られて女の子も。
龍は少しバツが悪そうに頭を掻きこう答えた。
「あぁ、友達だ」
女の子の顔が少し明るくなった。
「君、名前はなんて言うんだい?」
「美緒…」
「美緒ちゃんか…いい名前だね。向こうに行ったら、よかったら僕の娘とも友達になってくれないかい?」
「………」
「お名前はなんて言うの?」
「向日葵って言うんだ」
「わかった。向日葵ちゃんね」
「うん、仲良くしてくれると嬉しいな…あ、そうだ!寂しくないようにぬいぐるみも沢山買ってあげるよ」
美緒の顔がパァッと明るくなった。
「ホントぉ!?」
「うん、ホントだよ」
「わーいわーい!」
「あっちに行ったら少し待っててね。お兄ちゃん達もすぐに行くからね」
「わかった!約束だよ!」
「うん、約束」
すると女の子は「ありがとう」「バイバーイ」、と言いながら大きく手を振りゆっくりと消えていった。
「……さて、今回の依頼はこれでとりあえずは終了かな。……あの女の子があそこまでの力を付けたのは──」
「まぁ、十中八九″噂″のせいだろうな」
「はぁ…やれやれ…」
蓮はため息をついた。
何はともあれ後は今回の依頼主に事の顛末を話して終了だ。
二人は帰路についた。
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