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第四十五話:さよなら


幻、まぼろし、マボロシ。ぼくが、作り出した、幻。

コンポーザーはクオリアさんに目配せをする。クオリアさんは頭を掻きながら、口を開いた。

「悪いな、今まで黙ってて。けれどこいつの言っていることは本当だ。この世界も、俺も、こいつも、全部お前の作り上げた幻なんだよ。だから、お前にとって都合のいいことしか起きないし、言わない。当たり前だよな。お前が作り上げたものなんだから」

コンポーザーが続いて話し始める。

「世界が自分を見てくれない、といっていますが、あなた自身は世界を見ているのでしょうか。語りかけてもらう前に、果たしてあなたは世界に語りかけているでしょうか。自分の世界に閉じこもり、私たちを生み出し、世界を見ようとしない。あなたは逃げているんですよ。世界と向き合う事から、そして、他者と触れ合う事から。だから……」

コンポーザ―のタギングで、一つの扉が現れた。

「元の世界に戻ってください、あなたのために、そして、私たちのために」


現実世界への扉が開く。

真っ暗なそのドアの向こうに、元の世界がある。

身が、すくんだ。けれど、戻らないといけない。

解っている。けれど。

「最後に一つだけ聞いていいですか?」

クオリアさんとコンポーザーはうなずく。

「今、ぼくはとても寂しいんです。二人にもう会えないかもしれないって思うと、胸の奥が締め付けられるようで、苦しいんです。でも、この感情も、幻なんでしょうか、ぼくが作った、偽物なんでしょうか」

目のあたりが熱くなって、視界が揺らめき、なにか暖かいものが頬を伝った。なんだかたまらなくなって、胸の奥から絞り出したような嗚咽が、どうしても止まらなかった。

「寂しいこと言うなよ」

クオリアさんの声が聞こえる。

「たしかに俺らはお前の作った幻だけどよ。偽物じゃあないぜ。お前が感じているその感情は、お前自身のものだ。嘘偽りなんかじゃない。俺たちとはもうあわない方がいいけれど、俺たちは消える訳じゃない。お前の心の中で生き続ける。常にお前のそばにいる。常に、お前の味方でいる。だから、心配するな」

クオリアさんは、ぼくにハグをしてくれた。幻だけれど、偽物ではない。だって、こんなに暖かいのだから。

「クオリアさん、カジ君。短い間だったけれど、さよなら。それと、ありがとう」

ぼくは、暗い扉の中へ、足を踏み入れた。


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