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7.アルマジロは、かわいそうなほどガタガタ震えながら




 アルマジロは、かわいそうなほどガタガタ震えながら、つぶらな瞳を涙でいっぱいにしている。

 なぜだろう、アホだし人に迷惑をかけるしどうしようもないのだが、見ていると、不思議と何とかしてやりたいという気になってしまうアルマジロである。

 この調子で、店主も見捨てられずにあれやこれや世話してやっていたのだろうか。なんだかんだで得な性格をしているのかもしれない。

 意外に店主も絆される可能性があるかもな、とわたしはアルマジロ専用のかわいいコーヒーカップを思い出しながら考えた。

 カタツムリの美醜は分からないけれど、少なくとも人間のわたしから見ても店主はかわいいし、イケメンだと思う。朗らかだし、よく気がつくし優しいし。結婚するならああいう人がいいかもしれない——いや、人じゃないんだけど。


「おい、なんか言ってくれよぉ!」


 アルマジロの悲痛な叫び声で、我にかえった。


「うん、ごめん。」


「何がだよぉ!」


 いや、あまりにアルマジロが取り乱しているせいで、なんだか妙に落ち着いてしまったのだ。

 最初に壁にぶち当たった後にも、このアルマジロが一緒にいてくれたならよかったのにと思うくらいだ。


「前マスターと来たときは、すぐ元のカフェに戻れたから、そんなに心配することないと思うよ。」


 それがどういうメカニズムなのか、そして今回も同じかどうかは分からないが。


「んだとぉ! 2人っきりで来たってことかよぉ!?」


 途端にアルマジロは元気になった。


「そうだよ。まあ、わたしとマスターはそういう関係じゃないけどね。」


「それはなんとなく分かってるよぉ! でも、それでも羨ましいんだよぉ!」


 アルマジロは地団駄を踏んだ。

 なるほど。


「そこは分かってくれてたんだ……。とんでもない勘違い野郎だと思ってた。」


「あぁ!?」


 アルマジロが凄んで見せるが、ぜんぜん怖くない。むしろ、これくらい元気でいてくれた方が心配しなくてよくて助かる。わたしは、これからも適度に煽っていく方針でいこうと決めた。


 それにしても。


「さっき、マスターが勇者の話してたでしょ。」


「あ? ああ。」


「あれなんだけどね、ここが勇者しか入れない森じゃないかってマスターが言い出したせいで、そんな話になったんだよね。

 アルマジロさんはどう? そんな感じする?」


 アルマジロは、ぽかんとした顔になった。


「あの人がそういうなら、そうかもしんねぇけど。

 だけど、勇者しか入れない森なんだろ? それなら俺もお前も入れてるのおかしいじゃん。」


 思いのほか真っ当な意見が返ってきた。


「……だよねー。」


 ぐるりと、あたりを見回す。

 なんの変哲もない森に見える。すこし薄暗いのが不気味といえば不気味だが、とくに邪悪な気配もないし、吸い続けると肺が腐るような瘴気などが漂っているわけでもない。

 足元を、アリンコが通り過ぎていく。普通のアリである。ダンゴムシもいる。


 ——平和だ。


 巨大な魔物が出るんです、なんて言ったら笑われてしまいそうだ。


「なに、お前まさか、新しい勇者なの?」


 アルマジロが、目をぱちくりさせながらこちらを見た。

 なんと答えるべきか。


「あー……、わからないんだけど。マスターに職業欄を見せたら、どうも、『壁の勇者の卵』って書いてあったみたい。」


「お、おおぉ! お前、スゲーじゃん!」


 アルマジロは、目をきらきらさせて叫んだ。


「勇者の卵なんて、かなりレアだぜ。特に今は勇者がいなくなっちまったから、かなり優遇されるんじゃねぇ?」


「優遇?」


「ここに定住してるやつは、大抵マルセイってやつに参加してるんだけどさ。そこじゃ職業によっては優遇措置があるんだよ。その分負担も重くなるんだけど。」


 マルセイって、あれか。マスターが言っていた、ちょっと共産主義的なシステムのことか。


 負担が重くなるって、なんだろう。

 なんだか嫌な感じがする。


 大体、わたしが生きていた世界では、そういうシステムを採用している社会には弊害も多かった。

 権力の集中による汚職や粛清、個人の自由の制限に、行き過ぎた監視などだ。

 心霊現象的なものももちろん怖いが、そういう現実的な話も十分怖い。


 カタツムリやアルマジロが善良そうだったのであまり気にならなかったのだが、マルセイといいマイナンバー・タグといい、ここはもしかしてディストピアなのだろうか?


「いや、何かの間違いだと思うんだけどね。だいたいわたしみたいな貧弱な人間が、魔物と戦えるわけないし。アルマジロさんみたいな防御力もないし、無理だよ。」


「うーん。」


 アルマジロはうなった。


「でも、少なくとも、職業欄に関しては、間違いなんてありえねぇはずだけどな。

 それに、勇者は固有の特殊能力を使って魔物を討つって話だぜ。肉体の能力は関係ねぇって。」


「そうそう。分かってるね〜。」


「へへっ、まあな。俺もガキの頃には勇者に憧れたこともある……あ!?」


 アルマジロが絶句した。


「お、おい、お前、コレ、お、お、」


 アルマジロは、わたしの背後を指差しながら後ずさる。


 ああ、やだ。すごくやだ。振り返りたくない。絶対に振り返りたくない。


 しかし、涙目のアルマジロは、親切にも絶叫した。


「なんなんだよおおおぉ! そのモジャモジャはぁ!」


「いやああああああ! 言わないでよおおぉ!」


 わたしは耳を押さえながら逃げだそうとしたが、目の前にはアルマジロがいた。


「いったい!」

「何すんだよぉ!」


 もつれあって転がるわたしたちの背に、邪悪な笑い声が降りかかる。


「まあまあ、そんなに慌てないでよ。時間はたっぷりあるんだ、お話でもしよう?」


 ——いやです。

次の更新は、7日の予定です。

ここまで読んでくださってありがとうございます!

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