89.暫定処遇(side:カクテュス)
20名の騎士が品定め期間に入った翌日、ナルシスと当主たちの処遇をどうするか相談の場が持たれていた
「今回の処遇はあくまでフジェに攻め入ったことに対してのものですよね?」
「そうだ。当主及び、その家族への処遇となる。攻め入った当人でないとは言え止めなかった責任は軽視できんからな」
「そうですね。称号持ち故に当主の行動は家の行動ともとれる」
「今回はその点に重点を置く。召喚した者に対する4国の取り決めに関する処遇は別の機会で話し合う」
「では、一度ここで処遇が決ったとしても変更もしくは追加があると?」
「そう思ってもらって構わない。ただ、オナグルに関してはクロキュスの怒りを鎮めるために暫定の処遇ではあるが3か月を期限として鉱山に送っている」
モーヴの言葉にその場が静まり返った
「3か月という期間に理由はあるのでしょうか?」
「クロキュスの怒りによる二次災害を防ぐための期間だな」
「クロキュス殿の怒りによる二次災害とは?」
「恥ずかしながらあれは“戦場の悪魔”の異名を持っておる」
モーヴは苦笑しながらそう言った
その二つ名にその場がざわついた
この場にいるのは主要な王族とその側近、国の方針を定める際に召集される議員達、そして騎士団と魔術師団の団長と副団長である
先の騎士に関しては騎士団とモーヴに一任するというのが議会の決定だったが、ナルシスという王が関わっている為この場が設けられたのだ
「クロキュスの嫁であり、召喚されし者でもあるオリビエはフジェで傷を負い3日間目を覚まさなかった。その最中の殺気があまりにも凄くてな」
「どう転んでも軽い処遇で済むはずがないことから一旦鉱山に送った次第だ」
「ナルシス自身も牢で喚いてうるさかったのでこれで少しは静かになってくれればいいのですがね」
ため息交じりに零すのはスキットだ
「すべてが落ち着くまでは色々と大変そうだな」
「ならば少しでも片付けるとするか」
先王のジャスマンとその三男アネモンが苦笑交じりに言うとその場が一瞬だけ静まった
「奴らが屈辱と感じることをしてやりたいものだがな」
「フジェは長年取り残されてきた町だろう?その上攻め入るなど許せることではない」
民を守るべき王族のすべきことではない
その想いをこの場にいるほぼすべての者が持っていた
「しかもクロキュスとオリビエがいる町だ」
「クロキュス…シティスの忘れ形見か」
「ようやく会うことが出来た甥だ」
モーヴは吐き捨てるように言った
「その大切な甥のソル エ ユニークであり、妻でもあるオリビエは幼子を庇い、愚かな騎士の毒刃に傷つけられている」
「実はうちのシュロもクロキュスの屋敷でお世話になってるのよね」
そう口を挟んだのはシュロの母親であるラミだった
「つまりフジェには今王族が3人いるということか?」
「そうなりますね。ナルシスとオナグルはよほど死にたいらしい」
スキットが歪んだ笑みを見せた
「フジェでは先のスタンピードで国からの援助を受けられなかったと聞く。民の怒りはまだ静まっていないのでは?」
「家族を失った者もおりましょう」
「その者達の心が穏やかであるはずがない」
口々に出て来る言葉には一様に怒りがこもっていた
「国が形をなさなくなった以上資産没収だけでは意味がない。肉体的・精神的に苦痛を伴う罰となると…」
「…フジェから近隣の町への道の整地などはいかがでしょう?肉体労働ですし、何よりフジェの町の為になる」
「なるほど。近隣の町への道中の整地なら無駄にはならんかもしれんな」
「これまで汗水たらして何かをしたことなどないような連中だ。精神的にもきつかろう。しかもそれがかつて自分たちの見捨てていた民たちのための物であれば猶更な」
魔術でも可能な作業でありながらあえて彼らにさせるというのだから質が悪い
「しかし整地に時間がかかりすぎても困ります」
「馬車が通れる程度には拓いてあるから既に行き来は出来るのだったか?」
「そうですね。激しい揺れを我慢しさえすれば、ではありますが」
「ならば3国との協議で処罰が決るまでとすればよいのでは?」
「協議後、奴らの目の前で魔術師団が一気に総仕上げをする、なんていかがでしょう」
黒い笑みを浮かべながらそう言ったスキットを見てモーヴは休みを取らせるべきだろうかと真剣に考えた
「当主と家族の中でも成人した男たちには整備を、それ以外はあの塀の中で畑を作らせましょう」
「畑?」
「そう言えば農地はそれなりにありましたね。」
「その農地を区画ごとに分け与えて管理させましょう。収穫できたものはフジェに運べば買い取る。勿論チップを埋め込んで逃走防止の対策もしたうえでね」
「自分たちで食いつくすんじゃないか?」
「そうしたければ勝手にすればいいわ。買い取りは20個単位。対価は固定でサイズや育てやすさによって1000シア~1500シア。それと次に植える種なんてどうかしら?」
「なるほど。そうしておけば自分たちで消費し過ぎたら次を育てられなくなるってことか」
「出荷の量を固定にして1つでも減っていれば買取価格を半値にするのもいいかもしれませんね」
これまでと逆の立場になる上に、悪だくみは通用しない
称号があるというだけで称号のない平民から強奪するかのようにあらゆるものを巻き上げて来た者達にとっては耐えがたいことだろう
「整地の者の衣食住はどうするのだ?」
「食事は使用人に与えていたモノと同等でよろしいのでは?酷い所では3食、固いバンと屑野菜のスープだけというところもあったようですが」
「住む場所も小屋で充分かと。敷物と毛布、枕程度であれば囚人用の物を回せるでしょう」
「衣類も囚人用と同じものを同等の3セットずつ。井戸を設けておけば洗濯も可能でしょう。奴らに洗濯ができるかは知りませんがね」
誰も囚人と断定はしていない
でも扱いはそれと同等だと暗黙の了解がなされていた
さらなる詳細はその日のうちにまとめられ、翌日から行動に移された