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88.騎士達の処遇(side:カクテュス)

「そういえばクロキュスから元精鋭が必要なら一部こちらに回すと言って来てるぞ。特攻だった者は家族と共に来て家も確保してるから難しいらしいがな」

「確か10名でしたか?」

「ああ。今はフジェにいる。動かすとしても3国の裁きが終わってからになる」

「ではクロキュス様かダビア殿の指導を直接受けたことがある者がいればその者を回していただきたい」

「間接的にでも学びたいということか?」

そう問われたソルトは照れ臭そうに笑って誤魔化した


「そんな周りくどいことをせずとも手合わせを頼んでみるか?たまにこっちに顔を出すらしいからな」

思わぬところに甥の信者がいたとモーヴは楽しそうに笑う


「まぁそれはおいおい考えればいい。必要ならフジェに足を運んでも構わんぞ。山をぶち抜いたおかげで近くなった。万が一緊急事態があっても常駐している魔術士に飛ばしてもらえばいい」

その言葉には驚きながらも嬉しそうな顔をする

きっと近いうちにソルトはフジェに乗り込むだろう


「とにかく騎士の件は頼んだぞ。対象の者は魔術師団で聞いてくれ」

「承知しました」

去っていくソルトを見てスキットは苦笑する


「よほどクロキュス様を気に入っていると見える」

「あれは以前クロキュスとダビアに助けられたらしいからな」

「そのようなことが?」

「2つ前のスタンピードの時と言っていたはずだ」

「2つ前というと…ソンシティヴュから協力要請を受けての?クロキュス様はまだ成人したての頃だったはず…」

思い出すように言う


「そういうことだ。まぁ、当時から変な異名は持っていたようだが」

「“戦場の悪魔”ですね。今回オリビエ様が傷を負った際にその片鱗を見せたとか。居合わせた者達が聞いていた以上だったと口をそろえていたようです」

「弱き者はその姿を見ただけで戦意喪失するらしいからな。一度この目で見てみたいものだ」

「それは…国の存亡にかかわりそうなのでおやめいただきたい」

スキットの言葉にモーヴはおかしそうに笑った


「とにかくだ、騎士達の最低討伐数を100とする。こっちに置かないと決定したとしても、それをクリアするまで魔物狩りに参加させる」

「使えなくても100をクリアしてから国に帰すということですね?」

「ああ。手配は任せる。あとはあやつられていた当主とその家族、自ら参加した者か」

「当主以外は傭兵と同様、財産・資産没収の上鉱山でよろしいかと。いくら操られた当主の指示としても皆成人した者ですから」

傭兵は雇った者の聞き取りだけ済ませ、財産を没収した上で既に鉱山へ送られている

逃亡防止の魔術を施されるため逃げ出すことも叶わず、過酷な肉体労働をその命が尽きるまで行うことになる

即答されモーヴは豪快に笑い出す

たとえ当主命令だとしても自らが参加しないという選択肢を選ぶことは出来たのだ

フジェで捕縛し、こちらに連れて来てからも直接対応してきたことを考えると、相当腹立たしい連中なのだろう


「まぁいい。鉱山行きの手配を。家からは…財産の半分を没収して一旦開放する。没収した金は亡命してきた者の支援に当てる」

「半分でよろしいので?」

「今は、な」

今はという言葉にスキットは苦笑しながら頷いた


「管財人を抱きこむならその費用は各家から追加で没収だ。王族の拘束はどうなっている?」

「城に残る王族は例の正妃のみです。正妃は城の牢に入れました。ゴールド4家は暗部が見張っていますのでいつでも取り押さえることが出来ます」

「相変わらず徹底してるな?」

聞いていないが気になっていることを先に報告されたモーヴはニヤリと笑う


「おほめにあずかり光栄です。ただ、城にいた使用人も牢に入れましたが少し気になる者が」

「申せ」

「称号なしのメイドが2名、オナグルの私室に繋がれておりました」

「つながれていた?称号なしはクロキュスの計画で皆城を出たと思っていたが?」

以前起こした感染症事件で称号なしには全て逃げる手段があったはず

実際かなりの者が城から逃げ出したという報告は既に受けている


「女性騎士に話を聞かせたところ、身寄りもなくオナグルに手籠めにされていたことで、例の計画の際も行くあてがなく残ったのだと。今回オナグルが出発する直前に枷を嵌めて逃げられないように繋がれたようです」

「今はどうしている?」

「女性騎士に面倒を見させています。彼女曰く…そういった女性が安心して暮らせる場所があればと」

そういった女性

それはメイドのようなケースの他に、盗賊に襲われたり、夫を亡くした者なども含まれる

処女説を重視する世界故の被害者といったところだろう


「そういう町を設けてもいいのかもしれないな」

「そういう町、ですか?」

「傷付いた女性と彼女たちに寄り添う覚悟のある男性の住む町だな」

「確かにうちの若いのにも数名、自分たちは娼館に行くのに、女性だけに処女説を押し付けるのはおかしいという者がいますね」

もっともな意見に反論できなかったという


「それに事故などで傷を負った女性も肩身の狭い思いをしていると聞きます。この国は国民性故多少傷があろうと気にしない者の方が多いでしょうが階級の高い貴族の中では…」

カクテュスでは貴族階級が4つ存在している

王族に次ぐ権威を持つ特級が3家、その下に上級が2家ずつで6家、さらに下に中級が3家ずつで18家、そのさらに下に下級が3家ずつで54家、といったピラミッド型で管理されている


「誰にでも幸せになる権利がある。そういう意味では新しい考え方も必要なのかもしれない」

モーヴはオリビエに話を聞いてみたいと思った

少なくとも歌姫の事を嫌悪した様子は無かった

だとしたら彼女たちの元の世界はこことは違う考え方だったことも充分に考えられるのだから


「当主とナルシスの件はもう少し考えるとしよう。騎士を連れ出す際は数人ずつ、ナルシスの牢の前を通って行け」

自分以外の者が少しずつ牢からいなくなる

それをナルシスはどう思うのか

その反応を楽しもうとしてる自身の仕える王を前に、スキットは絶対に怒らせないようにしようと改めて心に誓った


操られていた騎士は魔物狩りの前日から時間を空けながら、2~3人ずつ牢から出されることになった

勿論逃走防止の魔道具が付けられている

最初に出されたのはシルバーの3人だ


「我々だけでしょうか?」

一人が困惑した表情を浮かべながら尋ねた


「そうだ」

先導する騎士は多くを語る気はないようだ


「…お…お前たち!オナグルの護衛だったな!?」

縋るような声に牢の中を見る


「王…!」

「お前たち…俺を助けろ!早くここから出せ!」

開口一番それなのかと先導する騎士は苛立ちを覚えた


「あんたは最後だ。もっとも、フジェ侵略の件が片付いても3国からの処罰が残っているがな」

「どういうことだ?歌姫の事はオナグルが…そうだ、オナグルはどうしてるんだ?!」

初めて思い出したのか焦りをあらわにした


「あんたの愚息は召喚に巻き込まれた者に対して刃を向けた。その意味が理解出来ないようだったがな」

「は?」

「あんたも知ってるように、ソンシティヴュが追い出したオリビエ・グラヨールはフジェの町に居た。その町を襲撃しただけでなくオナグルは切りかかったということだ」

「だから何だというんだ」

「召喚された者は丁重に扱う。この世界での決まり事だ」

「しかし彼女は召喚したのではなく巻き込まれた…」

「それはあんたの都合だ。それとも何か?あんたは同じ立場になった時に“それなら仕方ない”と思えるのか?」

「…」

ナルシスは言葉を飲んだ


「それにだ、オリビエ・グラヨールはクロキュス・トゥルネソルと結婚したことでカクテュスの王族の一員だ。わが国では継承権を放棄しても王族であることは変わらないからな」

「何?!ではあの女に刃を向けたオナグルは…」

青ざめるナルシスはようやく事態を把握したらしい

オリビエに刃を向けたということは国に刃を向けたと同義

国境の小競り合いとは比べ物にならないほどの事案となる


「なによりクロキュス様がお怒りだ。オナグルをこの王都に留め置くのすら嫌悪された」

「…ではオナグルは…私の息子は…」

「とりあえず鉱山に送られた」

「鉱山…王族に何という…」

ナルシスの声は震えていた


「あぁ、ただし、通常の労働より酷だろうがな」

「…息子に、オナグルに何をさせる気だ!?」

「オナグルは失った腕の痛みはそのままに採掘ノルマが課される」

「…どういうことだ?」

「ただでさえ過酷な鉱山での労働にノルマが課されることはまれだと言えばわかるか?やつはそのノルマを達成するまでその日の仕事を終えることは出来ない」

その言葉にはシルバーの3騎士も息を飲んだ

次はわが身かと全身がこわばっていく


「オリビエ様に手を出したことでクロキュス様が大層お怒りでな。その怒りを少しでも収めてもらうための暫定処遇でもある」

「クロキュスにそれだけの権力があるということか?!」

「オリビエ様に関することであれば王に次ぐ権力をお持ちだ。その事は他の2国も同意している」

「そんな…」

流石にそれが何を意味するかくらいは理解できたらしい

「ちなみに、逃亡した歌姫は既に3国で保護している。意志に反してオナグルに好き勝手されたと、それが嫌で逃げ出したと言っているそうだ。まぁ、嫌がっていないなら逃げ出すはずがないがな」

「…」

尤もな言葉にナルシスは黙り込む


「あいつは…息子はまだ生きているのか?」

「毎日地面を這いつくばってるが生きてはいるぞ?そう簡単に殺してやるはずがないだろう」

ニヤリと笑った騎士にナルシスは初めて恐怖を覚えた


「愚息の心配より自分の心配をしたらどうだ?召喚した者を王宮から追い出し、3国に隠した当人であるあんたにはどんな罰が下るんだろうな?」

ニタリと笑いながら言うと騎士は再び歩き出す

去り際牢の中を見るとナルシスは頭を抱えてうずくまっていた


「あんたたちはこっちだ」

さっきまでの雰囲気を一瞬で蹴散らし騎士は言う

強張っていた体が一気に緩んだのは言うまでもない


3人が連れてこられたのは騎士が訓練している場所のようだった

「ここは…」

自分たちに向けられる鋭い視線に背筋が冷える

「説明は後だ。今はこの部屋で待機」

3人を部屋に通し騎士は出て行った

それから少し時間を置きながら2~3人ずつ騎士が同じ部屋に通される

不安からそれぞれに情報を交換するもわかったことと言えば、王の御前を通ってきたことと、いつからか記憶があいまいになっていたということのみだった


「さて、君達で最後だ」

2人を通した男がそう言いながら魔術師と一緒に部屋の中に入った

不安そうにしている騎士達を見回してから男が口を開いた


「俺はソルト、ここの騎士団長で、隣にいるのが魔術師団長のスキットだ」

その自己紹介に部屋に連れてこられた騎士はざわついた


「ここにいる20名はオナグルにより主従契約を結ばれていた」

「主従契約…?」

「まさか、だから記憶が…?」

「そう言うことだ。オナグルに魔封じを掛けたために解除されたんだろう」

スキットは答えるように言った


「主従契約は強力な魔術だ。ここにいる者が自らの意思を持ち続けるのは不可能だったと思われる。しかし、だからと言って無罪放免というわけにはいかん」

「…」

「守るべき者を傷つけた…それは消すことのできない事実だ」

「俺はどう償えば…?」

「守るために騎士になったというのに…!」

戸惑いと後悔、悔しさ、怒り…

様々な感情が見て取れた


「君達の家には既に賠償金の支払い命令が出ている。君たち自身にはこの国で魔物を狩るという罰が与えられた」

「魔物を…?」

「この国では増えすぎないよう、定期的に魔物狩りを行っている。その狩りに同行してもらう。課せられたノルマは100匹、倒した数は最初に聞き取りを行った際に作ったカードで自動で記録される」

「100匹なんて1日では…」

「魔物狩りは週に1度行っている。君たちはここの騎士団の宿舎で寝泊まりし、騎士と共に過ごしてもらう」

「魔物狩りのない日は訓練や町の巡回も行う」

「ノルマを達成したらどうなるのでしょうか?」

そう尋ねたのはシルバーの騎士だった


「それは達成した時点で伝える。ただし、4か月以内に完了しない者に関してはその時点で鉱山送りになると思え」

「4か月で20回の機会がある。単純計算で1回あたり5匹だ。率先して狩ろうとしなければ達成できない数でもあるがな」

「…」

一様に黙り込む騎士たちを前に、ソルトとスキットは顔を見合わせた

見込み無と判断された者は国に返されると決まっているし、5匹と言っても他者と協力したものもカウントされる

でもその情報はあえて伏せた

国に帰りたくないだろうことがわかっているからだ


「君達にはこれから一人ずつ我々のグループに入ってもらう。操られていたとはいえ騎士として許されないことをした者に対する風当たりは、決して優しいものではないだろう」

ソルトの言葉に数人が拳を握りしめた

まともな扱いをされないだろうことも予想できる

同じ騎士だからこそ逆の立場になった騎士の心中は嫌と言う程わかるのだろう


20人はそれぞれのグループリーダーに託された

各グループにはリーダーの他に騎士が8名、魔術師が1名いる

ソンシティヴュの騎士は敵意を持った視線で監視されるような感覚を持った

心を閉ざす者、反抗心を出す者、萎縮して精神を病む者がいる中、真摯に受け止め償うために必死で動く者もいた

その全てをカクテュスの騎士団が品定めするかのように観察する日々が始まった

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