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87.不審点(side:カクテュス)

「で、おかしなこととは?」

騒動から5日後、報告に来た魔術師団長スキットにモーヴが尋ねる


「一部ですが記憶があいまいな騎士がいるようです。亡命したいと思ってはいたがなぜフジェにいたのかが分からないと」

「ふむ…」

モーヴは顔を顰める


「こちらが騎士のリストです。黒丸印のついている30名が記憶の曖昧な者です」

「ナルシスとオナグル、傭兵を入れても総勢250名弱か。残された称号持ちだけとはいえ少ないな?傭兵の方が多いじゃないか」

「はい。攻め入った騎士の9割以上がブロンズランクの家の者でした。半数ほどは騎士としての経験も然程ないと見受けられます」

「ゴールドはおらず、シルバーに関しては記憶があいまいな3名しかいないか…ブロンズの称号は30、その家族から単純計算で2~3名。当主も含めて男手が全て出てきた感じだな」

「記憶が曖昧な30名の内10名は当主もしくは同等の権限を持つ者です」

スキットはリストを見ながら考え込んだモーヴが口を開くのを待つ


***

記憶が曖昧な者

 シルバー単独騎士 3名/3家

 ブロンズ単独騎士 17名/15家

 ブロンズ当主相当 10名/10家


記憶がはっきりしている者

 ブロンズ単独騎士 8名/5家

 操られていた当主の家族 28名/10家

 他傭兵多数

***


「ナルシスのところに行く」

「承知しました」

すぐに動き出したモーヴは案内されるままナルシスの牢の前に立つ


「いい様だな」

「!」

突然かけられた声に顔を上げ声の主、モーヴを睨みつけた


「フジェを襲うと言い出したのはオナグルだな?」

肯定的な質問にナルシスはただ頷いただけだった


「その提案をされたときに何を言われた?」

「…」

「黙秘するのは自由だが、答えなければ自白魔法をかけるだけだぞ?こちらとしては無駄なことは省きたいものだが」

側に控えているスキットをチラリと見ながらそう言った

ナルシスがスキットを見ると“いつでも実行可能だ”とその目が言っているのが分かった


「…従う兵は用意する。俺は壁を破壊してくれればそれでいいと…」

「はっ…実の息子から削岩機扱いされてのこのこついてきたというのか?」

「っ黙れ!」

馬鹿にするように言われたナルシスは体当たりするように格子を掴んでいた


「ゴールドとシルバーはどうした?」

「…身の程をわきまえろと取り合わなかった。王である俺が言ったのにだ!あれは反逆だ!俺は称号持ちに嵌められたんだ!」

叫ぶように言うナルシスを冷めた目で見下ろす


「上が愚かだと国民も大変だな」

「な…」

「愚かな権力者を持ったばかりに他国に亡命する羽目になった。もっとも、その方が幸せかもしれんがな」

「何だと!?」

「事実だろう?この牢にたどり着くまで相当な数の分岐点があったはずだ。一番大きなものは歌姫を召喚し、イモーテル・オンシュザに契約を施し監禁するオナグルを放置したこと、そして、召喚に巻き込まれたオリビエ・グラヨールの事を秘匿するだけでなく保護するどころか王都からも追い出したことだろうがな」

「それは!」

「 処刑されたソラセナ・オーティも、既に捕らえられているマチルダ・ロクタビアも、王家の信用を落とすために送られた駒にすぎんだろうに、それにすら気づかなかった王家の愚かなことよ」

「ぐっ…」

「まぁ、自分の別荘を管理する費用を10年間横領されてても気付かん愚か者がトップとなれば、さすがの称号持ちも反乱を起こしたくもなるか?ただ、その方法も愚かとしか言いようがなかったがな」

「黙れ!お前らに何が分かる!」

「分かりたくもないな。自らの目指す国を創る為に独立した初代の王の意志を、これ幸いと、自分たちに都合のいい部分だけを引継ぎ続けた王族など、俺から言わせればただの愚か者だ」

「おのれ…それ以上は許さん!」

「許すも許さんも…その牢の中からどうするというのか…いい加減自分の立場を理解して欲しいものだな」

モーヴはそう言うと、喚き続けるナルシスを無視して牢を後にした


「何かおわかりに?」

「おそらく契約だろう。魔封じのおかげで効力が切れた上に記憶があいまいということは主従契約か…」

「なるほど。王族なら魔力量的にも問題ありませんね。防御系の魔道具は数が少ない上に高価と考えればゴールドとシルバーが回避しやすかった理由にも説明がつきます」

スキットが納得したように頷いた


「さてどうしたものか」

「…主従契約であれば本人の意思は皆無ですね」

「そう言うことだ。操られて攻め入ったものをどう裁くべきか」

「意思がなかったとはいえ一般人を狙っています。おとがめなしとはいきません。それに彼らが攻めたのは自国ではない」

「操られていたシルバー3人とブロンズの当主を除いたこの17名の家には、1人当たり1000万シアを賠償として支払わせろ」

「承知しました」

「支払いが完了した家の者は一旦拘束を解いて構わん」

「一旦、ですか?」

「牢に入れている間の方がまともな食生活が出来てしまうからな。称号持ちとしての3国からの処罰は別途相談することになっている」

「なるほど。その間の世話をする謂れはないと」

スキットはおかしそうに笑いながら言った


「そういうことだ。回収した金はフジェに渡してやれ。ソンシティヴュから一番長い間被害を受けていた町だ。タマリなら悪用もしないだろう」

「早急に手配いたします。当の騎士達はいかがいたしますか?」

「…次の魔物狩りは2日後だったか?」

「左様でございます」

「ふむ。騎士団長を呼んでくれ」

側近に伝えるとすぐに騎士団長はやってきた


「鍛錬中にすまんな」

「とんでもありません」

騎士団長ソルトは首を横に振る


「今度の魔物狩りに今捉えている騎士の一部、20名を連れて行けるか?」

「…その意図をお聞かせ頂いても?」

王の指示だからと二つ返事に頷くことはしない

モーヴがソルトを団長にしたのはそれが一番大きな理由だった

この大きな事態でも揺るがないそれに、心の中で喜ばしいものだと思うも表には出さない


「主従契約で操られていたとみられる20名だ。一族の者には賠償金を支払わせるが、当人におとがめなしとはいかないだろう?」

「操られていた者に共通点のようなものは?」

相変わらずいい目の付け所だとモーヴは感心したようにつぶやいた


「状況から考えてオナグルは当主を操ろうとしたはずだ。実際ブロンズ30家のうち10家が当主もしくは当主相当の者が操られている」

「では当主ではなく騎士自身が操られたということは…」

ソルトは少し考え込むような素振りを見せた


「当主は防御の魔道具を持っていたが、魔物と対峙する息子には持たせなかったということだな」

「つまりあの国の風習を踏まえて考えれば、家の習わしや当主命令ではなく、自らの意思で騎士を志願した者の可能性が高いと?」

「亡命者の受け入れで騎士が不足していると言っていただろう?」

「それは…しかしだからと言って…!」

ソルトが反論しかけたのをモーヴは遮った


「何もすべて受け入れろと言っているわけではない。魔物狩りで見極めろと言っている」

「!」

「各グループに1人ずつ放り込んでその人となり、適性を見極めてみても損はないと思うが?」

モーヴはそう言いながらニヤリと笑う


「それに、もし魔物と対峙した場面で取り繕うような器用な芸当ができる者がいるなら、それこそ別の使い道もあろう?」

「元々否定感情を持った我々が認める者がいるかは定かではありませんが…」

「その中で認めれるなら即戦力だ。素人を一から育てるより有益だな。なに、認められなければ国に返すだけでこっちには何のデメリットもない」

「承知しました。皆にもそのように」

ソルトは頷いた

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